28 / 31
5
しおりを挟む
改札を出ると、正面に見慣れた人影が立っていた。白いボアパーカーがよく似合う、遠目に見ると可愛らしい女の子にも見える、男の子。
寒そうに軽く肩を屈めていた潤は、私を見ると、両目をすいと細めた。
それは、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも見える、絶妙な表情だった。
「美月ちゃん。」
こちらに歩み寄ってきながら、潤が私を呼んだ。
兄が、警戒するように、私と潤の間に身体を滑り込ませる。
それでも潤は、私だけを見ていた。そこに兄なんて存在しないみたいに。
「こんなことになるだろうなって気は、してたよ。」
潤がそう言った声は、やはり、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも聞こえた。
一瞬前までの幸福感は、潤の目を見た瞬間に消えていた。凍える手を兄と握り合わせたまま、私は潤を唇だけで呼んだ。声は出なかった。喉の奥で凍りついてしまったみたいに。
「美月、誰?」
兄の声は、切るように鋭かった。
答える言葉がない私は、首を左右に振った。
友人、とでも答えればよかったのだろうか。私と潤は、どう考えても友人なんていう言葉がふさわしい仲ではなかったけれど。
「恋人です。」
はっきりと、潤がそう口にした。
驚いた私は、潤を凝視した。
彼は、いつもと変わらない、ちょっとけだるげだけれど冷静な目をしていた。
「そっか。」
兄は激昂するでもなく、平然とそう呟いた。それもそのはずで、兄と関係を持っていた間にも、私には恋人がいたことが何度かあった。それは、どれも長続きはしなかったけれど、あったことはあったのだ。
兄は多分、潤もそんな恋人のうちの一人だと思ったのだろう。
つまりは、兄から離れるためにもがいた結果としての、遊びにもならない恋のうちの一つと。
潤は、固まっている私を静かな常の眼差しで見つめると、行こう、と兄と繋いでいない方の手を引いた。
私は一歩も動けないまま、潤を見つめていた。
いつかこんなふうに、誰かが迎えに来てくれることを待っていた。
兄と交わったいくつもの夜に、それはシンデレラに憧れる子供みたいに、単純に。
けれど実際こんなふうに手を引かれると、どうしていいのかがわからない。
だって私はシンデレラではない。身体は汚いし、心も捻じ曲がっている。
どう考えても、潤に手を引いてもらえるような立場にはいない。
寒そうに軽く肩を屈めていた潤は、私を見ると、両目をすいと細めた。
それは、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも見える、絶妙な表情だった。
「美月ちゃん。」
こちらに歩み寄ってきながら、潤が私を呼んだ。
兄が、警戒するように、私と潤の間に身体を滑り込ませる。
それでも潤は、私だけを見ていた。そこに兄なんて存在しないみたいに。
「こんなことになるだろうなって気は、してたよ。」
潤がそう言った声は、やはり、呆れているようにも、怒っているようにも、哀れんでいるようにも聞こえた。
一瞬前までの幸福感は、潤の目を見た瞬間に消えていた。凍える手を兄と握り合わせたまま、私は潤を唇だけで呼んだ。声は出なかった。喉の奥で凍りついてしまったみたいに。
「美月、誰?」
兄の声は、切るように鋭かった。
答える言葉がない私は、首を左右に振った。
友人、とでも答えればよかったのだろうか。私と潤は、どう考えても友人なんていう言葉がふさわしい仲ではなかったけれど。
「恋人です。」
はっきりと、潤がそう口にした。
驚いた私は、潤を凝視した。
彼は、いつもと変わらない、ちょっとけだるげだけれど冷静な目をしていた。
「そっか。」
兄は激昂するでもなく、平然とそう呟いた。それもそのはずで、兄と関係を持っていた間にも、私には恋人がいたことが何度かあった。それは、どれも長続きはしなかったけれど、あったことはあったのだ。
兄は多分、潤もそんな恋人のうちの一人だと思ったのだろう。
つまりは、兄から離れるためにもがいた結果としての、遊びにもならない恋のうちの一つと。
潤は、固まっている私を静かな常の眼差しで見つめると、行こう、と兄と繋いでいない方の手を引いた。
私は一歩も動けないまま、潤を見つめていた。
いつかこんなふうに、誰かが迎えに来てくれることを待っていた。
兄と交わったいくつもの夜に、それはシンデレラに憧れる子供みたいに、単純に。
けれど実際こんなふうに手を引かれると、どうしていいのかがわからない。
だって私はシンデレラではない。身体は汚いし、心も捻じ曲がっている。
どう考えても、潤に手を引いてもらえるような立場にはいない。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる