これで恋ならするんじゃなかった

美里

文字の大きさ
1 / 19

蒼大

しおりを挟む
 「お前は、いつまで俺のこと好きでいるんだろうな。」
 そんなことを言われた。確かに、好きなひとだった。一度も口にしたことはないけれど、蒼大の気持ちなんてだだ漏れで、ずっと普通に恭弥には、好かれている、という意識があったのだろう。
 「……。」
 ずっとだよ、とは、言えなかった。悔しかったということもある。恭弥が、男で、しかも五つ年下の子どもである蒼大になんて、まるで振り向いてくれないことは分かっていたから。そして、自分の気持ちが分からなかった、ということもある。蒼大は今、高校一年生だ。自分の若さは、自分で分かっている。その若さにおされて、気持ちがころころ変わることも。
 「参考書、開け。」
 感傷的なことを口にした自分をすっかり忘れたみたいに、恭弥がそっけなく言って、蒼大の前に置かれた分厚い参考書を、指示棒代わりの30センチ定規で叩く。恭弥は蒼大の幼馴染で、現在は家庭教師でもあった。
 もっと、好きだの嫌いだのの話しがしたい。具体的には、あんたが大好きな涼音さんとどうなったのかを知りたい。
 蒼大はそう思ったのだけれど、もちろん口には出せず、古文の参考書を開いた。
 「じゃあ、こっからここまで訳して。」
 また透明な30センチ定規が参考書の上を滑る。蒼大は大人しくノートを取出し、指示された範囲の現代語訳を始めた。その間恭弥は、蒼大の勉強机の隣に置かれた椅子に深く腰を下し、窓の外を眺めてぼうっとしている。彼は全く、いい先生ではなかった。古文なんか日本語なんだから普通に読める、なんて言って、ろくに教えてもくれない。彼自身が非常に優秀なので、多分本気でそう思っていて、古文なんて異世界の言語だと思っている蒼大のことが理解できないのだろう。
 かりかりと、シャープペンシルをノートに走らせながら、蒼大は方丈記の世界とはまるで違うことを考えている。
 このひとを好きになったのは、いつの頃からだっただろうか。
 五歳の歳の差があったから、対等に遊んでいる、というよりは、後をてちてちついてくる蒼大の面倒を、恭弥が渋々見ていた、という感じの幼少期を過ごした。その関係も、恭弥が中学に上がって、部活やら勉強やらで忙しくなったので疎遠になった。その頃の自分の感情を思い出そうとしても、全然上手くいかない。もう手を引いて公園に連れて行ってはくれなくなった幼馴染を、兄貴みたいに単純に慕っていた気もするし、手を引く以外の接触を内心で求めていたような、そんな気もする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...