7 / 17
7
しおりを挟む
結局、私は船井くんとキスはしなかった。日曜日のデートも取りやめた。そしてその代わりに、諒ちゃんと家の近くの小さな山までハイキングに行った。山までは、徒歩20分。幼稚園の遠足でも登ったような、本当に小さな山だ。
私は諒ちゃんに、昨日のことは言わなかった。不服はあった。諒ちゃんに、適切な返事をしてもらえなかったことや、厄介な子どもみたいに扱われたことへの。でも、それについては昨日、諒ちゃんも謝ってくれたのだし、と、自分に言い聞かせた。
20分、私たちはほとんど会話もなく歩いた。諒ちゃんは、細く口笛を吹いていた。もうすぐ夏が来る。そんな匂いのする、緑色の風が吹いていた。
デート、行かなくていいの。
そんなことさえ、諒ちゃんは訊いてくれなかった。ただ、昨日私がオムライスを食べ終わり、家に帰ろうと支度をしていると、久しぶりに山、行こうか、と、そう言っただけで。明日がいい、と言ったのは、私だ。諒ちゃんは多分、日曜日のデートの代わりに、なんて意味で私を誘ったわけじゃない。分かってる。
私が子供だった頃、諒ちゃんとよく山に行った。小さかった私が疲れると、諒ちゃんは私を肩に担いで山に登ってくれた。私はそれが嬉しくて、わざと疲れたふりなんかした。でも今はもう、諒ちゃんは私を担いでくれたりはしない。もちろん。
舗装路が切れて、山道に入る手前で、一歩前を歩いていた諒ちゃんが私を振り向いた。私は黙って、諒ちゃんの目を見返した。
どうにもならない、沈黙があった。ほんとうに信じられないことだけれど、諒ちゃんに担がれて山を登っていた小さなころには、もう戻れない。
お互い言葉を探しあぐねるような間の後、諒ちゃんはまた細く口笛を吹いて、一歩前を歩きだした。
いい天気だった。山の緑は目に痛いくらいで、さわさわと木々の葉が風に揺れる音と、諒ちゃんの口笛だけがその風景の中を流れていた。山のてっぺんにある休憩スペースまでは、徒歩30分。私たちは、やっぱりなにも喋らなかった。
休憩スペースには、焦げ茶色のベンチとテーブルが3セット置かれている。諒ちゃんがそのうちの一つに座ったので、私は少し迷ってから、諒ちゃんの向かいに腰を下した。私たち以外にそこを使っている人はいなかったけれど、わざわざ別の組を使うのも子どもっぽいふるまいだと思ったし、別に私たちは喧嘩をしたわけでもないのに、喧嘩をしているみたいなことになってしまうのも嫌だった。
私は諒ちゃんに、昨日のことは言わなかった。不服はあった。諒ちゃんに、適切な返事をしてもらえなかったことや、厄介な子どもみたいに扱われたことへの。でも、それについては昨日、諒ちゃんも謝ってくれたのだし、と、自分に言い聞かせた。
20分、私たちはほとんど会話もなく歩いた。諒ちゃんは、細く口笛を吹いていた。もうすぐ夏が来る。そんな匂いのする、緑色の風が吹いていた。
デート、行かなくていいの。
そんなことさえ、諒ちゃんは訊いてくれなかった。ただ、昨日私がオムライスを食べ終わり、家に帰ろうと支度をしていると、久しぶりに山、行こうか、と、そう言っただけで。明日がいい、と言ったのは、私だ。諒ちゃんは多分、日曜日のデートの代わりに、なんて意味で私を誘ったわけじゃない。分かってる。
私が子供だった頃、諒ちゃんとよく山に行った。小さかった私が疲れると、諒ちゃんは私を肩に担いで山に登ってくれた。私はそれが嬉しくて、わざと疲れたふりなんかした。でも今はもう、諒ちゃんは私を担いでくれたりはしない。もちろん。
舗装路が切れて、山道に入る手前で、一歩前を歩いていた諒ちゃんが私を振り向いた。私は黙って、諒ちゃんの目を見返した。
どうにもならない、沈黙があった。ほんとうに信じられないことだけれど、諒ちゃんに担がれて山を登っていた小さなころには、もう戻れない。
お互い言葉を探しあぐねるような間の後、諒ちゃんはまた細く口笛を吹いて、一歩前を歩きだした。
いい天気だった。山の緑は目に痛いくらいで、さわさわと木々の葉が風に揺れる音と、諒ちゃんの口笛だけがその風景の中を流れていた。山のてっぺんにある休憩スペースまでは、徒歩30分。私たちは、やっぱりなにも喋らなかった。
休憩スペースには、焦げ茶色のベンチとテーブルが3セット置かれている。諒ちゃんがそのうちの一つに座ったので、私は少し迷ってから、諒ちゃんの向かいに腰を下した。私たち以外にそこを使っている人はいなかったけれど、わざわざ別の組を使うのも子どもっぽいふるまいだと思ったし、別に私たちは喧嘩をしたわけでもないのに、喧嘩をしているみたいなことになってしまうのも嫌だった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる