死にたい夜に限って

美里

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大きな男は、気まぐれに観音通りにやってきた。一週間こないときもあれば、3日続けてくるときもあった。本当に、気まぐれなペース。
 もう男は、セックスしなくていいなんて言わなかった。ごく普通に客としてやってきて、金を払い、私を抱いた。
 男とのセックスは、いつも、少しだけよかった。
 「香也にはまだ飽きないの?」
 セックスが終わり、煙草を咥えながら、男はいつもそう言った。
 私も煙草に火をつけ、飽きないよ、と返した。私は、この男と寝た後だけ、煙草を吸うようになっていた。
 「毎日顔合わせてるんでしょ、重くない? あいつ。」
 「重い? どこが?」
 「飯作ってるとことか、掃除してるとこか、出迎えてくるとことか。」
 香也が私を出迎えてくれたことはない。その事実にじんわりと胸を痛めながら、私は首を横に振る。
 「ありがたいだけじゃん。なにが重いの?」
 「ふうん?」
 男は、真っ黒い目で私の顔を覗き込んだ。そして一瞬でその目をそらすと、合ってるのかもね、あんたと香也、と笑った。
 合っている。
 その言葉が、私は単純に嬉しかった。男の笑みに、皮肉が含まれていることに気がついていたとしても。
 誰かにそうやって担保してもらいたかった。この不安定な香也との暮らしが、少しでも長く続くように。香也が、寝る前にいつも、スマホで物件情報を探していることを知っているから、なおさら。
 「……ずっとは、無理なのかな。」
 「なにが?」
 「ずっと一緒には、無理なのかな。」
 ずっと一緒に、ねぇ、と、男は歌うように私の台詞を繰り返した。
 「香也が適当で不真面目なやつだったら、なし崩しで行けるかもしれないけど、それだったらあんた、香也に惚れてないでしょ?」
 「……うん。」
 私は香也に惚れている。
 自分の胸の内以外で認めたのは初めてだった。
 男の態度はごく普通で、ゲイの香也に惚れるなんて不毛なことをしている私を、どう思ってもいないことは明らかだった。だから、うん、と、頷くことができたのだろう。  この男以外の誰かから問われていたら、私は自分が香也を好きだなんて、恋愛感情を持っているだなんて、決して認めたりしないだろう。だって、それはあまりに惨めすぎる。
 「早く飽きて、俺のとこにおいでよ。」
 男は、りんごでもかじるみたいにあっさりと私を誘惑する。
 だから私は、冗談でしょ、と男の言葉を笑い飛ばす。
 冗談じゃないよ。
 男は必ず、案外真面目な調子でそう言うのだけれど、私はなにも聞こえないようなふりをする。いつも。
 
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