三親等

美里

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 結局、私は船井くんとキスはしなかった。日曜日のデートも取りやめた。そしてその代わりに、諒ちゃんと家の近くの小さな山までハイキングに行った。山までは、徒歩20分。幼稚園の遠足でも登ったような、本当に小さな山だ。
 私は諒ちゃんに、昨日のことは言わなかった。不服はあった。諒ちゃんに、適切な返事をしてもらえなかったことや、厄介な子どもみたいに扱われたことへの。でも、それについては昨日、諒ちゃんも謝ってくれたのだし、と、自分に言い聞かせた。
 20分、私たちはほとんど会話もなく歩いた。諒ちゃんは、細く口笛を吹いていた。もうすぐ夏が来る。そんな匂いのする、緑色の風が吹いていた。
 デート、行かなくていいの。
 そんなことさえ、諒ちゃんは訊いてくれなかった。ただ、昨日私がオムライスを食べ終わり、家に帰ろうと支度をしていると、久しぶりに山、行こうか、と、そう言っただけで。明日がいい、と言ったのは、私だ。諒ちゃんは多分、日曜日のデートの代わりに、なんて意味で私を誘ったわけじゃない。分かってる。
 私が子供だった頃、諒ちゃんとよく山に行った。小さかった私が疲れると、諒ちゃんは私を肩に担いで山に登ってくれた。私はそれが嬉しくて、わざと疲れたふりなんかした。でも今はもう、諒ちゃんは私を担いでくれたりはしない。もちろん。
 舗装路が切れて、山道に入る手前で、一歩前を歩いていた諒ちゃんが私を振り向いた。私は黙って、諒ちゃんの目を見返した。
 どうにもならない、沈黙があった。ほんとうに信じられないことだけれど、諒ちゃんに担がれて山を登っていた小さなころには、もう戻れない。
 お互い言葉を探しあぐねるような間の後、諒ちゃんはまた細く口笛を吹いて、一歩前を歩きだした。
 いい天気だった。山の緑は目に痛いくらいで、さわさわと木々の葉が風に揺れる音と、諒ちゃんの口笛だけがその風景の中を流れていた。山のてっぺんにある休憩スペースまでは、徒歩30分。私たちは、やっぱりなにも喋らなかった。
 休憩スペースには、焦げ茶色のベンチとテーブルが3セット置かれている。諒ちゃんがそのうちの一つに座ったので、私は少し迷ってから、諒ちゃんの向かいに腰を下した。私たち以外にそこを使っている人はいなかったけれど、わざわざ別の組を使うのも子どもっぽいふるまいだと思ったし、別に私たちは喧嘩をしたわけでもないのに、喧嘩をしているみたいなことになってしまうのも嫌だった。
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