姉弟

美里

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 美沙子の部屋に戻ってきたシュンは、酒が飲みたい、と思った。
 今日あったことをすべて忘れるくらい、それこそ血を吐くほど痛飲したいと。
 けれど、この部屋には健少年がいる。肩が触れ合う距離に座った健少年は、帰りがけに買ってきた惣菜を、鼻歌交じりにローテーブルに広げていた。
 飲んだら、抱いてしまう。
 確信があった。
 彼に触れたいと思う気持ちがあって、たかが肉体の接触だけで、彼の全てに触れられる気になるなという気持ちもあって、それでもやはり、触れたいと思ってしまうのは、多分、恋なのだろう。随分と、ひねくれた形をした。
 美沙子が小分けにして冷凍している米を、健少年が電子レンジで温めている間、シュンはただじっとソファに座っていた。
 それは、躾のいい犬みたいに。
 本当に、躾のいい犬になれたら良かった。本当のところは、躾の悪い人間なんだから参ってしまう。
 近所のスーパーマーケットで、できたてだったコロッケやメンチカツは、ほくほくと湯気を立てている。
シュンはその湯気を眺めながら、一人頬杖をついている。
 「シュンさん?」
 飯の盛られた茶碗を両手に持って戻ってきた健少年が、こくりと首を傾げる。
 「腹、減ってないんですか?」
 いや、減ってるよ、と、シュンは答えた。
 腹は減っている。今日は昼飯を食べていないのだから、当たり前だ。
 それなのにいまいち目の前の食品たちに食指が動かないのは、どうしても明日のことを考えてしまうからだろう。
 明日、美沙子が戻ってくる。
 そして、健少年はいなくなるのだろう。
 はい、どうぞ、と差し出された茶碗を受け取りながら、いっそ抱いてしまおうか、と思う。
 どうせ明日からはもう合うこともない間柄だ。だったら、抱いてしまおうか。この、発展途上の身体を。
 いただきます、と律儀に手を合わせてから、健少年がむしゃむしゃとコロッケを食い始める。
 その勢いは、見ていて気持ちが良いほどだった。
 シュンも彼にならい、メンチカツを米に乗せて頬張る。
 食事が終わったら、と、シュンは半ば怯えるように思う。
 食事が終わったら、することがなくなってしまう。まだ眠るには随分と早い時間だ。夜は青い色をして、全然浅い。
 そうしたら、多分自分は隣に座る少年の肩だか膝だかに手を伸ばすだろう。きっと少年は、抵抗しない。
 そうしたら……、 
 「シュンさん?」
 食事の手が止まっていた。健少年が、心配そうにシュンの顔を覗き込む。
 「なんでもないよ。」
 間髪いれずにシュンは言った。それは、あまりにも反応が早すぎて、逆に怪しいくらいだった。
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