観音通りにて・弟

美里

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観音通りにて・弟

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 兄貴が、男娼になっていた。しかもヒモ(驚くべきことに、なのか? 男だ。)つきの。俺はそれを知って、人生で一番くらいたまげた。
 兄貴が大学を勝手にやめていたことが発覚し、母親は持病の心臓の発作を起こしてぶっ倒れた。父親は、仕事が忙しくて家にはいつもいない。事情を確かめに行くのは俺しかいなかった。
 気は、重かった。兄貴は昔から、真面目だった。俺は、同級生とけんかをしたり、進路で迷ったり、両親にいろいろと心配をかけるタイプだったけれど、兄貴は俺とは正反対だった。誰にも心配をかけたりするタイプじゃなかったのだ。委員長タイプの優等生。その兄貴が勝手に大学を辞めたのだから、そこにはなにか、どうしようもない理由があるのだろう。それに、兄貴は頑固者でもあった。一度決めたら梃子でも動かない。俺がふらふらと風に吹かれては意見を変えるのとは真逆で。だから、俺が会いに行ったところで兄貴を説得できるわけもない。でも、家で寝込んでいる母親に、今にも死にそうな声で、康ちゃん、お願い康一の様子を見て来て、と手を握られれば、嫌ですごめんなさい、と断れるわけもない。だから俺は、高校が文化祭の振り替え休日で休みの月曜日、兄貴が一人暮らししている、電車で二時間の街まで出かけて行った。
 電車の中では、終始そわそわしていた。不審者だと思われたかもしれない。スマホで音楽を聞いてみたり、ゲームをしてみたり、本を取り出してみたりしたのだけれど、どれにも集中ができなかったのだ。
 最後に兄貴にあったのは、二か月前。兄貴が大学の夏休みに帰省していたときだった。その際兄貴の様子には、変わったところはなかった。普通に一週間家に泊まって帰って行った。その後すぐに、兄貴は大学を辞めている。
 昔から、やることがちょっと極端なところがあるやつだ、とは思っていた。なんというか、ホップステップジャンプ、の内の、ホップとステップをぶち抜いて、いきなりジャンプしてしまうみたいな。でもだからといっても、兄貴だって母さんの心臓が悪いことを知らないわけでもないのに。
 俺はスマホも文庫本もリュックにしまい、吊革にぶら下がって、夕方の半端に混雑した電車に揺られながら、じっと兄貴の最寄りの駅まで、車窓を行き過ぎる景色を眺めていた。まだ一番それが、心が落ち着く行為だった。
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