22 / 25
22
しおりを挟む
黙ってしまった私を、ミシマは憐れむような目で見ていた。自分が欲しいものすら分からないこども。そう思われていたのかもしれないし、事実私は、そうだった。自分が欲しいものすら分からないこども、そのものだった。
欲しいのはミシマ。それは確かなことのはずなのに、ミシマのなにが欲しいのか分からない。心? 身体? 両方含めた全部? でも、全部を背負うのは荷が重すぎる気もした。
ミシマの問いかけに答えられないまま、また居心地の悪い沈黙が数分続いた。耐えかねた私が、今日は帰る、と言いだそうとした瞬間、寝室のドアが開いてルルちゃんが出てきた。いつものと同じ、涼しそうな薄手のワンピース姿のルルちゃんは、両目を赤く腫らしていたけれど、それでもやっぱりかわいかった。
「つきこさん、なにか飲みますよね? ミシマはジントニックでいいでしょ?」
ルルちゃんが、いつもの調子で言いながら、キッチンに入って行く。私も、飲むよ、といつもの感じを意識して返事した。ミシマはなにも言わなかったけれど、それもいつもの通りと言えた。
「はい、つきこさん。」
ピンク色のカクテルを手渡され、私はなんとかルルちゃんに笑い返した。ついさっき、神社の暗闇で私に向けた恋情と涙を、ルルちゃんは寝室での数分間できれいに収めてきたようだった。
「はい、ミシマ。」
ミシマは黙ってジントニックを受け取る。ミシマがなにか言うかもしれない、と、私は一瞬警戒した。それは、さっきの3P発言みたいな、今の三人に決定的なひびを与えるなにかを。でも、ミシマはなに言わなかった。なんだか、その分ミシマの気持ちは強いような気がして、私はなおさら苦しくなった。
「乾杯。」
ルルちゃんは、にこにこしながら私とミシマのグラスにそれぞれ自分のグラスを合わせると、ぐっと一口ピンクのカクテルを飲み込んだ。私もそれに倣った。いつもの、私たちの飲み方だった。
神社でのことには、誰も触れなかった。いつもみたいに、どうでもいいことを話しながらお酒を飲んだり、ルルちゃんがかけてくれる音楽を聞いたり、お腹が空くと冷蔵庫の中のおつまみを勝手に食べたりしながら時間を過ごした。ルルちゃんとミシマは交代でお酒を作ってくれて、私はまた、贅沢、と感動した。いつもの、私たちの時間。そして始発が走り始める頃になると、私はグラスを置いてソファから立ち上がった。
「そろそろ帰る。」
本当は、もう少しここにいたかった。三人で居心地良く時間を過ごしたかった。でも、いつもと違うことをするのも怖くて、席を立ったのだ。
「俺も。」
ミシマがぼそりと言って、私の先に立ってルルちゃんの部屋の玄関に向かった。ルルちゃんがいつもと同じように見送りに来てくれて、私たちは明るくなった夏の朝に足を踏みだした。
欲しいのはミシマ。それは確かなことのはずなのに、ミシマのなにが欲しいのか分からない。心? 身体? 両方含めた全部? でも、全部を背負うのは荷が重すぎる気もした。
ミシマの問いかけに答えられないまま、また居心地の悪い沈黙が数分続いた。耐えかねた私が、今日は帰る、と言いだそうとした瞬間、寝室のドアが開いてルルちゃんが出てきた。いつものと同じ、涼しそうな薄手のワンピース姿のルルちゃんは、両目を赤く腫らしていたけれど、それでもやっぱりかわいかった。
「つきこさん、なにか飲みますよね? ミシマはジントニックでいいでしょ?」
ルルちゃんが、いつもの調子で言いながら、キッチンに入って行く。私も、飲むよ、といつもの感じを意識して返事した。ミシマはなにも言わなかったけれど、それもいつもの通りと言えた。
「はい、つきこさん。」
ピンク色のカクテルを手渡され、私はなんとかルルちゃんに笑い返した。ついさっき、神社の暗闇で私に向けた恋情と涙を、ルルちゃんは寝室での数分間できれいに収めてきたようだった。
「はい、ミシマ。」
ミシマは黙ってジントニックを受け取る。ミシマがなにか言うかもしれない、と、私は一瞬警戒した。それは、さっきの3P発言みたいな、今の三人に決定的なひびを与えるなにかを。でも、ミシマはなに言わなかった。なんだか、その分ミシマの気持ちは強いような気がして、私はなおさら苦しくなった。
「乾杯。」
ルルちゃんは、にこにこしながら私とミシマのグラスにそれぞれ自分のグラスを合わせると、ぐっと一口ピンクのカクテルを飲み込んだ。私もそれに倣った。いつもの、私たちの飲み方だった。
神社でのことには、誰も触れなかった。いつもみたいに、どうでもいいことを話しながらお酒を飲んだり、ルルちゃんがかけてくれる音楽を聞いたり、お腹が空くと冷蔵庫の中のおつまみを勝手に食べたりしながら時間を過ごした。ルルちゃんとミシマは交代でお酒を作ってくれて、私はまた、贅沢、と感動した。いつもの、私たちの時間。そして始発が走り始める頃になると、私はグラスを置いてソファから立ち上がった。
「そろそろ帰る。」
本当は、もう少しここにいたかった。三人で居心地良く時間を過ごしたかった。でも、いつもと違うことをするのも怖くて、席を立ったのだ。
「俺も。」
ミシマがぼそりと言って、私の先に立ってルルちゃんの部屋の玄関に向かった。ルルちゃんがいつもと同じように見送りに来てくれて、私たちは明るくなった夏の朝に足を踏みだした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる