女衒直巳と三人の女郎

美里

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 夢を見ていた。
 空蝉の夢だ。
 まだ女郎に売られる前、真っ黒に日焼けした少年みたいな空蝉が、荒い波をものともせず灰色の海に飛び込んでいく夢。海の暗さに比べて、彼女の小麦色の肌は磨き込まれたみたいにピカピカ光っている。夢の中の彼女は勇ましく、荒れた日本海でさえ決して飲み込めない力強さを感じさせた。あんなにも細く小さい背中だというのに。
 「直さん。直さん。」
 澄んで張りのある空蝉の声がする。
 直巳の最高傑作。一流の女衒である証し。
 「直さん、ねえ、直さんってば。」
 声がどんどん近づいてくる。そして肩を揺さぶられ、はっと直巳は目をさまし、飛び起きた。
 「柳沢様は?」
焦って問うと、空蝉は三日月眉を開くようにして鮮やかに笑った。
 「お父様の方は、昨夜は泊まらずお帰りになったの。坊ちゃんの方は、さっきお帰りになったわ。お店の人にお金持ってこさせて、女将さんに玉代たんまりはずんで。」
 「……女郎失格だな。お前たちは客が帰るまで寝ないのが倣いだもんな。」
 自分の情けなさに嫌気がさし、額に手をやって呻く直巳に、空蝉は声を立てて笑った。その声は、夢の中で聞いたそれと寸分違わなかった。
 「直さんは女郎じゃないじゃない。女将さんは驚いてたけど、大丈夫。私と女将さんと野分花魁しか知らないことだから。」
 「なんで野分花魁が知ってるんだ。」
 「私が話したの。面白いから。」
 余計なことを話すな、と言いたいところだが、自分の過失が大きすぎてなにも言えない。ふう、と長く息をついて、直巳は空蝉の白い顔を横目で見やる。
 「なんて言ったんだ。」
 「直さんが、身投げした男と寝て玉代たんまりもらった。本人はお日様がこんなに上ってもまだ寝てるーって。」
 明るい調子で言ってのけた説明の中に、嘘がなければ話を盛っているわけでもないので、やはりなにも言えない。
 「……野分花魁はなんて?」
 「あら、直巳もやるじゃないの、って。」
 気に入りの鯉の柄の打掛の袖を赤い唇に当て、ふふふ、と秋風みたいに笑う花魁の姿が容易く想像でき、直巳はもう一発深い息をついた。
 「悪かったよ。座敷をこんな時間まで占領して。」
 「そうよ。さ、立って。歩ける? 気分は悪くない?」
 「大丈夫だ。」
 本心を言えば、足腰が今にも空中分解しそうにふわついていたが、男の意地だそんなことは口にできない。
 「真澄さんが待ってるのよ。ちょっと遠くまで女買に行くから、兄貴に同行してもらいたいんです、って。」
 「本当に自分の都合のいい時だけすり寄って来る野郎だな。」
 「私は好きよ。面白いじゃない、あんなにあからさまだと笑っちゃうわ。」
 直巳は何とか普通を装って身を起こしたが、体中きれいに拭われ、着物もきちんと着せてあった。昨日のあの坊ちゃんは、本当に飽きるほど女を抱いて来たんだろうな、と、妙にしみじみ思いながら、いけ好かない後輩の待つ勝手口へ平気な顔を取り繕って歩き出す。



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