観音通りにて・ウリ専

美里

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涼と和巳が観音通りへ足を踏み入れたとき、光は街灯の下に立ち、ピンク色のミニスカート姿の女の、これまたピンク色の傘に入っていた。
 女と光は何やら言葉をかわしては笑っている。
 そろそろ夜明けが近い時間帯だったので、もうふたりとも客を待つ娼婦と男娼の顔はしていなかった。ただ、仲のいい友人同士がおしゃべりに興じているだけに見えた。
 涼はその光の姿を見て、声をかけることに躊躇を覚えた。それは和巳も同じだったらしく、二人はちらりと顔を見合わせた。
 するとそのタイミングで、光が涼と和巳の存在に気がついた。
 「なにやってんの? 傘、持ってきてくれたの?」
 ああ、と、涼と和巳はかろうじて頷く。
 光はどこからどう見ても観音通りに馴染みすぎていた。男娼の顔をしているときならともかく、ごく自然体で立っているだけなのに。
 「変なの。二本も傘、いらないよ。」
 冷めた口調で光が言うと、その肩のあたりでピンク色の女が笑った。
 「帰ろう。」
 と和巳が言った。
 光はあっさり頷いて、女の傘から出ると涼の傘に飛び込んできた。
 「安奈さん、ありがとう。」
 短い礼に、ピンクの娼婦は斜に構えた眼差しだけで応じた。年齢はそう光や涼と変わらないのだろうに、その仕草は堂に入っていた。多分、もう長いことこの通りに立っている女なのだろう。
 どこか引っかかるようなぎくしゃくとした動きで、涼は光にビニール傘を差し出した。それとほとんど同時に、和巳も黒い傘を差し出していた。
 光は二本の傘を呆れたように見比べ、両方を手に取った。
 「ありがと。でも、一本で足りるから。ていうか別に迎えに来てくれなくていいから。」
 そう言いながら、光はビニール傘を広げてさした。
 涼と和巳は黙って視線を交わした。
 自分たちはこの世に例がないほどの間抜けだという気がしていた。
 しばらく三人は、黙ったまま肩を並べて歩いた。
 すると唐突に、それは本当に唐突と言えるタイミングで、和巳が口を切った。
 「迎えに来させてよ。」
 あまりにその言葉が急に投げ出されたので、涼と光はきょとんと和巳の顔を見上げた。
 和巳は白い顔をしていた。ぎゅっと結ばれた唇が、彼の生真面目さを物語っているようだった。
 しばらく無言の間が空いた。
 涼は手持ち無沙汰に傘傾け、水滴をアスファルトに落とした。
 子供の頃からの涼のその癖を横目で見ていた光は、来ないで、と言った。
 「来ないで。……あの通りであなたは、きっと……。」
 その先を、光は口にしなかった。
 きっと、なに? と問い返した和巳にも、首を横に振って見せただけだった。
 涼には、きっと、のその続きが分かっていた。
 きっと、玲子を見つけてしまうから。
 そこから先は、誰もなにも喋らなかった。
 雨がしとしとと降り続いていた。




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