女衒真澄と三人の女郎

美里

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「七歳の私を禿として買ってくれる店なんてなかった。売り物になるまでの期間が長すぎて、ムダ金ばかり出て行くものね。だから、忍さんが12歳まで私を育ててくれたの。」
 「え、そんなおひとよし……、」
 「いたのよ。あの頃は私もよく分ってなかったけど、今考えたらどう計算したって大赤字よね、禿にもなれない子どもを5年間も育てるなんて。」
 幼少期の野分花魁だ、人並み外れてうつくしい子どもではあっただろう。いずれはどこかの店で看板を張るようになるだろうと確信していたのかもしれない。それでも……。
 「……俺なら、しないなぁ。」
 「普通しないわよ。」
 野分花魁は、浴衣の袖口を口元にあて、ころころと笑った。その表情はちょっとだけ自慢げで、7歳の子どもだったころの彼女をどことなく偲ばせた。
 「12歳で晴海楼に売られてからも、しょっちゅう顔を出しては愚痴を聞いてくれたり、甘味を食べに連れて行ってくれたりしたわ。」
 「それなら分かります。それなら女衒の仕事だ。」
 ええ、そうね、と、微かに眉を寄せて花魁が頷く。
 「でも、あの頃の私にはそれが分からなかった。」
 私だけが特別だと思ってたわ、と、囁くように。
 「恋は、7つの時からしていたわ。……早すぎると思う?」
 「……いいえ。」
 ひとを好きになるのに年齢なんか関係ないことくらい、真澄も知っている。年齢も性別も、本気で誰かを好きになったら問題ではなくなる。
 「水揚げの晩にね、私、廓から逃げ出したのよ。」
 「え?」
 「走って逃げて、忍さんの長屋まで行ったの。」
 「脚抜けしたんですか、しかも水揚げの晩に。」
 驚く真澄に、野分花魁はつぶし島田も重たげに小さく頷いて見せた。
 「忍さんに会いたい一心だったの。忍さん、びっくりしてたわ。抱いてくれって迫ったんだもの。」
 直巳に縋る女の子たちを馬鹿に出来る立場じゃないわね、と、野分花魁が自嘲気味に肩をすくめる。
 「そしたら、忍さんは?」
 「抱けないって。そう言ったわ。」
 「……そりゃそうですよね。女衒と禿じゃ。」
 「言ったけど、抱いたわよ。私が簪を自分の頸に刺そうとしたから。」
 「え!?」
 さらに驚き目を見開く真澄に、野分花魁は苦い笑みを浮かべる。
 「本当に、女衒を困らせる最悪の禿だったと思うわ。」
 「それで、水揚げはどうなったんですか?」
 「どうもこうも、忍さんに抱かれた後、廓に戻って水揚げよ。」
 とんでもない話だな、と、真澄は目を白黒させた
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