観音通りにて・ヒモ

美里

文字の大きさ
11 / 34

11

しおりを挟む
 それから滉青は、美雨の部屋に住みつくことになった。美雨はまず間違いなく、それを望んではいなかった。それでも、行くところがない、と言った滉青を追い出しはしなかった。
 行くところは、本当はいくらでもあった。常に何人かのおんなをキープしておくのが滉青の習性だったし、そもそも美雨に誘われる前は、他のおんなの家に転がり込むつもりでいたのだ。
 それでもそんな嘘をついた理由を、滉青はただ、面倒だったから、と、自分に言い聞かせた。適当なおんなを探すのが、なんだか今は、面倒なだけ。そう何度も何度も言い聞かせたから、函崎について、美雨に訊くことなんかはできなくなった。函崎に興味があるからここにいるなんて、認めるわけにはいかないと思うのは、おんなたらしのヒモとしての、なけなしのプライドだった。些細なプライドだとも思うけれど、そのプライドさえ捨ててしまったら、もう自分の形を保っていられなくなるような気もしていた。
 美雨は、これまでの宿主とは少し違っていた。それはそうだろう。彼女は滉青を好きなわけでもないし、滉青を引き留めておきたいわけでもない。貢いだり、世話を焼いたり、わがままを言ったり、身体を求めたり、そんなことをする意味がない。ただ彼女は、夕方観音通りに出かけ、朝方帰ってきて眠り、昼ごろ起き出してはスーパーの惣菜を食べ、夕方観音通りに出かけた。滉青は、観音通りに出かけて行く美雨を見送り、朝方まで眠り、起きだした美雨とともに食事をとり、夕方美雨を見送ってまた眠った。
 食事は、いつも床の上に直接惣菜のパックを置いて行われた。それが嫌になったわけでもないのだが、唐突に思い立った滉青は、美雨が観音通りに出かけた後、部屋着のスウェットのままで、近所のリサイクルショップに行ってみた。店をのぞいてみると、丁度いい、シンプルで部屋の邪魔にならないような、白いテーブルがあったので、それを買って帰った。部屋の真ん中にテーブルを置いてみると、食器があればもっといいのに、という気になってきたので、今度は百円ショップに行って、少しの食器とクッションを二つ買った。それらを部屋にセットしてみると、なんだか満足な心持になって、滉青は何度か頷いた。そして、床に直接物を置いて食べるのは、自分が幼い頃の生活と同じだったのだな、と、ふと思い出した。暴力をふるう父から逃げ出した母は、家具も買えなかったので、床に直接惣菜のパックを置いて滉青に食べさせた。
 別に、それを思い出してテーブル類を買ったわけではない、と、滉青は思う。実際、それを思い出したのは、テーブルも食器もクッションも揃え終わって、その後のことだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...