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函崎は、しばらく長い睫を伏せて、黙ってその場に立っていたのだけれど、ふと気が付いたように、濡れた滉青の肩に目をやった。
「傘は?」
「あ、」
傘は、雑貨店で会計をしたときにレジカウンターに立てかけ、そのまま忘れて来ていた。
滉青がそう言って、雑貨店に戻ろうとする前に、函崎が、被せるようにやや早口で言葉を発した。
「ないの? 部屋まで送るよ。」
滉青は当然、一度会っただけの函崎のことなんてなにも知らない。それでも、その間を詰めるような物言いや、やや急いた口調は、函崎らしくないような気がした。
平気です、と、滉青が口にする前に、函崎が一歩近づいて、傘をさしかけてきた。ぽつぽつと、雨が傘を叩く音が耳を打つけれど、それよりも滉青は、触れ合った肩先に意識を持っていかれた。この前会ったときは、もっとずっと近く、身体の粘膜の奥の奥まで触れあった。それでも、それよりも今の方が、函崎に触れているような気がするのは、なぜだろうか。スーツとTシャツの布地越しでは、お互いの体温すら全く伝わらないのに。
それは多分、函崎は動揺しているから。やや早口になった声の向こうに、函崎の感情が透けて見えるような気がするから。滉青は、そう思った。
透けて見える感情だって、滉青にはまるで向いていなくて、ただ美雨に向けてのものだとは、ちゃんと分かっているのだけれど。
「行こう。」
函崎が、滉青の手首に指をかけて軽く引いた。その指先は、繊細に細く、陶器の人形みたいに冷たい。滉青は、それだけの動作で胸を痛くする自分に、気が付かないわけにはいかなかった。これまでの人生で、数限りないようなおんなや男に触れたし、触れられた。その中で、なぜ函崎の手だけが自分の胸を苦しくするのか、それが滉青には分からない。
函崎は、滉青の手首を引いたまま、観音通りを外れる横道に入って行った。雑貨屋から美雨の住む部屋までは、観音通りをただまっすぐ歩いていけばいいだけなのに、遠回りをして。
今、雨に白い肌を濡らしながら男の袖を引く美雨に、このひとは、会いたくないのだ。
その事実は、ひとつの傘で歩き、これからおそらくセックスする関係よりも、強いなにかを滉青に感じさせた。
「傘は?」
「あ、」
傘は、雑貨店で会計をしたときにレジカウンターに立てかけ、そのまま忘れて来ていた。
滉青がそう言って、雑貨店に戻ろうとする前に、函崎が、被せるようにやや早口で言葉を発した。
「ないの? 部屋まで送るよ。」
滉青は当然、一度会っただけの函崎のことなんてなにも知らない。それでも、その間を詰めるような物言いや、やや急いた口調は、函崎らしくないような気がした。
平気です、と、滉青が口にする前に、函崎が一歩近づいて、傘をさしかけてきた。ぽつぽつと、雨が傘を叩く音が耳を打つけれど、それよりも滉青は、触れ合った肩先に意識を持っていかれた。この前会ったときは、もっとずっと近く、身体の粘膜の奥の奥まで触れあった。それでも、それよりも今の方が、函崎に触れているような気がするのは、なぜだろうか。スーツとTシャツの布地越しでは、お互いの体温すら全く伝わらないのに。
それは多分、函崎は動揺しているから。やや早口になった声の向こうに、函崎の感情が透けて見えるような気がするから。滉青は、そう思った。
透けて見える感情だって、滉青にはまるで向いていなくて、ただ美雨に向けてのものだとは、ちゃんと分かっているのだけれど。
「行こう。」
函崎が、滉青の手首に指をかけて軽く引いた。その指先は、繊細に細く、陶器の人形みたいに冷たい。滉青は、それだけの動作で胸を痛くする自分に、気が付かないわけにはいかなかった。これまでの人生で、数限りないようなおんなや男に触れたし、触れられた。その中で、なぜ函崎の手だけが自分の胸を苦しくするのか、それが滉青には分からない。
函崎は、滉青の手首を引いたまま、観音通りを外れる横道に入って行った。雑貨屋から美雨の住む部屋までは、観音通りをただまっすぐ歩いていけばいいだけなのに、遠回りをして。
今、雨に白い肌を濡らしながら男の袖を引く美雨に、このひとは、会いたくないのだ。
その事実は、ひとつの傘で歩き、これからおそらくセックスする関係よりも、強いなにかを滉青に感じさせた。
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