観音通りにて

美里

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ユキを拾って祐一宅まで持ってきたのは、ユキの買主に呼び出された青井だった。背中に縛り付けた毛布の包み。中には血と精液とよく分らない粘液にまみれたユキ。
 生まれたての馬の子みたいだ、と、ユキの金髪がぬらぬらと光るのを見ながら、安奈は思った。
 こうなるだろうと分かってはいた。この前ユキが愛人契約をした時だってそうだったから。買主は、契約期間中はユキをどう扱っても構わない。それで契約期間が切れるその日に、ユキをずたぼろに犯しつくして返却する。そういう男は多かった。
 電話で早朝にたたき起こされた祐一は、もはや見慣れているユキの絶望的な姿を見て、それでもきちんと慌てた。なんて健康的なリアクション。
 安奈と青井はぼうっと突っ立っていた。中学校のグラウンドに引き戻されたみたいな気分で。
 「安奈、お湯沸かして! 青井、包帯と消毒液買ってきて!」
 「金ないけど。」
 「ユキの鞄に札束はいってるでしょ!」
 極限まで汚れたユキを、躊躇いなく自分のベッドに寝かせた祐一は、安奈が沸かしたお湯で彼の身体を丁寧に拭き清める。
 大丈夫、死なないよ、これくらいじゃ。
 経験上安奈はそう言い切れるのだが、絶対に祐一が怒るので黙っている。黙ったまま、部屋の隅に突っ立っている。
 「ほい、包帯と消毒。」
 お使いから帰って来た青井も、そうすることが決められているみたいに、ふらりと安奈の隣に並んだ。することがない同士。できることがない同士。
 「ユキ、ユキ、」
 何度も必死の声で呼びかけながら、祐一がユキの体中の傷に消毒液をぶちまけ、包帯やガーゼで覆っていく。
 「いつものことじゃん。」
 隣の青井にだけ聞こえるように安奈がひっそりと言うと、青井も小さく肩をすくめるように頷いた。
 いつものこと。
 薄く目を開いたユキが、安奈と青井を見て困ったように曖昧に口を開いた。口の両脇は無残に裂けてて血が流れているし、口を開けたところで声などもはや出るはずもないだろうに。
 「……それでも、かなしいのね。」
 ほとんど独り言のそれには、今度は青井もなにも答えなかった。
 分かってる、安奈だって毎日のように今のユキに近い姿になるまで乱交を繰り返している。人になにを言える筋合もない。
 狭いがきちんと整頓された祐一の寝室に、ユキ、ユキ、と、必死の声だけが延々と響いている。
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