行きずり

美里

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 今夜ばかりは、なにをしていても、結局菜乃花のことを思い出す。
 そう悟った雛子は、義務感に押されるみたいにこなした一連の行為がすむと、おんなの肌を手離した。じゅりの若い肌は、滑らかで文句のつけようはなかったけれど、やっぱり、慣れていないおんなは面倒くさい。いつもなら、どちらかが疲れて眠りにつくまで肌を探り合うのが好きだったけれど、今夜はそんな気にもなれない。
 シャワーを浴びて、とっとと家に帰って寝よう。
 そう思った雛子がベッドから立ち上がると、じゅりがしがみつくみたいに腕を引いてきた。
 「……なに?」
 めんどうだ、と思っていることが表面に出ないように、雛子はかなり神経を使った。それでも、消し去れないその感情の片鱗はじゅりに伝わったらしく、彼女は一瞬、怯えたような目をした。すると、急になんだか申し訳なくなって、雛子は考えるより先にじゅりの髪を撫でていた。ナンパは、する方もついていく方も同等の責任があるし、妊娠の可能性のないセックスもやっぱり責任は同等。普段からそう思っている雛子としては、その罪悪感は、自分でも意外だった。多分、このおんながひどく幼い感じがするからだろう。
 「行くの。」
 じゅりが、髪を撫でられたまま、けれどその手にすり寄るような真似も見せず、短く呟いた。その声は、問いと言うよりは確認のトーンで、その聞き分けの良さがまた雛子の罪悪感を掻き立てる。聞き分けの良すぎる子どもは、なんだか悲しい。
 「シャワー、浴びるだけ。」
 答えると同時に、後悔は始まっていた。このおんなと、どれだけの時間を過ごすつもりなのだろうか。もしかして、朝まで? 
 それは、うんざりするような想像だった。それでも、一度口にしてしまった台詞が取り消せるわけでもない。雛子はため息を押し殺しながらバスローブを羽織って、バスルームに引っ込んだ。
 このホテルの広い風呂場で、おんなと風呂につかりながら戯れるのが、雛子は好きだった。そのまま本番をはじめてもいいし、焦らしてベッドまで持ち越してもいいし、もっと焦らして次回まで持ち越してもいい。ただ、今回のおんなとは、これっきりだ。二度目はない。
 熱い湯を頭から浴びていると、罪悪感がだんだん透明な湯と一緒に排水溝に流れて消えていく。そう、ナンパもセックスも、女同士なら責任は同等。罪悪感なんて、感じる必要はない。シャワーを浴びたら髪を乾かし、とっととホテルを出よう。そう何度も自分に言い聞かせ、その理屈が正しいことを確かめ、雛子はバスルームを出た。
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