金魚の庭

美里

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佐山の視線から逃げるように急ぎ足で家に帰った私は、制服から私服に着替えてそのまますぐに街に戻り、最初に声をかけてきた男に身体を売った。顔はもう覚えていないが、40歳くらいの普通のサラリーマンだったはずだ。
 あの男がいつだか買って来たひらひらの白いワンピースを着た私は、どこからどう見ても中学生にしか見えなかっただろうから、今思えばそのサラリーマンはロリコンだったのだろう。処女だよ、と言ってもはじめは信じなかったが、私が出血しているのを見てようやく信じたらしい。そこからは異様に興奮していた。
 私は興奮はもちろんしなかったし、予想のはるか上を行く痛みに吐き気さえ及ぼし、ラブホテルのベッドの上でひたすら嗚咽を噛み殺していた。自分がなにをしているのかよく分からなかった。こんなことをする理由なんてないのにな、とも思った。嗚咽の理由は身体の痛みと吐き気に加え、自分のバカさ具合にとことん呆れていたせいもあったと思う。人生最大くらいの肉体的苦痛は、つまるところバカすぎる私の自業自得のような気もしていた。
 そしてなぜだか行為の最中ずっと、佐山のあの視線がまだ私の足首に絡みついているような気がして仕方がなかった。佐山は私といる間に一瞬たりとも性的な空気を発したりはしなかったし、長く水にさらされた人骨みたいな男には、性的なものなどまるでそぐわないのに。
 佐山の顔を思い出したくない、と、私は目を見開いて目の前にいる私を買ったサラリーマンを凝視していた。それでも佐山の視線は私の足首から離れてはくれなかった。嫌いだ、と思った。私は佐山が嫌いだと。
 その一方で、私の父親かもしれないあの男のことは、ホテルに入った後はもう脳裏をよぎりもしなかった。せっかく同業に足を突っ込みかけていたのに、全く。あの男と私の身体との間には、なんの関わりもないのだから、思い出す必要なんてどこにもない。
 1時間ちょっとで行為が終わった後、サラリーマン氏は私にしつこく連絡先を聞いてきたが、適当な番号をでっち上げて教えておいた。もう二度と売春をするつもりはなかったからだ。
 結局、私の処女膜は5万円で売れた。処女膜と日本銀行券五枚。私にはそれで釣り合いが取れているのかどうか判断ができなかった。だからだろうか、帰りがけにジーンズを買った後、残りの4万円ちょっとをどうしたのか、もう私には思い出せない。
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