観音通りにて・ウリ専

美里

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幼馴染

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幼馴染というのは厄介な関係性だな、と、涼は時々思う。最近は、しょっちゅう思う、のほうが正確かもしれない。
 たとえばこんな朝なんかに。
 おはよう、と、勝手知ったる人の家状態で部屋に入ってきた光の首に、あからさまに真っ赤な手のひらの跡がついている。
 赤の他人かちょっとした顔見知りなら、見てみぬふりができるその負傷。
 幼馴染になってしまうと指摘しないわけにはいかない。
 「どうしたんだ、それ。」
 もぞもぞとベッドの上に身を起こしながら訊くと、光は平気な顔で笑った。
 「昨日の客がこういうのが趣味でさ。追加料金はもらったからまぁいいんだけどね。」
 まぁいいわけあるか、と言いたかったが、涼は口をつぐんで貝になった。
 それは、光がここまで自分の身を痛めつける理由を知っているからだ。
 ベッドを降りた涼は、大きな欠伸を噛み殺しながら光の首筋を横目で捉える。
 痣を隠す気があるのならば、ハイネックの服を着るなりなんなりすればいいのに、光はこれみよがしに襟元が大きく開いたシャツを着ている。
 つまり光は、この痣を見せたいのだ。
 そしてその見せたい相手は涼ではなくて……。
 「早く見せてこいよ、和巳さんに。」
 涼がその名を出すと、光は嬉しそうに大きく頷いた。相変わらず、涼の幼馴染はだいぶイカれている。
 「うん。行ってくるね。」
 じゃあ、と手を振って出ていく光の後ろ姿を眺めながら、涼は寝間着代わりのジャージを脱ぎ、適当な私服に着替えた。予定のない土曜日の朝なのに、大分早く起こされてしまって、なんだか損をした気分だった。
 小中高と一緒の幼馴染である光が売春に手を出し始めたのは、ちょうどひと月前。
 光の母親である玲子が男を作って出ていって、父親の和巳と二人で残されたときからだった。
 父親と言っても、和巳も玲子の再婚相手であり、光の実の父親ではない。
 やっかいだな、と、涼は手近にあった漫画本を掴んでベッドに倒れ込みながら思う。
 幼馴染というのは、本当に厄介な関係性だ。
 どうせもうしばらくしたら、義理の父親に相手にされなかった光が半泣きでここに戻ってくる。
 そう思うと、二度寝をするにもどこかに出かけるにも時間は半端だ。
 今度は噛み殺しもせずに大きな欠伸をしながら、涼は幼馴染がまた部屋のドアを開けるのを待つ。


































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