死にたい夜に限って

美里

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「脱いで。」
 私は男の膝に馬乗りになり、シャツの襟首をひっつかんだ。
 「脱いでよ。」
 そのまま、癇癪を起こした子供みたいに、無理やり引っ張ってシャツを引き剥がそうとすると、男はさほど驚いた様子もなく、自分の手でシャツのボタンを外した。
 「なんなの。着ろって言ったり、脱げって言ったり。」
 発せられた言葉も、あくまでもさらりとしていて、動揺の色はまるでなかった。
 うるさいな、と、私は男の唇を自分のそれで噛みつくように塞いだ。
 「抱けよ。香也にしてるみたいに。」
 半分喚くような声が出た。完全に、頭に血が上っていったのだ。
 男はそれでも動じず、シャツを脱ぐと平然と私のワンピースのファスナーを下ろした。
 「なに? アナルセックスがお好みなの?」
 完全に、バカにされている。
 腹は立った。でもそれより今は、この男に抱かれたかった。
 私は、香也がこの男から離れられない理由を知りたかったのだ。それがこの男のセックスにあるのだとしたら、香也を諦められるのかもしれない。だって、私は香也を抱けはしないから。
 女抱くのは久しぶりだなあ、と、歌うように男が言った。
 「抱いたこと、あるの?」
 「あるよ。昔ね。今は男ばっかりだな。」
 香也の話を聞いているだけでも、目の前の男が一途とは程遠い性格をしていることは分かっていた。
 それが、悔しかったのかもしれない。私には、香也しかいないのに。
 「ずるい。」
 言葉は勝手に喉から滑り落ちてきた。自分でも言うつもりなんかない言葉だったから、私は自分で自分の発言に驚き、固まってしまった。
 すると香也の男は、軽く首を傾げて私の顔を覗き込んできた。
 真っ黒い瞳をしていた。見つめられたら、この人に愛されているのではないかと勘違いしそうになるくらい、まっすぐで黒い瞳。
 「そんなに香也がほしいなら、やるよ。俺、あんたのこと結構好きよ?」
 最低な台詞だと思った。それでも私はその言葉にすがった。
 「ほしい。」 
 私の声は涙にまみれていた。目からは一粒のそれも流れては来ないくせに。
 「いいよ。」
 男はあっさり頷くと、私の肩を掴み、布団へそっと押し倒してきた。
 男の大きな身体が覆いかぶさってくる。私は目を閉じて、男の体温を感じていた。香也も、この体温を感じていたはずだ、と思いながら。
 
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