境界線

美里

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兄と一年間二人きりで暮らした家は、病院からそう遠くはない。電車で二駅だ。
 実家、私の部屋、病院、その3つが今更ながら近くにありすぎて、苦笑が漏れた。
 距離にしたら電車で数駅の間で、ぐるぐると悩み、もがき、苦しんだ。なんだかそれは、馬鹿みたいだ。
 電車は空いていて、私達は隣り合って座席に座った。
 かつてそうであったみたいに、手をつなぎ、脚と脚とを寄せ合い、肩同士をもたらせあいながら。
 一つの人間になれればよかったのに。
 そんなことを思う。
 母の胎内で1つにくっつき合って、異形でもいい、一人の人間として生まれてこられればよかったのに。そうしたらこんなふうに、狂おしいほどお互いの肉を求め合うことなんかなかったのに。
 「一人の人間で生まれてこられたら良かったのにね。」
 囁いた声は、車内の薄いざわめきに吸い込まれるように消えていった。
 それでも兄は、罪の証拠みたいに私の声を聞き取った。
 「そうしたら、こんなふうに愛し合えなかったよ。」
 兄の囁きも、私の耳にははっきりと聞き取れた。
 愛。
 そんな言葉が私達の関係にふさわしいとは思えなかった。
 執着。肉欲。いっそ獣欲。多分そんな言葉のほうがふさわしい。愛なんて、きれいな言葉で表せないような、どろどろしたものを私と兄は、お互いの中に溜め込んできた。
 父を追い出し、母を殺し、それでもまだそのどろどろが、私達を離してくれない。
 家の最寄り駅までつくと、兄と私は手をつないだまま立ち上がり、肩を寄せ合ってホームに降りた。
 仲のいい恋人同士に見えるだろうか、と一瞬思ったけれど、それには私と兄は、似すぎている。明らかに同じ血から生まれた目を、鼻を、口をしている。
 駅のホームを歩き、階段を登り、一つきりしかないかない改札に向かう。
 繋いだ手は、なぜだか冷たいままだった。そこから熱を生じることがなかった。それは、寄せ合う肩も。
 血が凍りついたみたいだ、と思う。
 「お兄ちゃん、手、」
 冷たいね。
 そういう前に、兄は微笑んで頷いてくれた。言葉などかわさなくても、確かに内心が伝わている自信があった。だって、私達は、同じ血からできているのだ。
 そのことが妙に嬉しくて、私は兄の顔を覗き込んで笑った。
 兄も笑って私を見下ろした。
 壊れているのは百も承知だ。
 でも、今確実に、私は幸せなのだ。
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