死にたい夜に限って

美里

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香也との生活は、端的に言って快適だった。
部屋の中はすっかりきれいに掃除され、100均で買った小さなインテリアなんかで飾り付けられるようになった。 
 ご飯も美味しくて、これまた100均で買った色とりどりのお皿に、洒落た喫茶店みたいなメニューが並ぶようになった。
 これまで私は、スーパーで買った惣菜をパックから直に食べるか、箱買いしたカップ麺を啜るかの二択の食生活を送っていたので、だいぶ人間として進歩した生活を送るようになったと言える。
 その上、香也は夕方の6時に出勤していくので、私も毎日その時間に合わせて観音通りに行くようになった。そして、香也が家に帰ってくる2時か3時位まで通りに立つ。
 そうすると、これまで適当に深夜に通りに立っていた頃と比べ、収入は激増した。毎日同じ時間帯に通りに立つこと。そうするのがリピーターと高収入につながることくらいは分かっていたのだけれど、これまで私にはその簡単なこともできなかったのだ。
 「やっぱり香也様々だわ。」
 これまで洗濯物に埋もれていた水色のソファにひっくり返り、香也が立つ台所に向かって声をかけると、香也はふふふ、と女の子みたいに笑った。
 「美奈ちゃんだってやればできるんじゃん。これまでやってなかっただけで。」
 「分かんないかなぁ。やればできると本当にやるの間には、高い壁があるわけ。」
 「はいはい。……でも、俺だって美奈ちゃん様々だよ。住むとこなくなるとこだったんだから。」
 そうねー、と、私は軽く返事をした。正確には、軽く聞こえるように。
 住むとこなくなるとこだった。
 それは、多分私のせいだ。あの、大きな男に向かって、私が香也を欲しがったから。
 「はい、今日のご飯はクラムチャウダーだよ。身体温まるからねー。」
 香也が縁がピンク色のボウルにいれたクラムチャウダーを運んでくる。
 いつも、この出勤前の食事には、香也は身体を温めるような汁物を作ってくれる。
 凍るような観音通りの街灯下に立つ私を思いやってくれているのだろう。
 ありがとう、と、木製のスプーンを取りながら、私はぐっと自分の胸に力を込める。
 香也はいつも優しい。香也との暮らしは快適だ。香也を私は、失いたくない。
 だから、言えないことがある。
 あの大きな男と、私は時々寝ている。

 
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