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恭弥
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お前、俺とやりたいの。
冗談のつもりで口にした言葉だった。なにも知らないくせに、話を聞く、などと言い出した蒼大に対する憂さ晴らしみたいに。どうせ蒼大はすぐに勢いよく否定するだろうと。それなのに、こちらを振り返った不自然な姿勢のまま、蒼大はじっと固まっている。その唇は硬く引き結ばれて、なんの言葉も生まない。その両目は、どことなく怯えたみたいな色すら宿してこちらを見ている。
「……。」
「……。」
ふたり分の、喉を焼くような沈黙。恭弥は自分の言葉を後悔しているのに、意地になって、それを撤回することができない。
「……そんなに迷惑なら、取り消すから。」
沈黙を破り、ごく低い声で、蒼大が言った。
「俺があんたのこと好きってこと、取り消す。なかったことにする。」
なにを言っているんだ、と思った。そもそも蒼大は一度も、恭弥を好きだなんて言ってきたことはない。言い出したのはあくまでも恭弥だ。それに、恋情はそんなに簡単になかったことになんてできないと、恭弥は知っていた。嫌というほど。だから、こんなことを言わせるほどに俺はこいつを追い詰めたのか、と思うと、ぐっと胸が重たくなった。
いつから、なぜ、この少年に自分が好かれだしたのか、恭弥には分からない。ただ、家庭教師のバイトをはじめ、ふたりきりで週に一度顔を合わせるようになってみると、やけに蒼大が緊張していることに気が付いた。はじめは、久しぶりに会うからだろう、と思っていたのだけれど、時間を重ねても蒼大の緊張が解けることはなかった。なんならその強さを増していっているようにすら見えた。それで、多分好かれている、と、自覚はした。なんでだか理由は分からないままだったけれど。
「……冗談。俺が悪かったわ。」
ぽん、と、年下の幼馴染の、まだ薄い肩を叩く。
汚いことをしている。俺はこのこどもに嫌われるのが怖いのだ。
お前はいつまで俺のこと好きでいるんだろうな。
本気だった。本気で疑問だったし、答えがあるなら教えてほしかった。まるでこちらを振り向いてはくれないおんなを追いかけているうちに、ひとりが怖くなった。全く誰からも好かれずに孤独でいることに、耐えられそうもなくなった。
「……うん。」
こくりと、蒼大が頷く。まだ警戒しているみたいな、硬い肩の線をして。
この少年を、不当に傷つけている。分かっている。分かっていて、自己嫌悪だってある。それなのに今は、そうしていないと、彼に思われて優位に立っていると確信していないと、自分が保てなくなりそうだった。
冗談のつもりで口にした言葉だった。なにも知らないくせに、話を聞く、などと言い出した蒼大に対する憂さ晴らしみたいに。どうせ蒼大はすぐに勢いよく否定するだろうと。それなのに、こちらを振り返った不自然な姿勢のまま、蒼大はじっと固まっている。その唇は硬く引き結ばれて、なんの言葉も生まない。その両目は、どことなく怯えたみたいな色すら宿してこちらを見ている。
「……。」
「……。」
ふたり分の、喉を焼くような沈黙。恭弥は自分の言葉を後悔しているのに、意地になって、それを撤回することができない。
「……そんなに迷惑なら、取り消すから。」
沈黙を破り、ごく低い声で、蒼大が言った。
「俺があんたのこと好きってこと、取り消す。なかったことにする。」
なにを言っているんだ、と思った。そもそも蒼大は一度も、恭弥を好きだなんて言ってきたことはない。言い出したのはあくまでも恭弥だ。それに、恋情はそんなに簡単になかったことになんてできないと、恭弥は知っていた。嫌というほど。だから、こんなことを言わせるほどに俺はこいつを追い詰めたのか、と思うと、ぐっと胸が重たくなった。
いつから、なぜ、この少年に自分が好かれだしたのか、恭弥には分からない。ただ、家庭教師のバイトをはじめ、ふたりきりで週に一度顔を合わせるようになってみると、やけに蒼大が緊張していることに気が付いた。はじめは、久しぶりに会うからだろう、と思っていたのだけれど、時間を重ねても蒼大の緊張が解けることはなかった。なんならその強さを増していっているようにすら見えた。それで、多分好かれている、と、自覚はした。なんでだか理由は分からないままだったけれど。
「……冗談。俺が悪かったわ。」
ぽん、と、年下の幼馴染の、まだ薄い肩を叩く。
汚いことをしている。俺はこのこどもに嫌われるのが怖いのだ。
お前はいつまで俺のこと好きでいるんだろうな。
本気だった。本気で疑問だったし、答えがあるなら教えてほしかった。まるでこちらを振り向いてはくれないおんなを追いかけているうちに、ひとりが怖くなった。全く誰からも好かれずに孤独でいることに、耐えられそうもなくなった。
「……うん。」
こくりと、蒼大が頷く。まだ警戒しているみたいな、硬い肩の線をして。
この少年を、不当に傷つけている。分かっている。分かっていて、自己嫌悪だってある。それなのに今は、そうしていないと、彼に思われて優位に立っていると確信していないと、自分が保てなくなりそうだった。
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