これで恋ならするんじゃなかった

美里

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恭弥

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 本当についてくるとは思わなかった。
 恭弥はそう思ったのだけれど、それが自分の真意なのかは、はっきりとは分からなかった。だって、本当についてくるとは思わなかったならば、わざわざ蒼大の高校になんて行く意味がない。
 こいつなら、ついてくるかもしれない。
 そんな意識が、結局はあったのだろう。
 涼音は、ついてこなかった。泣きじゃくる彼女をキスひとつしないで宥め、うつくしい友情を本気で信じているのであろう彼女の幻想を破らないように努め、完全に友愛から出た台詞にしか聞こえないように、言ったのだ。細心の注意を払って。
 『彼氏とは別れて、俺と来いよ。』
 どこに行くかなんて、決めてはいなかった。これまで、長い旅に出たことだってない。友人との三泊四日が関の山だ。でも、どこかに旅立たねば、いるところがなかった。この部屋には、涼音の男との記憶が多すぎるし、恭弥は実家暮らしだから、涼音を連れていけるはずもない。だから、どこかに行こうとした。
 けれど涼音は、躊躇いもせずに首を横に振ったのだ。
 『行けない。』
 その後続けて彼女は、これ以上恭弥に迷惑かけれない、と言ったけれど、それが本心ではないことくらいは、恭弥にもすぐ分かった。
 彼女は、男を思い切れていないのだ。
 黙ったまま、彼女は恭弥の肩に額を押し付けて、ありがとう、と囁いた。完璧に恭弥との友情を信じている口調だった。そこにはわずかな疑いすらなかった。そのことが、恭弥の胸を深く抉った。
 そっか、じゃあな。
 そう言って、ようやく落ち着いた様子の彼女の乱れた髪を整えてやり、恭弥はひとりでアパートを出た。そのときは普通に、家に帰るつもりだったのだ。どこに行くつもりもない。そもそも、恭弥はどこにも行けない。多分この世には、どこまででも行ける人間と、どこにも行けない人間がいて、恭弥ははっきりと後者なのだ。身軽さも、自信もなくて。
 じりじりと太陽が照りつける住宅街を抜け、10分も歩けば家につく。足はたどり慣れた道をほとんど自動で動いた。それなのに、途中でその自動装置が狂った。気が付くと、家の前ではなくて、駅の前に立っていた。しかもそこまで来ても自動装置は停止せず、勝手に改札をくぐり、電車に乗り込み、5駅目で電車を降り、駅から20分はかかる真っ直ぐな道をひたすら歩き続けていた。そうしてたどり着いたのが、蒼大が通う高校の前だった。自分でも、自分がなんでここにいるのかが分からなかった。それで、呆然と突っ立っていると、蒼大がおんな連れで歩いてきた。そこからも、自分がなにをしてなにを言ったのか、記憶はあまりない。ただ、背中を炙る太陽の熱だけを感じていた。
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