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全身の血が凍りついたみたいに、ぐんぐん手足が冷えていった。お母さんは、体調が悪くて、店長さんに送ってもらって帰ってくる。情報はそれだけ。それだけなのに、なぜだか私の頭の中では、お父さんのお葬式の場面が途切れ途切れに思い出されていた。
私はそのときまだ7歳だったから、記憶は完全なものではない。死というものから、お母さんと悠ちゃんの手で、慎重に遠ざけられていたようにも思う。それでも覚えているのは、棺桶の中で花に囲まれていた、お父さんの顔の冷たさと、棺桶が釘付けさせた瞬間の、不可逆的な絶望感。
「……悠ちゃん、お母さん、死んじゃうの?」
自分でも、あまりに唐突なことを言っている自覚はあった。それでも、肩を抱く悠ちゃんに縋るみたいにして、私はぎこちなく唇を動かさずにはいられなかった。
「馬鹿言うな。咲子さんはちょっと疲れただけだよ。」
悠ちゃんはそう言って、私の髪を撫でる。そして、微かに唇を笑わせ、もう一緒に寝るわけにもいかないから、どうにか落ち着いてくれ、と呟いた。悠ちゃんの言葉も、やっぱりどこかぎこちなかった。抱えているものは、私も悠ちゃんも同じか、物心がしっかりついていた分、悠ちゃんの方がトラウマは深かったかもしれない。それに気が付いた私は、ごめん、と、口走っていた。
「なにが。」
悠ちゃんは、あっさりそう言うと、私の髪を撫でながら、大丈夫、と微笑んでくれた。
悠ちゃんの方がきっと辛いのに、私ばかり取り乱してごめん。
口には出せなかった。出せば出しただけ、悠ちゃんに重いものを背負わせてしまう気がした。失ったものの数だって、きっと悠ちゃんの方が多いのに。
じっと寄り添って、それから私と悠ちゃんは黙り込んでいた。沈黙は重たくても、冷たくはなかった。そして、どれだけ時間が経ったのか、多分それほど長い時間ではなかったのだと思うのだけれど、玄関のチャイムが鳴った。
「行こう。」
悠ちゃんが、私の肩を抱いたまま立ちあがった。私も悠ちゃんにくっついて、玄関に向かった。悠ちゃんがドアを開けると、そこにお母さんが立っていた。ぐったりとしていて、肩を店長さんに支えられている。
「お母さん!」
「咲子さん。」
私と悠ちゃんが同時に呼びかけると、お母さんは、吐き気をこらえるみたいに俯いていた顔を上げ、小さく唇の端を釣り上げて見せた。その顔色は、お化粧の上からでも分かるくらいの青白い。
「ただいま。心配かけてごめんね。」
私はそのときまだ7歳だったから、記憶は完全なものではない。死というものから、お母さんと悠ちゃんの手で、慎重に遠ざけられていたようにも思う。それでも覚えているのは、棺桶の中で花に囲まれていた、お父さんの顔の冷たさと、棺桶が釘付けさせた瞬間の、不可逆的な絶望感。
「……悠ちゃん、お母さん、死んじゃうの?」
自分でも、あまりに唐突なことを言っている自覚はあった。それでも、肩を抱く悠ちゃんに縋るみたいにして、私はぎこちなく唇を動かさずにはいられなかった。
「馬鹿言うな。咲子さんはちょっと疲れただけだよ。」
悠ちゃんはそう言って、私の髪を撫でる。そして、微かに唇を笑わせ、もう一緒に寝るわけにもいかないから、どうにか落ち着いてくれ、と呟いた。悠ちゃんの言葉も、やっぱりどこかぎこちなかった。抱えているものは、私も悠ちゃんも同じか、物心がしっかりついていた分、悠ちゃんの方がトラウマは深かったかもしれない。それに気が付いた私は、ごめん、と、口走っていた。
「なにが。」
悠ちゃんは、あっさりそう言うと、私の髪を撫でながら、大丈夫、と微笑んでくれた。
悠ちゃんの方がきっと辛いのに、私ばかり取り乱してごめん。
口には出せなかった。出せば出しただけ、悠ちゃんに重いものを背負わせてしまう気がした。失ったものの数だって、きっと悠ちゃんの方が多いのに。
じっと寄り添って、それから私と悠ちゃんは黙り込んでいた。沈黙は重たくても、冷たくはなかった。そして、どれだけ時間が経ったのか、多分それほど長い時間ではなかったのだと思うのだけれど、玄関のチャイムが鳴った。
「行こう。」
悠ちゃんが、私の肩を抱いたまま立ちあがった。私も悠ちゃんにくっついて、玄関に向かった。悠ちゃんがドアを開けると、そこにお母さんが立っていた。ぐったりとしていて、肩を店長さんに支えられている。
「お母さん!」
「咲子さん。」
私と悠ちゃんが同時に呼びかけると、お母さんは、吐き気をこらえるみたいに俯いていた顔を上げ、小さく唇の端を釣り上げて見せた。その顔色は、お化粧の上からでも分かるくらいの青白い。
「ただいま。心配かけてごめんね。」
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