行きずり

美里

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 店を出た瞬間にはもう、雛子は後悔していた。げんなりしていた、と言ってもいい。これまでナンパをする相手は、遊び慣れた、面倒がないおんなに決めていた。同年代か少し年上の、雰囲気だけは清楚で、中身は意外とさばけたおんなが好みだった。それがなんで、こんな明らかに面倒くさい子どもを。
 おんなは、雛子のそんな不機嫌な空気を、案外敏感に感じ取ったようで、ちらりと雛子の顔を見上げてきた。雛子は咄嗟に笑みを繕い、別に知りたくもないくせに、おんなに名前を訊いた。
 「じゅり。」
 おんなが小さく答える。随分と緊張しているのだろう。その声は硬く強張って、語尾が小さく震えていた。
 「じゅりか。いまどきだね。」
 雛子は適当にそんなことを言いながら、ナンパしたおんなをいつも連れ込むホテルの前に立ち止まった。
 「ここでいい?」
 いかにもラブホテル、という雰囲気はない、洒落た感じの内装が気に入っているホテルだった。いいよ、と軽く言って、腕をからめてくるようなおんなが、雛子は楽ちんで好きだった。でも、今日のおんなは、唇をきつく結んで、突っ立っているだけでなにも答えない。
 「いや? 他のホテルにする?」
 ホテルに行く、という選択肢以外を示すつもりはなかった。今は、このおんなとセックス以外のことをする気がなかった。普段なら、肉体関係にもつれ込む前に、食事をしたり、酒を飲んだりすることもあったけれど、今夜はそれだけの体力や精神力が残っていない自覚があった。昼間、好きなおんなが、ずっと好きだったおんなが、妊娠したと打ち明けられたばかりだった。
 これ以上、わずらわしいことを言いださないでくれ、と、祈るように、小柄なじゅりの不安げな横顔を見下ろすと、彼女はこくり、と小さく息を飲んだ後、顎を引くように浅く頷いた。
 「ここで、いいです。」
 「そう。」
 あまり会話もしたくない気分だった。とにかく今は、女体のあたたかさややわらかさに溺れていたかった。そうしている間は少なくとも、好きなおんなのことを思い出さずに済む。
 いいこ、と、じゅりの茶色い髪を撫で、雛子は慣れた仕草で彼女をホテルに連れ込んだ。じゅりは、雛子の身体に自分から触れることはせず、ただ腰を抱かれて雛子についてきた。雛子はそんな子どもじみたじゅりの様子に、妙にくっきりと、罪悪感を覚えた。
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