境界線

美里

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過去

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美月がほしい。
 その一言を兄が口にしてからは、坂道を転げ落ちるみたいに私達の関係は深まっていった。
 私はそれまで、兄以外にも数人の男と関係を持ったことがあった。多分、兄もそうだろう。
 けれど、兄との行為を覚えてしまうと、これまで他の男としてきた行為は、ただのごっこ遊びのようにしか思えなくなった。それだけ、兄と肉体を求め合うことは、深い快感だったのだ。
 兄はいつも、私の手と言わず足と言わず、全身を舐め回した。それが私を清める儀式ででもあるかのように。
 私はその間、何度も絶頂に達した。肉体の快感もあったけれど、精神的な充足感が桁違いだった。
 兄に求められている。全身をくまなく求められている。
 私の身体は、兄とのセックスでどんどん貪欲に開発されていった。朝も昼も夜も、ただ兄を求めるように。
 兄はいつでも、私が求めさえすればセックスに応じてくれた。嬉しそうに微笑んでいるのは唇だけで、眼差しは私を捕食する肉食動物のようだった。
 そんな関係が、一緒に暮らしている父母に知られないはずもない。
 先に私達の関係を疑ったのは、母だった。
 母はパートを辞め、常に家にいて私と兄のことを監視するようになった。
 足音を潜めて階段を上ってきては、私や兄の部屋のドアを開けてきた。
 疑われていることに気がついて、私と兄はいっとき関係を持つことをやめた。
 けれど、耐えられたのはほんの数週間だった。
 母が買い物に出た僅かな時間に抱き合ったり、夜中にトイレの中で身体を繋げたり、学校に行くふりをしてラブホテルに入ったりした。
 母は疑心暗鬼で少しずつ言動がおかしくなっていった。
 真夜中まで起きていて、私と兄の部屋にやってきたり、よくわからないことを小声でずっと繰り返していたり、不眠で何日も眠れずに苦しんだりしていた。
 それでも、私と兄は関係を解消しなかった。
 できなかったのだ。
 生まれてはじめて知った、強烈な快感。それにのめり込んでしまってた。
 あれは真冬の昼下がり。
 不眠でほとんど眠っていなかった母が、リビングのソファでうとうとと浅い眠りに落ちていた。
 その隙を見逃すことができなかった私達は、兄の部屋で声を殺して抱きあった。
 もうこんなことはやめようね、と、泣きながら。
 そして、リビングで寝ていたはずの母が、例のごとく足音をさせずに階段を上ってきて、兄の部屋のドアを開けた。
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