トイレの聖女様! ~我々が必要としているのは聖女であって便所ではない! と追放された召喚聖女、砂漠の獣と奇跡を起こす!~

神通力

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聖女抹殺? 編

ミラクル15 剛速球ど真ん中ストレート

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「あの、アデス様ですよね? イガタ族族長の」

「いんや、人違いじゃ。ワシは通りすがりのダンデーなライオン、水売りのキヨミ殿の用心棒。いわゆるボデーガードじゃけえ」

「いや、さすがにそれは無理があるのでは?」

「人違いったら人違いじゃ! のうロア、お前さんからも言うたってくれ!」

「いや、我が言うのもなんだが、やはりその設定には無理があるのではないか? せめて変装するなり、顔を隠すなりせねば」

「この裏切りモンがあ!」

「いや、コントをやっている場合じゃないでしょう?」

イガタ族の族長、白獅子アデスの一命を寸でのところでギリギリなんとか救い、一夜明けて翌朝。ロアとアデスと共にンノカジ族の新たな集落に戻ってきた清美達一行は、留守を預かっていた族長代理のテオから、怪しげな人間の一団が村に侵入したと聞き驚いていた。

「まったく、ドイツもコイツも」

プンスコ怒りながらンノカジ族の集落にもよくある青い防塵マフラーを巻いて口元を隠し、タテガミの一部を結い上げる腰布姿の熟年ライオンを横目に、清美とロアはテオに向き直る。

「して、被害は?」

「被害らしい被害もありませんでしたよ。どれだけ頭数を集めようとも、所詮は人間……っと、すまないミタライ」

「いえ、テオさんに悪意がないことは知ってますから」

「そうか、すまない。とにかく、コッソリ村に侵入しようとした人間は全員捕まえて尋問を済ませてある」

テオとその仲間達が聞き出そうとしたところによると、なんでもいかにも暗殺者然としたこの砂漠で黒ずくめとかいうとんでもない格好をした人間の一団は、誰ひとり口を割らなかったらしい。

それどころかならばと拷問にかける前に全員口内に隠し持っていた毒を噛んで割って自害したとかで、情報らしい情報はほとんど得られなかったそうだ。死体は既に始末しました、と何食わぬ涼しい顔でのたまうテオに、若干引き気味な清美の視線が向けられる。

普段どれだけ温厚な紳士でも、彼は砂漠に住まう蛮族であり生死を懸けた戦いに慣れた戦士なのだ。敵を殺し、殺した敵の亡骸を始末するも有効活用するも、躊躇いのない野生の獣。それがンノカジ族の猛虎達なのである。

「ふむ。そこまで頑なに口を閉ざし、あろうことか機密保持のため自害するとは。件の『ある高貴なお方』とやらは、余程用心深いと見える」

「そうじゃなあ。恐らくプレア達の阿呆共がしくじったことを知って、子飼いの部下か、もしくは捨て駒に雇った暗殺者でも送り付けてきたんじゃろ」

「あの、いいんですか族長? アデス様にその、話を聞かせてしまっても」

「ああ、構わん構わん。我が許す」

「というか、ワシはもう死んだ事になっちょる身じゃけえ、気にせんでよか!」

「本当に、一体何があったんですか?」

困った顔で助けを求めるように清美を見てくるテオに、彼女は一部始終を話す。ロアが怪しげな人間達をおびき寄せるべく、清美自身を餌にして連中を釣ろうとしたこと。だが釣られたのは、人間に買収されたイガタ族の若者達だったこと。

その過程で族長アデスの息子プレアが仲間達と共に父親に薬を持って殺害しようとしたが、ロアの回復魔法で一命を取り留めたこと。そうしてロアと清美を命の恩人と深い感謝の念を抱き、また今回の事件をきっかけに族長を引退することを決意したこと。

濃い1日だったんだなあ、と機能の朝この村を出発してから今朝戻ってくるまでの間に起きた出来事をザックリ説明し終えた清美は、喋り疲れた喉を聖女ウォーターで潤す。

「……うーん、事態は思っていたよりも面倒かつ複雑に絡み合っているようですね」

「ああ。とはいえ、イガタ族の若造共の一部が先走って我に剣を向けてきたことは、決して無視できる案件ではあるまい?」

「そこを、バカ息子の暴走を止められなんだワシが責任を取って引退という形で、手打ちにしてもらったっちゅうわけじゃ」

「なるほど、そういういきさつが」

イガタ族族長の息子が人間に唆され、ンノカジ族族長とその賓客を襲ったとあらば面子にかかわる一大事になりかねない。どんな理由があろうとも、起こってしまった事実は消えないのである。そういう意味でも、今のアデスの立ち位置は双方にとってかなり重要であった。

「やはり、引退なさるなら一度きちんと戻られて、話をつけられた方がよろしいのでは?」

「お主もそう思うか?」

「当り前じゃないですか。ともすればミタライにも被害が及ぶんですよ? ただでさえ族長夫人達から険悪な視線を向けられているというのに、この期に及んでアデス様を誑かした、などとイガタ族から逆恨みされてしまっては彼女の沽券にかかわります!」

「テオさん……!」

そこまで私の心配をしてくれているんですね! と後ろの色ボケジジイふたりがなまじ我が道を突っ走るタイプであるだけに感動する清美。ちょっとおっかないところが垣間見えてしまったけれども、やはりテオさんはこの砂漠の良心なのでは?

「うーむ、それはちと不味いか。しょうがないのお」

ガシガシと頭を掻きながら、面倒臭そうにため息を吐く白獅子。

「フ! ンノカジ族の族長とイガタ族の族長を両方魅了し手玉に取ったとあらば、聖女の名にも箔が付こうものよな!」

余計なことを漏らした猛虎のわき腹に、聖女の肘鉄が炸裂したが彼はちっとも痛がる様子はなく、むしろテメーの腹筋は鉄板か何かか! と肘内をした側の清美の方が痛がっているのが、なんとも微妙な光景である。

   ☆★☆

「アナタまでついて来ちゃってよかったんですか? また人間達が村を襲ってこないとも限らないのでは?」

「その心配はあるまい。余程の愚か者でもない限り、昨日の今日で二の矢三の矢を撃ってくることはない筈」

ロア、アデス、清美の3人で、イガタ族の村に向かう道中。例によって歩くのが遅い上にたったの5時間程度の疾走でヘトヘトに疲れてしまう軟弱な(?)清美をお姫様抱っこしながら、ロアは状況を語る。

「前にも言ったが、そなたを罪人扱いで始末したいだけなら軍でもなんでもけしかけて大っぴらに処断すればよいだけの話だ。それをやらずにコソコソとイガタ族の連中を唆したり人を雇ったりするからには、連中には表立って騒ぎ立てることのできぬ理由があるのであろう」

「バカ息子共が失敗し、その次に送り出した連中が返り討ちになった今、ムキになって更に刺客を造園するような下策を取るバカが相手なら御しやすいんじゃがなあ。歯噛みしようが地団駄踏もうが、そこで引き下がれる奴が相手となるとちと面倒じゃぞ?」

「逆にそうなった場合、しばらくそなたの身は安泰であろうがな」

「そういうものなんです?」

「まあ、必ずしもそうとは限らんが」

「誰も彼もが損得勘定だけで理知的で合理的な判断を冷静に下せるのならば、争いは起こらんけえ」

言ってる傍から、砂丘の影からゾロゾロと人影が現れたではないか。砂漠のど真ん中だというのに全身黒ずくめという、保護色もへったくれもない熱中症待ったなしの格好で全身と顔を覆い隠した一団が、キョトンとする3人に一斉に武器を向ける。

そんな彼らの前に一歩踏み出したのは、つい先日ンノカジ族の村を訪れた胡散臭い茶髪の男だ。

「偽聖女、並びにそれを匿った愚かな獣風情。並びにそれに同行する老いぼれの皆さん、わざわざご足労ご苦労様です。早速ですがその命、もらい受けますよ」

「……バカだったぞ」

「バカじゃったな」

「バカでしたね……」

まさか本人が出てくるとは、と呆れ顔のロア。こんな奴の口車に乗るバカがどこにおるんじゃ、と息子の愚行に頭を抱えたくなるアデス。結局アンタ誰なのよ? と首を傾げる清美。

「誰がバカですって⁉ 皆さん、やっておしまいなさい!」

茶髪男の号令を合図に毒の塗られた吹き矢が飛んでくるも、瞬時に首から取った青い防塵マフラを一薙ぎにそれら全てを叩き落とし、白獅子アデスが五十路とは思えない機敏な動きでその腰に提げた対の曲刀を抜く。

「やーれやれ、念のため武器を借りてきて正解じゃったわい」

「うむ。探し出す手間が省けた」

ククリ刀、或いはマチェーテとも呼ぶべきか。くの字に曲がった鋭利な曲刀を両手に持ち、構えるアデス。ロアもまた隠れていろ、と清美を降ろすと、背中に背負ってきたバレーボールの鉄柱が如き長くぶっとく凄まじく重たい砂クジラの骨製の剛槍を肩に担ぐ。

「ふたりとも、気を付けてくださいね!」

「逃してはなりませんよ! 全員この場で仕留めるのです!」

「それはちと」

「無理じゃな」

清美が召喚したチートドアの中に入り、ドアを閉め鍵をかける音がガチャリと響き渡ると同時に、殺戮にもならない、一方的な蹂躙が始まった。

「どれ」

獣人の筋力、瞬発力、脚力、跳躍力は、いずれも人間のそれとは比べものにならない。獣の素足で大地を蹴って、瞬間移動めいた超スピードで吹き矢兵の頭を踊るように次々と両手に持った曲刀で刎ねていく雪獅子アデスのやり方は、剣舞が如く洗練されスマートだ。

「おのれ!」

「臆するな! 囲め!」

「遅い遅い」

仲間が目の前で殺されていくのに動揺しつつも、数で囲んで叩こうとする槍兵や剣兵達の間を、残像すら残る程の超スピードで縦横無尽に砂漠を行き来する老獅子を誰の一撃も捉えること能わず。恐るべきヒット&アウェイ戦法を前に、どんどん数を減らしていく敵達。

「さて。そなたには訊きたい事がある」

「ひ、ひい!? アナタ達! たった2匹を相手に何を手こずっているのです⁉」

「ですが!」

「ぐわあ!?」

族長アデスの戦法が速度に特化したものであるならば、族長ロアの戦法は一撃の重きに特化したものだった。首を刎ねるでも、心臓を突くでもなく、叩き潰す。長さ約3m、直系約20cm、重さ約100kg程度の鋼鉄よりも硬い柱で頭を殴られたら人は死ぬ。

頭蓋骨陥没、頭蓋骨粉砕、或いは首の骨が折れ、頭があらぬ方向に曲がる。腹を突かれれば内蔵破裂。脚を救われれば複雑骨折。おおよそたったの一撃で、それなりに鍛えられた兵達が再起不能なまでに叩きのめされていく。

「いかんなあ、実にいかん。覚えておくがいい、人間。戦士とは常に先頭に立って、敵の首を獲らんとするものだ。己自身の手で戦うことなく後ろで喚き散らしているだけの男に、誰がついてくると思う?」

「ぐ!? 誰か、誰か私を助けなさい! 助けっ⁉」

気付けば彼の連れてきた兵達は物言わぬ躯となって砂漠に斃れ、返り血の一滴も浴びることなく涼しい顔で砂漠に仁王立ちする前門の虎、後門の獅子。身長2m越えの虎男に片手で首を鷲掴みにされ、軽々と持ち上げられた茶髪の男の顔が苦悶に歪む。

「わ、私に手を出せば、あのお方が黙っちゃいませんよ! お前達蛮族風情、明日にでも皆殺しにっ!?」

グイ、と喉を潰さんと虎男の大きな手が彼の首を締め上げ、砂から浮き上がった足がジタバタ暴れ始めるもなんの抵抗にもならず。自身の体重が、茶髪男の首を自重で絞めにかかる。首吊りであれば首の骨が折れて即死しようが、これは絞首刑ではない。

「人間共の王だろうがなんだろうが、自分で殺しに来ない奴など恐るるに足りん」

「どっち道お前さんは今日ここで、明日の朝日を拝むことなく死ぬからのう」

「た、助け! やめ、死にたくないいい!」

それはもはや絵面が完全に弱い者イジメだった。ミシミシと首の骨が軋み、気道が握り潰され、息ができずに意識が朦朧とし始める。このまま首をへし折られて死ぬのが先か、鷲掴みにされた首を片手で高々と持ち上げられて窒息死するのが先か。

「一度だけ問う。答えぬなら殺す。貴様らは何故、キヨミを付け狙う?」

「し、知らない! 私はアイツを始末しろと命じられただけで、それ以上のことは何もっ!」

「誰に?」

「い、言えない! 言ったら口封じに殺されてしまう! まず間違いなくっ!」

「言わんでも間違いなく死ぬが?」

「ひ、ひいい⁉ ひいいいい! 嫌だ! 助けて! 死にたくない! 誰か、誰か私を助けなさい! 誰かあ!」

幼少期。茶髪の男は『砂漠には恐ろしい、人食い虎がいるから絶対に行ってはいけないよ』と教えられて育った。それが子供達を危険な砂漠に行かせないための方便であることは、すぐに判った。バカバカしい子供騙しだ、と彼は笑った。

人、コレを走馬灯と言う。
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