15 / 18
4
しおりを挟む
夢菜は手の甲でぐいりと涙を拭うと、黙って部屋を出ていった。煙草を吸いに行ったのだろうか。自分の失恋でもないのに?
私は首を傾げ、コウちゃんを見た。コウちゃんは、すいすいと水みたいにビールを干していた。
「……夢菜、どこ行ったのかな?」
「部屋でしょ。煙草吸いに。」
「自分が失恋したわけでもないのに?」
私が訊くと、コウちゃんは軽く眉を寄せた。その表情を見ていた私は、なんだか責められている感じがして、いい気はしなかった。
「なんで夢菜が泣くの?」
さらに問いを重ねると、コウちゃんは今度は私を呆れた目で見てきた。なんでそんな分かりきったことを、とでも言いたげな目だった。
「そりゃ、悲しいからでしょ。」
「でも、夢菜の失恋じゃないのよ。それに、私は泣くほど傷ついてもいないし。」
「蘭子って、案外冷血だよね。」
コウちゃんの目も、表情も、物言いも、私は気にくわなかった。だって、私は悪いことはしていない。失恋したのは私の勝手だし、失恋飲み会を開いたのは夢菜の勝手だ。そこで泣いたのが夢菜の勝手なら、訳が分からず戸惑うのは私の勝手なはずだ。冷血、だなんて言われる筋合いはない。
私は怒りにまかせて、温くなった檸檬サワーを飲み干した。コウちゃんは、目だけで笑って私を見た。なによ、と、私が怒ろうとしたとき、夢菜が戻ってきた。目を赤く泣き腫らして、煙草の匂いと一緒に。
ちょっとふらつきながらテーブルにつき、新しいハイボールの缶を開ける夢菜を見ていると、私はなにも言えなくなってしまった。本当に、私は冷血なのかもしれない、とも思った。
「……俺、帰ろうかな。」
ぽつん、と、コウちゃんが言った。私と夢菜は、一斉にコウちゃんを見た。コウちゃんが、飲み会の途中でそんなことを言いだすのははじめてだった。コウちゃんはいつでも、夢菜に付き合って酒をたらふく飲み、翌日の朝に帰って行く。なのに、どうしたのだろうか。
「なんで?」
そう言ったのは私で、
「邪魔になんか、してないよ。」
そう言ったのは夢菜だった。
邪魔ってなんのこと、と、私は驚いてしまった。なんというか、私たちの間には、そんな単語なんてないだろう、と思って。
コウちゃんは、私と夢菜を順番に見て、ふわりと目もとを緩めて笑った。そして、嘘嘘、まだまだ飲むよ、と言って、ビールの缶を傾けた。
私は首を傾げ、コウちゃんを見た。コウちゃんは、すいすいと水みたいにビールを干していた。
「……夢菜、どこ行ったのかな?」
「部屋でしょ。煙草吸いに。」
「自分が失恋したわけでもないのに?」
私が訊くと、コウちゃんは軽く眉を寄せた。その表情を見ていた私は、なんだか責められている感じがして、いい気はしなかった。
「なんで夢菜が泣くの?」
さらに問いを重ねると、コウちゃんは今度は私を呆れた目で見てきた。なんでそんな分かりきったことを、とでも言いたげな目だった。
「そりゃ、悲しいからでしょ。」
「でも、夢菜の失恋じゃないのよ。それに、私は泣くほど傷ついてもいないし。」
「蘭子って、案外冷血だよね。」
コウちゃんの目も、表情も、物言いも、私は気にくわなかった。だって、私は悪いことはしていない。失恋したのは私の勝手だし、失恋飲み会を開いたのは夢菜の勝手だ。そこで泣いたのが夢菜の勝手なら、訳が分からず戸惑うのは私の勝手なはずだ。冷血、だなんて言われる筋合いはない。
私は怒りにまかせて、温くなった檸檬サワーを飲み干した。コウちゃんは、目だけで笑って私を見た。なによ、と、私が怒ろうとしたとき、夢菜が戻ってきた。目を赤く泣き腫らして、煙草の匂いと一緒に。
ちょっとふらつきながらテーブルにつき、新しいハイボールの缶を開ける夢菜を見ていると、私はなにも言えなくなってしまった。本当に、私は冷血なのかもしれない、とも思った。
「……俺、帰ろうかな。」
ぽつん、と、コウちゃんが言った。私と夢菜は、一斉にコウちゃんを見た。コウちゃんが、飲み会の途中でそんなことを言いだすのははじめてだった。コウちゃんはいつでも、夢菜に付き合って酒をたらふく飲み、翌日の朝に帰って行く。なのに、どうしたのだろうか。
「なんで?」
そう言ったのは私で、
「邪魔になんか、してないよ。」
そう言ったのは夢菜だった。
邪魔ってなんのこと、と、私は驚いてしまった。なんというか、私たちの間には、そんな単語なんてないだろう、と思って。
コウちゃんは、私と夢菜を順番に見て、ふわりと目もとを緩めて笑った。そして、嘘嘘、まだまだ飲むよ、と言って、ビールの缶を傾けた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる