観音通りにて・ウリ専

美里

文字の大きさ
7 / 23

父子

しおりを挟む
「離してよ!」
 「離さない。」
 「なんで!?」
 「話がある。」
 だったら、と言いながら、光は和巳の手を振り払った。そう強く掴まれているわけではなく、手は簡単にはがれた。
 そのことが、悔しくてもどかしかった。
 もっと強く捕まえていて。
 口にした言葉とは真逆に動く心がうるさい。
 「だったら金払ってよ。ホ別一万五千だよ。」
 「払うよ。その気で来た。」
 泣きたくなった。バカにするなよと。けれど涙は出てこない。ただ、ずいと和巳に向かって手を伸ばした。
 「金。」
 すると和巳は素直にその手に札を二枚握らせた。
 「ホテル行くよ。」
 刺々しい口調になった。バカにされている。抱いてくれるつもりなんかないくせに、こんなところまで来てこんな金なんか払って。
 なにかから逃げるように早足で歩く光に、和巳は素直について来た。
 観音通りの中ほどにある、いつものホテル。
 内層がベージュで統一されていて、ラブホっぽくないところが気に入っていつも使っている。そのホテルの前を、光は通り過ぎた。
 そこから数えて四件目。ピンクの城みたいな外観の、いかにもなラブホテル。その前で脚を止め、ここでいいかと顎先だけで和巳に問う。
 和巳は、どこでもいいよ、と頷いた。
 前に客の趣味で一度だけ使ったことのあるホテルだ。内装は白とピンク、照明は濃いピンク、しかも天井は鏡張りときている。
 和巳は薄いピンクのカバーがかかったベッドに腰を下した。
 光は隣に座る気にもなれなくて、白い壁に寄りかかって腕を組んだ。
 「なにしに来たの。」
 「迎えに。」
 「必要ないよ。」
 「あるだろう。」
 「どうして。」
 「危険だから。」
 そう言って、和巳は光の頸に刻まれた痣に手を伸ばした。
 光はその手を払いのけた。
 「迎えが必要なら涼にでも頼むよ。余計なお世話。」
 「それでも、俺はきみの父親だから。」
 「違うって言ってるでしょ。あんたは俺の父親なんかじゃない。母親がどっかで引っかけてきただけの男だ。」
 光の母親は、男をとっかえひっかえ遊んでいるようなタイプの女だった。和巳はその中の一人、たまたま結婚までしてしまった不幸な男だ。実際結婚して半年もたたないうちに、玲子は他の男を作って出て行った。
だから和巳は、真実光の父親なんかではない。
 「それでも俺は、光くんを息子だと思ってる。なにか悩んでるなら相談してほしいんだ。こんなふうに自暴自棄になるんではなくて。」
 悩んでいる原因はお前だ、と言いたかった。
 それなのに言葉は喉の奥に引っかかって出てこない。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...