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直巳は原始的な恐怖に背筋を握られたまま、二人の情交の様子をじっと見ていた。見たくて見ていたのではない。恐ろしすぎて目が離せなかったのだ。
今にもこっちに飛び掛かって来そうな大型犬から目が離せなくなるような、そんな感覚が一番近い。目を離した隙に、今よりもっと恐ろしいことが起きそうで目が離せない。
「直巳さん。」
明石がぽつりと彼を呼んだ。さっきまでの嬌声はどこに行ったのかと問いたくなるような、ごく平静なトーンだった。
「これで終わりにする。稼ぐって約束したのに、手を抜くようなまねしてごめんなさい。これだけ、許して。」
背後から体内をせっせと突かれているので、その声は所々で詰まったり歪んだりした。しかしそれを除けばやはりごく平静だった。
こんなにも平静な声をして、それだけの理性を保ったまま、あんな暗い目で弟と抱き合える。
怖い、と、やはりそれだけ直巳は思った。
明石の弟は、なにも言わなかった、姉の宣言など聞こえていないかのように、直巳からも目を離して腰を振っていた。動物の交尾みたいに、ひたむきに。
怖い、怖い、と胸の中でざわざわ呟きながら、直巳はなんとか声を絞り出す。
「終わりにできるのか? どうやって?」
明石花魁はがくがくと揺さぶられながら、ちょっとだけ笑った。いつもの明石の顔だった。きりりと引き締まった頬と毅然とした眼差しが大人びて美しい、晴海楼の花魁の顔。
「心中したりしないわ。この子を田舎に帰します。」
「……できるのか。」
明石がする気がなくっても、弟の方には殺人や心中をする気がある可能性だって、見るからに高そうだった。
「私が悪かったの。身体を売っては弟たちに肩身の狭い思いをさせた。だから、これが償い。」
私にできることってこれだけだもの、と、明石は瞳を潤ませながらもやはり毅然としていた。
「10回寝たわ。それで終わりって、はじめから約束していたの。だから、これでおしまい。」
そうか、と、直巳は辛うじて返した。そして、音を立てないようにそっと襖を閉めた。
明石は分かっていない。あの弟が憤っているのは、肩身が狭い思いをさせられたことに対してではない。それだったら復讐の方法にセックスを選ぶはずがない。
けれどそれを明石に教える気にはなれなかった。教えたら本当に彼女は、弟と心中するしかなくなるだろうから。
10回、と、直巳は口の中で呟く。
直巳は1回しか抱かれなかった。それは、幸せなことのなのかもしれないと思った。いくら女郎たちに自分の姿を重ねようと、一晩分の思い出しかないのだから、感情の荒れかたにも限度がある。
今にもこっちに飛び掛かって来そうな大型犬から目が離せなくなるような、そんな感覚が一番近い。目を離した隙に、今よりもっと恐ろしいことが起きそうで目が離せない。
「直巳さん。」
明石がぽつりと彼を呼んだ。さっきまでの嬌声はどこに行ったのかと問いたくなるような、ごく平静なトーンだった。
「これで終わりにする。稼ぐって約束したのに、手を抜くようなまねしてごめんなさい。これだけ、許して。」
背後から体内をせっせと突かれているので、その声は所々で詰まったり歪んだりした。しかしそれを除けばやはりごく平静だった。
こんなにも平静な声をして、それだけの理性を保ったまま、あんな暗い目で弟と抱き合える。
怖い、と、やはりそれだけ直巳は思った。
明石の弟は、なにも言わなかった、姉の宣言など聞こえていないかのように、直巳からも目を離して腰を振っていた。動物の交尾みたいに、ひたむきに。
怖い、怖い、と胸の中でざわざわ呟きながら、直巳はなんとか声を絞り出す。
「終わりにできるのか? どうやって?」
明石花魁はがくがくと揺さぶられながら、ちょっとだけ笑った。いつもの明石の顔だった。きりりと引き締まった頬と毅然とした眼差しが大人びて美しい、晴海楼の花魁の顔。
「心中したりしないわ。この子を田舎に帰します。」
「……できるのか。」
明石がする気がなくっても、弟の方には殺人や心中をする気がある可能性だって、見るからに高そうだった。
「私が悪かったの。身体を売っては弟たちに肩身の狭い思いをさせた。だから、これが償い。」
私にできることってこれだけだもの、と、明石は瞳を潤ませながらもやはり毅然としていた。
「10回寝たわ。それで終わりって、はじめから約束していたの。だから、これでおしまい。」
そうか、と、直巳は辛うじて返した。そして、音を立てないようにそっと襖を閉めた。
明石は分かっていない。あの弟が憤っているのは、肩身が狭い思いをさせられたことに対してではない。それだったら復讐の方法にセックスを選ぶはずがない。
けれどそれを明石に教える気にはなれなかった。教えたら本当に彼女は、弟と心中するしかなくなるだろうから。
10回、と、直巳は口の中で呟く。
直巳は1回しか抱かれなかった。それは、幸せなことのなのかもしれないと思った。いくら女郎たちに自分の姿を重ねようと、一晩分の思い出しかないのだから、感情の荒れかたにも限度がある。
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