姉弟

美里

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 帰ろうか。
 なぜ、と訊かれると、答える言葉はなかった。ただ、帰りたいと思っただけだ。
 帰って、部屋の電気を消して、カーテンを引き、暗くした中でじっと布団にくるまっていたい気分だった。
 これ以上、疲れたくない。
 疲れたから眠ろう、ではなく、疲れたから死のう、となってしまう自分の思考回路を、シュンは理解していた。
 だからといって、そんなに死ぬのが嫌なのかと言われればそんなこともない。別に、惜しんでくれる人がいるでもない。
 それでもシュンにとって、死はとても恐ろしいものなのだ。
 真っ黒になって、一切の光を失った妹たちの瞳。あの底にあるのが、死。
 「探しましょうよ。」
 健少年が、シュンの肩をきつく抱いたまま言う。
 「ここまで来たんだから、探しましょう。……行きたい場所って、言ってましたよね?」
 行きたい場所。
 確かに言った。でも、もう探す気力はなかった。
 「……気力がないんだ。疲れたよ。」
 誰かに操られている人形みたいにシュンが呟くと、健少年はしばしの沈黙の後、小さく頷いた。
 「だったら、俺が探してきます。シュンさんはどっかで待っててください。さっきの喫茶店ででも。」
 なぜだ、と思った。
 なぜ、この少年はそこまでして公園を探し出そうとするのか。彼にはなんの関係もない場所なのに。
 「……なんで、そんなに探したいの?」
 声が上手く出なかった。ぎすぎすと喉の奥でかすれた。
 その声を聞いた少年は、困ったように少し眉根を寄せて、少し笑った。
 「だって、シュンさんが行きたいって言ったから。」
 それだけの理由ですよ、と、彼は微笑んだままの唇で言った。
 シュンは、答える言葉が見つからず、黙ってしまった。
 健少年は、黙り込んだままのシュンの腕を取って立ち上がらせると、行きましょう、とその腕を引き、商店街の方へ出ていこうとした。シュンを、朝食をとった喫茶店まで連れて行こうとしているらしい。
 シュンは、迷った。
 一番楽なのは、このまま少年を無理に説得して電車に乗り込み、美沙子の部屋に帰ることだ。次点で、彼の言う通りに喫茶店で彼を待つこと。そして一番疲れるし面倒のは、彼と一緒に公園を探して歩き回ること。
 迷って、迷って、迷った末に、シュンは少年に掴まれていた腕をほどいた。
 「……ごめん。探すよ、公園。」
 一番疲れるし。面倒なやり方を選択した理由は簡単だった。
 健少年が本気だから。背中を見ているだけでも分かるくらに、本気だからだ。
 
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