観音通りにて・兄

美里

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 それは質問というよりは、確認作業だった。ソラはほとんど確信していたのだ。けれど、イズミは頭を投げ出すように上を向くと、ぷは、と、吹き出して笑った。
 「まさか。あの聖人がガキと寝るはずない。ユウがあそこで寝たのは、俺だけだよ。あのふたりは、精神的なゴカンケイってやつ。」
 でも、ねぇ、と、イズミは天井からソラに視線を移した。その視線の強さに、ソラはたじろいだ。精神的なゴカンケイ。イズミの視線に押されるみたいに、口の中で繰り返す。イズミはソラを見つめたまま、続けた。
 「でも、ねぇ、そういうのが一番、いやらしいよねぇ。」
 軽く語尾を上げた、からかうような物言い。でも、視線の強さは変わらない。物言いが軽ければ軽いほど、イズミは痛々しく傷ついて見えた。
 「あの聖人と寝られない代わりに俺と寝て、俺が出て行ったらあんたと暮らし始める。……ユウって、そういうやつなんだよ。」
 そういうやつ。
 そう言われても、上手く話しの芯を食い損ねて、ソラは戸惑って立ち尽くす。
 ユウに他にも男がいて、その男と寝るために今夜は帰りが遅くなる。または、もうここには帰ってこない。
 それなら理解できた。簡単に了解できた。永遠なんてないのだから、ユウがソラではない誰かほかの人間を選んだとしても、それを受け入れて、ソラはひとりで生きていくしかない。結局誰かの代用品でしかなかった自分を少し憐れんで、ここを出ていくことは、容易くできるはずだ。
 でも、イズミが言うには、そうではないのだ。ユウは、男と寝ていない。聖人、とか言われるような男と今、寝もしないで一緒にいる。一緒にいる、そのためだけに、もうここには戻ってこない。そういうのが一番、いやらしい。その通りだと思った。
 深く長い息をついた後、イズミが言った。
 「あんた、ここに来るべきじゃなかったよ。」
 ここに来るべきじゃなかったと言われても、ソラには他に、行く場所なんかなかった。どこにも行けなかった、あの雨の中、一人店の軒先で膝を抱えているしかなかった。
 「住込みの仕事、いくつか目星は付けてる。中華屋か塗装業かタイル職人。」
 さらにイズミが言葉を接ぐ。さらさらと、流れるように、それはおそらく、ソラに考えるいとまを与えないように。考えてしまうと、なおさら辛い。それはソラにも分かった。考えずに今は機械的に動いてしまえば楽だと。でも、どうしてもそれはできなかった。

 
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