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聖女抹殺? 編
ミラクル14 砂漠の雪獅子
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「そうか、お前さん方がワシを救ってくださったんか。かたじけないのう……ほんに、ありがとなあ」
鮮烈な西日が砂漠をオレンジ色に染める夕暮れ時。ようやく意識を取り戻したイガタ族の族長、五十路の白獅子アデスはロアと清美の前で正座をすると、両手を膝に突いて深々と頭を下げた。
聖女の奇跡によりブーストされた回復魔術により胸の傷はすっかり塞がり、血まみれになった包帯と大量の生理用品を剥がした患部は毛皮こそやや薄くなってしまったものの、綺麗に修復されている。その毛皮も、放っておけばそのうちまた伸びてくるだろう。
「どういたしまして。それにしても、よくあれだけ心臓を刺されたのに生きながらえてましたね。獣人ってみんなそうなんですか?」
「ああ、ワシの心臓は人よりほんの少しだけ内側にズレたところにあるけえ。特に自慢することでもないきに、今まで誰にも話したことがなかったんじゃが、そのお陰で死に損なえたわい」
カラカラと快活に笑いながら、古傷のない方の隻眼でお茶目にウインクをする白獅子。そんな彼に、清美とロアはこれまでのことのいきさつを詳しく話して聞かせる。
「ふうむ、そっちのお嬢ちゃんが聖女様で、こないだいきなり雨が降ったのはお嬢ちゃんとお前さんがパンシャンの塔に行ったお陰、と。……俄かには信じられんのう。いや、命の恩人の言葉じゃけえ、信じにゃならんのはわかっちょるが」
「まあ、そんなこといきなり言われても、はいそうですかとはなりませんよね」
「我とてキヨミが聖女などと、最初は半信半疑であったからな。水の奇跡がなければ狂人の戯言と一蹴しておったであろう」
現在絶賛御家騒動真っ最中の族長アデスを連れンノカジ族の村に戻るわけにもいかず、さりとてイガタ族の村に連れて行ってはどんな誤解を招くとも知れず。
やむなく彼が目覚めるまでチートドアを全開にして溢れ出る冷気の前で涼むという、電力不足で節電に苦しむ日本人が見たらブチギレそうな涼み方をしながら待っていたふたりから聞かされた話に、隻眼の白獅子アデスは現実逃避を試みるかのように片目を瞑る。
「プレアの阿呆めが。族長になりたいんじゃったら正々堂々ワシに決闘を申し込めばええじゃろうに、人間なんぞと結託してしょうもない悪巧みとは……とと、すまん。お嬢ちゃんも人間じゃったか」
「別にいいですよ。獣人と人間の溝は、結構深いみたいですし」
「いんや、お嬢ちゃんはワシの命の恩人じゃ。その恩人様に唾吐いて知らん顔するような恥知らずな真似は、大戦士アルケディオスの名に懸けてできん。すまなんだ、キヨミ殿」
誰? という顔をする清美に、ロアがそっと耳打ちして教えてくれた。今から数百年程前。かつて外の大陸から人間がやってくるまでは、この砂漠を二分して競い合っていたンノカジ族の始祖・虎の大戦士ロアフォルドーとイガタ族の始祖・獅子の大戦士アルケーディオス。ロアとアデスの名もそこから来ているのだそうだ。
かつてこの砂漠の支配者の座を賭けて争い合っていた偉大な先祖の血を色濃く受け継いだロアとアデスは、若い頃から互いをライバルと認め時に競い合い、時に笑い合い、切磋琢磨しながらそれぞれの部族をよりよく導くべくぶつかり合って来たという。
「それで? 貴様、これからどうするつもりだ」
「そうじゃのう、事はワシが思っておった以上にややこしいことになっちょるようじゃし」
顎のタテガミをさすりながら、五十路の白獅子は考え込む。聖女キヨミを巡る謎の陰謀が人間達の水面下でうごめき、そんな人間達を釣り上げるべく清美を餌に動き出したロアの前に、まんまとそれに踊らされ現れたバカ息子プレアとその仲間達は旧友の恩情により一命を取り留めたこの状況。
イガタ族の村に戻り、息子を折檻するか? 聖女への恩返しのために、人間達と敵対するか? ンノカジ族の賓客にイガタ族の族長の息子が手を出そうとした、という面子にかかわる問題はどう落とし前をつけるか?
幾ら老いぼれ、相手が血を分けた息子だったとはいえ、眠っている闇討ちされあわや死にかけた自分自身が、今後も素知らぬ顔で群れを率いてよいものか。一瞬で数々の思慮と打算が彼の脳内を駆け巡る。恐らくはアデスが眠っている間に、ロアの脳内でも似たような計算が弾かれたことだろうという確信もある。
「このまま死んだ事にして引退、かのお」
「ふむ」
「え?」
折角助かったのに? ときょとんとした顔をする清美に、アデスは寂しげな笑みを浮かべる。元より保守的で堅物なアデスに対し、時代遅れの頑固ジジイ、と反発する若者は少なくなかった。少なくともその筆頭であるプレアの反逆に付き従う若者達がそれなりの数いたということも、それを証明している。
「ワシももう十分生きた。聖女が現れよってこん砂漠に次なる時代の波が押し寄せてこようとしとるんじゃったら、今更死にかけの老兵が出しゃばるっちゅうんも違うじゃろ」
日本人である清美からすれば五十路のアデスを年寄り呼ばわりするのは違うんじゃないの? って気もするが、平均寿命が現代日本より遥かに短いこの世界では五十代は立派なジジイ、ともすれば四十代のロアとてジジイ扱いされるような環境なのだ。
「ワシが手ずから育て上げた戦士共は、バカ息子共の反乱程度でどうこうなっちまうようなヤワな鍛え方はしちょらん。ワシがおらんでも、イガタ族は立派にこの砂漠で生きていけるじゃろ」
「引退するのは構わんが、その後はどうするつもりだ?」
「そうじゃなあ。この砂漠を飛び出して、あてもなく根無し草の風来坊っちゅう余生も面白いかもしれんが……」
老いたる雪獅子、アデスは自らの終生のライバルにして命の恩人たるロアから、その隣に座る聖女・御手洗清美に隻眼の視線を移す。
「聖女様に救われた命じゃ。それじゃったら、聖女様のために燃やし尽くすのが筋っちゅうもんかもしれん」
「いやいやいや、半分はロアさんのお陰ですよ?」
「むさ苦しい虎のジジイよりも、おっぱいの大きな美人さんのために働く方が俄然やる気が出るじゃろ?」
「ワーオ、ここにきて割と最低な発言出ましたね……。族長ってセクハラジジイじゃないとなれない決まりでもあるんですか?」
「コイツは族長になる前からこういう奴だぞ? 最期に見るのが俺の顔だなんて、ついてないにも程があるとさっきも言っていただろう」
「ちょっと!! アレってそういう意味だったんですか!?」
途切れ途切れに言いかけていた『最期にお前の顔』の真実も驚きなら、それをキッチリ理解している旧友の類は友を呼ぶっぷりにもドン引きである。
あの聖女に縋るかの如く清美に向けらた視線は、なんてことはない、むさ苦しいジジイの雄っぱいを見上げながら死ぬよりも、清美の顔とおっぱいを見つめながら死にたかっただけというまさかの新事実が判明し、呆れと怒りとそこまでいくと逆にスゲエ、という気持ちがが1/3ずつ込み上げてくる清美。
「気を付けろキヨミ。コイツは人前では堅物ぶってはいるが、チャンスだけは絶対に逃さん根っからのムッツリだぞ。危険だからもっと我の傍に寄るがいい。そなたを守るのはこの剛槍のロアに置いて他におるまい?」
「いやいや、コイツにこそ気を許しちゃあいけんぞお嬢ちゃん。剛槍なのは何も武器だけじゃあないけえ。来る者拒まず去る者戻ってくるで、一人寝の夜にどれだけの女を泣かせてきたことか」
「どうしよう、助けない方がよかったかもしれない」
冗談はさておき、とポリコレもコンプラもない異世界ジョークに額に青筋を浮かべる清美に向かって、古老の雪獅子アデスは真剣で姿勢を正し、とても綺麗な所作で堂々たる土下座をした。
「キヨミ殿。キヨミ殿に救われたが行くあても、戻るあてものうなったこの命、キヨミ殿のために捧げさせちゃあもらえんじゃろか。ワシはアデス。双曲刀のアレスじゃ」
これまでの砕けた雰囲気から一転。真剣な顔で真剣に頭を下げられ、『えっと、どうしよう? どうしたらいいの?』と困ったようにロアに視線をやる清美だったが、『決めるのはそなた自身だ』と無言で頷かれ、途方に暮れてしまう。
そりゃそうだろう。いきなり人ひとりに命を預けるなどと言われてしまっては、平々凡々な日本人女性には些か、大分、相当、かなり荷が重い。
「えっと、じゃあ、その……お試しで!」
「お試し?」
「そうです! 今日会ったばかりの人にいきなりそんなこと言われても困っちゃいますし、だったらしばらくは試用期間ってことで! もしアデスさんが途中で『やっぱりなんか違うな』とか『最初に思ってたのと違うな』と感じるようでしたらクーリングオ……私に尽くそうとするのやめてもらって全然構いませんので!」
私本当にたまたま偶然聖女に抜擢されただけで、そんな崇高な女じゃないんです! と力説する清美に最初はポカーンとした表情のアデスであったが、徐々に肩を揺らし始める。やべえ怒らせたか? と清美が清美が口元に手を当てたのも束の間、アデスは盛大に大爆笑し始めたではないか。
「クハハハハハ! お試し、そうかお試しか! ええじゃろええじゃろ、さすがにワシもお嬢ちゃん相手に早急すぎたかもしれんきに、そいじゃあ、お試しっちゅうことで、よろしく頼む!」
「あ、はい」
ガシっと固い握手を交わし合う清美とアデス。そんなふたりを、やや面白くなさそうに見ているのはすっかり蚊帳の外に置かれたロアだ。
「フフ、懐かしいのう。ひとりの美女を巡ってお前さんとその愛を奪い合う。何十年ぶりじゃろうか」
「アレはまだサンドリヤン王国の先王が生きておった頃だからな。もう20年近くになるか」
「戦績は覚えておるじゃろうな?」
「さてな。俺はその時その時で目の前のひとりを心から真剣に愛する男だ。貴様のように女を数で数えるような惨い仕打ちはできんのだよ。なあキヨミ?」
「私に振らないでください」
「ならば人生最後の大一番の真剣勝負。彼女のハートを先に……いや、最終的に手にした方が勝ち、と」
「私に振るなっつってんだろーが!」
この色ボケジジイ共が! と聖女の中指が炸裂するも、それすらも彼らにとっては嬉しく、また楽しいようであった。なんとも困った旧友同士だが、こうして笑い合うことができるのも、助けられたからこそである。悲嘆に暮れながらアデスの亡骸を砂漠に埋葬するよりはずっといい結果に終わってよかったと、清美は思った。
鮮烈な西日が砂漠をオレンジ色に染める夕暮れ時。ようやく意識を取り戻したイガタ族の族長、五十路の白獅子アデスはロアと清美の前で正座をすると、両手を膝に突いて深々と頭を下げた。
聖女の奇跡によりブーストされた回復魔術により胸の傷はすっかり塞がり、血まみれになった包帯と大量の生理用品を剥がした患部は毛皮こそやや薄くなってしまったものの、綺麗に修復されている。その毛皮も、放っておけばそのうちまた伸びてくるだろう。
「どういたしまして。それにしても、よくあれだけ心臓を刺されたのに生きながらえてましたね。獣人ってみんなそうなんですか?」
「ああ、ワシの心臓は人よりほんの少しだけ内側にズレたところにあるけえ。特に自慢することでもないきに、今まで誰にも話したことがなかったんじゃが、そのお陰で死に損なえたわい」
カラカラと快活に笑いながら、古傷のない方の隻眼でお茶目にウインクをする白獅子。そんな彼に、清美とロアはこれまでのことのいきさつを詳しく話して聞かせる。
「ふうむ、そっちのお嬢ちゃんが聖女様で、こないだいきなり雨が降ったのはお嬢ちゃんとお前さんがパンシャンの塔に行ったお陰、と。……俄かには信じられんのう。いや、命の恩人の言葉じゃけえ、信じにゃならんのはわかっちょるが」
「まあ、そんなこといきなり言われても、はいそうですかとはなりませんよね」
「我とてキヨミが聖女などと、最初は半信半疑であったからな。水の奇跡がなければ狂人の戯言と一蹴しておったであろう」
現在絶賛御家騒動真っ最中の族長アデスを連れンノカジ族の村に戻るわけにもいかず、さりとてイガタ族の村に連れて行ってはどんな誤解を招くとも知れず。
やむなく彼が目覚めるまでチートドアを全開にして溢れ出る冷気の前で涼むという、電力不足で節電に苦しむ日本人が見たらブチギレそうな涼み方をしながら待っていたふたりから聞かされた話に、隻眼の白獅子アデスは現実逃避を試みるかのように片目を瞑る。
「プレアの阿呆めが。族長になりたいんじゃったら正々堂々ワシに決闘を申し込めばええじゃろうに、人間なんぞと結託してしょうもない悪巧みとは……とと、すまん。お嬢ちゃんも人間じゃったか」
「別にいいですよ。獣人と人間の溝は、結構深いみたいですし」
「いんや、お嬢ちゃんはワシの命の恩人じゃ。その恩人様に唾吐いて知らん顔するような恥知らずな真似は、大戦士アルケディオスの名に懸けてできん。すまなんだ、キヨミ殿」
誰? という顔をする清美に、ロアがそっと耳打ちして教えてくれた。今から数百年程前。かつて外の大陸から人間がやってくるまでは、この砂漠を二分して競い合っていたンノカジ族の始祖・虎の大戦士ロアフォルドーとイガタ族の始祖・獅子の大戦士アルケーディオス。ロアとアデスの名もそこから来ているのだそうだ。
かつてこの砂漠の支配者の座を賭けて争い合っていた偉大な先祖の血を色濃く受け継いだロアとアデスは、若い頃から互いをライバルと認め時に競い合い、時に笑い合い、切磋琢磨しながらそれぞれの部族をよりよく導くべくぶつかり合って来たという。
「それで? 貴様、これからどうするつもりだ」
「そうじゃのう、事はワシが思っておった以上にややこしいことになっちょるようじゃし」
顎のタテガミをさすりながら、五十路の白獅子は考え込む。聖女キヨミを巡る謎の陰謀が人間達の水面下でうごめき、そんな人間達を釣り上げるべく清美を餌に動き出したロアの前に、まんまとそれに踊らされ現れたバカ息子プレアとその仲間達は旧友の恩情により一命を取り留めたこの状況。
イガタ族の村に戻り、息子を折檻するか? 聖女への恩返しのために、人間達と敵対するか? ンノカジ族の賓客にイガタ族の族長の息子が手を出そうとした、という面子にかかわる問題はどう落とし前をつけるか?
幾ら老いぼれ、相手が血を分けた息子だったとはいえ、眠っている闇討ちされあわや死にかけた自分自身が、今後も素知らぬ顔で群れを率いてよいものか。一瞬で数々の思慮と打算が彼の脳内を駆け巡る。恐らくはアデスが眠っている間に、ロアの脳内でも似たような計算が弾かれたことだろうという確信もある。
「このまま死んだ事にして引退、かのお」
「ふむ」
「え?」
折角助かったのに? ときょとんとした顔をする清美に、アデスは寂しげな笑みを浮かべる。元より保守的で堅物なアデスに対し、時代遅れの頑固ジジイ、と反発する若者は少なくなかった。少なくともその筆頭であるプレアの反逆に付き従う若者達がそれなりの数いたということも、それを証明している。
「ワシももう十分生きた。聖女が現れよってこん砂漠に次なる時代の波が押し寄せてこようとしとるんじゃったら、今更死にかけの老兵が出しゃばるっちゅうんも違うじゃろ」
日本人である清美からすれば五十路のアデスを年寄り呼ばわりするのは違うんじゃないの? って気もするが、平均寿命が現代日本より遥かに短いこの世界では五十代は立派なジジイ、ともすれば四十代のロアとてジジイ扱いされるような環境なのだ。
「ワシが手ずから育て上げた戦士共は、バカ息子共の反乱程度でどうこうなっちまうようなヤワな鍛え方はしちょらん。ワシがおらんでも、イガタ族は立派にこの砂漠で生きていけるじゃろ」
「引退するのは構わんが、その後はどうするつもりだ?」
「そうじゃなあ。この砂漠を飛び出して、あてもなく根無し草の風来坊っちゅう余生も面白いかもしれんが……」
老いたる雪獅子、アデスは自らの終生のライバルにして命の恩人たるロアから、その隣に座る聖女・御手洗清美に隻眼の視線を移す。
「聖女様に救われた命じゃ。それじゃったら、聖女様のために燃やし尽くすのが筋っちゅうもんかもしれん」
「いやいやいや、半分はロアさんのお陰ですよ?」
「むさ苦しい虎のジジイよりも、おっぱいの大きな美人さんのために働く方が俄然やる気が出るじゃろ?」
「ワーオ、ここにきて割と最低な発言出ましたね……。族長ってセクハラジジイじゃないとなれない決まりでもあるんですか?」
「コイツは族長になる前からこういう奴だぞ? 最期に見るのが俺の顔だなんて、ついてないにも程があるとさっきも言っていただろう」
「ちょっと!! アレってそういう意味だったんですか!?」
途切れ途切れに言いかけていた『最期にお前の顔』の真実も驚きなら、それをキッチリ理解している旧友の類は友を呼ぶっぷりにもドン引きである。
あの聖女に縋るかの如く清美に向けらた視線は、なんてことはない、むさ苦しいジジイの雄っぱいを見上げながら死ぬよりも、清美の顔とおっぱいを見つめながら死にたかっただけというまさかの新事実が判明し、呆れと怒りとそこまでいくと逆にスゲエ、という気持ちがが1/3ずつ込み上げてくる清美。
「気を付けろキヨミ。コイツは人前では堅物ぶってはいるが、チャンスだけは絶対に逃さん根っからのムッツリだぞ。危険だからもっと我の傍に寄るがいい。そなたを守るのはこの剛槍のロアに置いて他におるまい?」
「いやいや、コイツにこそ気を許しちゃあいけんぞお嬢ちゃん。剛槍なのは何も武器だけじゃあないけえ。来る者拒まず去る者戻ってくるで、一人寝の夜にどれだけの女を泣かせてきたことか」
「どうしよう、助けない方がよかったかもしれない」
冗談はさておき、とポリコレもコンプラもない異世界ジョークに額に青筋を浮かべる清美に向かって、古老の雪獅子アデスは真剣で姿勢を正し、とても綺麗な所作で堂々たる土下座をした。
「キヨミ殿。キヨミ殿に救われたが行くあても、戻るあてものうなったこの命、キヨミ殿のために捧げさせちゃあもらえんじゃろか。ワシはアデス。双曲刀のアレスじゃ」
これまでの砕けた雰囲気から一転。真剣な顔で真剣に頭を下げられ、『えっと、どうしよう? どうしたらいいの?』と困ったようにロアに視線をやる清美だったが、『決めるのはそなた自身だ』と無言で頷かれ、途方に暮れてしまう。
そりゃそうだろう。いきなり人ひとりに命を預けるなどと言われてしまっては、平々凡々な日本人女性には些か、大分、相当、かなり荷が重い。
「えっと、じゃあ、その……お試しで!」
「お試し?」
「そうです! 今日会ったばかりの人にいきなりそんなこと言われても困っちゃいますし、だったらしばらくは試用期間ってことで! もしアデスさんが途中で『やっぱりなんか違うな』とか『最初に思ってたのと違うな』と感じるようでしたらクーリングオ……私に尽くそうとするのやめてもらって全然構いませんので!」
私本当にたまたま偶然聖女に抜擢されただけで、そんな崇高な女じゃないんです! と力説する清美に最初はポカーンとした表情のアデスであったが、徐々に肩を揺らし始める。やべえ怒らせたか? と清美が清美が口元に手を当てたのも束の間、アデスは盛大に大爆笑し始めたではないか。
「クハハハハハ! お試し、そうかお試しか! ええじゃろええじゃろ、さすがにワシもお嬢ちゃん相手に早急すぎたかもしれんきに、そいじゃあ、お試しっちゅうことで、よろしく頼む!」
「あ、はい」
ガシっと固い握手を交わし合う清美とアデス。そんなふたりを、やや面白くなさそうに見ているのはすっかり蚊帳の外に置かれたロアだ。
「フフ、懐かしいのう。ひとりの美女を巡ってお前さんとその愛を奪い合う。何十年ぶりじゃろうか」
「アレはまだサンドリヤン王国の先王が生きておった頃だからな。もう20年近くになるか」
「戦績は覚えておるじゃろうな?」
「さてな。俺はその時その時で目の前のひとりを心から真剣に愛する男だ。貴様のように女を数で数えるような惨い仕打ちはできんのだよ。なあキヨミ?」
「私に振らないでください」
「ならば人生最後の大一番の真剣勝負。彼女のハートを先に……いや、最終的に手にした方が勝ち、と」
「私に振るなっつってんだろーが!」
この色ボケジジイ共が! と聖女の中指が炸裂するも、それすらも彼らにとっては嬉しく、また楽しいようであった。なんとも困った旧友同士だが、こうして笑い合うことができるのも、助けられたからこそである。悲嘆に暮れながらアデスの亡骸を砂漠に埋葬するよりはずっといい結果に終わってよかったと、清美は思った。
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