姉弟

美里

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 手を繋いだ、というよりは、手を引かれた。
 健少年の手はシュンとあまり大きさが変わらない。この子はそのうち、ぐんと背が伸びるのだろう。
 シュンはそんなことを思いながら、健少年に手を引かれるまま、公園を探して歩き回った。
 「なにか目印しとか覚えてないんですか?」
 「……アパートから子供の足で10分くらい。……大きいすべり台があって、よくそれで遊んだよ。」
 「……子供の足で10分なら、近いですよね、きっと。」
 「……そうだね。」
 曖昧に言葉をかわしながら、二人はあてもなく歩いた。 
 アパートから10分間くらい一本の道を歩き、公園が見つからなかったらまたスタート地点に戻る。
 それをただひたすら繰り返した。
 「シュンさんって、どんな子供だったんですか?」
 「……普通だよ。学校には行ってなかったから、他の子供と比べてどうとか、そういうのはよく分からないけど。」
 「行ってなかったんですか、学校。」
 「うん。戸籍がなかったから、学校行けなかった。」
 「戸籍が、ない?」
 「母親が、出生届とか出してないんだよね。妹たちもそう。だから、妹が死んでもニュースになったりしなかったし。」
 「え、じゃあ、妹さんたちは……、」
 「出生届が出てないんだから、火葬なんかできないでしょ。……多分、母親がどっかに始末したんだと思うよ。俺は、よく知らない。その頃は母親の恋人と暮らしてたし。」
 「母親の恋人……?」
 「そう。俺の父親ではなかったみたい。」
 そんな会話をしていると、健少年は黙り込んでしまった。情報量が多すぎてショートしてしまったのかな、と思ったシュンが口を閉じると、健少年はぎゅっとシュンの手を握った。
 「辛かったんですね。」
 ぽつんと、ひとこと。
 シュンは一瞬、それが自分に向けられた言葉だと分からずに、きょとんとしてしまった。
 辛かった、のだろうか。
 ……そうかもしれない。自分はずっと、辛い思いをしていたのかもしれない。
 辛い少年時代を送ってきたのかもしれない。
 すとん、と、腑に落ちたような感じだった。
 「……そうだね。俺は、辛かったのかもしれない。」
 妙に感慨深くシュンが言うと、半歩前を歩いている健少年が彼を振り返り、そうですよ、と、力強く言った。
 なにを知っているのだ、と、反抗的な気持ちが起こるかと思ったけれど、そんなことはなかった。
 ただ、シュンは、辛かった自分の少年時代を思って、祈るように一瞬目を閉じた。
 
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