13 / 19
ルリ子
しおりを挟む
「へーぇ、行くとこないの。鏡ちゃんが。めずらしいねー。うち来る?」
ケラケラ笑いながら言ったのは、街灯の真下、観音通りの一等地に立つ高級街娼、ルリ子だった。今日も名前に合わせた瑠璃色のミニワンピースが、まっ白い肌と短い黒髪に映えている。
「先入って勝手にしてていいよー。つってもなにもないけどね。」
ぽん、と裸のままの鍵を投げ渡され、鏡太郎は思わず苦笑した。
ルリ子は馴染みの女だ。時々女が途切れたり、女ともめて二、三日寝場所が必要なときには、ルリ子に頼ることが多かった。
「ありがと。」
放られた鍵をキャッチし、鏡太郎は笑った顔のまま身を翻す。ルリ子の部屋は、観音通りの中ほど、白壁のアパートの二階角部屋だ。
勝手に鍵を開け、部屋の中に入る。この前泊めてもらったのはもう半年くらい前になるのか、部屋の様子は変わっていない。
狭い1Kに押し込まれた銀のラックには所狭しとドレスがかけられ、硝子テーブルの上は化粧品とアクセサリーで占拠されている。その奥にはセミダブルのベッドが無理やり押し込まれていて、それだけで部屋の床面積のほとんどが利用されている。つまり、本当になにもないし、本当に足の踏み場すらないのだ。
それでも勝手知ったる他人の家だ。鏡太郎はラックとテーブルの間の狭い通路を通り抜け、ベッドに上がった。そのまま布団をひっかぶり、しばらく寝ていると、玄関でごそごそと物音がする。
「鏡ちゃん? ピザ食べる?」
ルリ子の帰還だ。彼女は片手に24時間営業のスーパーマーケットのビニール袋を提げていた。
「食べる。」
「コーラもあるよ。」
「最高。」
「映画見ながら食べよ。」
「神かよ。」
でしょでしょ、と笑ったルリ子は、ひょいとベッドに飛び乗ると、ベッドの足もとらへんに容赦なくピザとコーラを広げた。
「なに観たい?」
「ホラーがいいな。」
ホラーね、了解、とルリ子がコレクションしているDVDを漁っている間に、鏡太郎はコーラを啜り、マルゲリータを齧る。
「これがいいな、結構怖かったよ。」
ルリ子の瑠璃色に染められた長い爪が、器用にDVDのパッケージを開ける。
ルリ子と過ごす部屋は、いつもこんなふうだった。疑似恋人関係さえもルリ子は望まないので、鏡太郎も楽ちんなのである。
それでも鏡太郎はルリ子の部屋を常宿としないのは、単純にルリ子がそれを望まないからだ。ルリ子は、売春婦にしては珍しく、ヒモを必要としない女だった。
ケラケラ笑いながら言ったのは、街灯の真下、観音通りの一等地に立つ高級街娼、ルリ子だった。今日も名前に合わせた瑠璃色のミニワンピースが、まっ白い肌と短い黒髪に映えている。
「先入って勝手にしてていいよー。つってもなにもないけどね。」
ぽん、と裸のままの鍵を投げ渡され、鏡太郎は思わず苦笑した。
ルリ子は馴染みの女だ。時々女が途切れたり、女ともめて二、三日寝場所が必要なときには、ルリ子に頼ることが多かった。
「ありがと。」
放られた鍵をキャッチし、鏡太郎は笑った顔のまま身を翻す。ルリ子の部屋は、観音通りの中ほど、白壁のアパートの二階角部屋だ。
勝手に鍵を開け、部屋の中に入る。この前泊めてもらったのはもう半年くらい前になるのか、部屋の様子は変わっていない。
狭い1Kに押し込まれた銀のラックには所狭しとドレスがかけられ、硝子テーブルの上は化粧品とアクセサリーで占拠されている。その奥にはセミダブルのベッドが無理やり押し込まれていて、それだけで部屋の床面積のほとんどが利用されている。つまり、本当になにもないし、本当に足の踏み場すらないのだ。
それでも勝手知ったる他人の家だ。鏡太郎はラックとテーブルの間の狭い通路を通り抜け、ベッドに上がった。そのまま布団をひっかぶり、しばらく寝ていると、玄関でごそごそと物音がする。
「鏡ちゃん? ピザ食べる?」
ルリ子の帰還だ。彼女は片手に24時間営業のスーパーマーケットのビニール袋を提げていた。
「食べる。」
「コーラもあるよ。」
「最高。」
「映画見ながら食べよ。」
「神かよ。」
でしょでしょ、と笑ったルリ子は、ひょいとベッドに飛び乗ると、ベッドの足もとらへんに容赦なくピザとコーラを広げた。
「なに観たい?」
「ホラーがいいな。」
ホラーね、了解、とルリ子がコレクションしているDVDを漁っている間に、鏡太郎はコーラを啜り、マルゲリータを齧る。
「これがいいな、結構怖かったよ。」
ルリ子の瑠璃色に染められた長い爪が、器用にDVDのパッケージを開ける。
ルリ子と過ごす部屋は、いつもこんなふうだった。疑似恋人関係さえもルリ子は望まないので、鏡太郎も楽ちんなのである。
それでも鏡太郎はルリ子の部屋を常宿としないのは、単純にルリ子がそれを望まないからだ。ルリ子は、売春婦にしては珍しく、ヒモを必要としない女だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる