ふたなりのままでいようと思ったら、知略の王子と不敵なる王から、狙われてしまった私

sierra

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第一章

キスの練習(改)

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「まだ解けていない」

 父にいいように利用されて、むすっとしているクリスが言った。

「まだ何かあったかな?」
 
 落ち着き払っているグリフィスもまたしゃくに障る。

「貴方が実はヘルマプロディトスの国王の座を狙っているかもしれないじゃない?」
「もっともな疑問だが、君が結婚してくれるなら王座に就く権利を放棄ほうきするよ。今は俺が第一候補だが、確か君の従兄いとこが最近まで第一候補だった筈だ」

 私が変化しないから従兄がぐ話しが出ていたのは、思い違いではなかったのだ。それが急に見合いをして結婚しろと言うのでおかしいと思ったら、グリフィスに目を付けていたのか・・・

「あとは・・・最近何でずっと、私を避けていたの・・・?」

 少し傷ついていたので、グリフィスの顔を見ずに質問をする。

「あれは・・・反省したから」
「反省?」

「君がランダルに襲われた時、扉を壊して侵入したら、俺がした事を再現していた。君は怖がって泣いているように見えたし、最初はランダルを殺すことで頭が一杯だったけど、落ち着いてきたら自分が最低な奴に思えてきて・・・」
 
「ランダルに襲われている私を見て、同じ事をした自分を恥じた・・・という事?」

「そうだ――あれは申し訳なく思っている・・・君がプリシラのフィアンセを演じている時に、ランダルがちょっかいを出してきていたのをいやがっているように見えなくて、いや、むしろ楽しそうに見えたから大人気なく嫉妬しっとしたんだ」

「え・・・だって、借金をしていて波風立てられないって言ったから、一生懸命我慢したのに」

 グリフィスは溜息をついた。

「本当に悪かった。だから、君と距離を取ったんだ。俺が嫌なんではないかと思って・・・現に助け出した時に、視線が合ったらすぐにらしただろう? だからアーネストに君を運ぶように頼んだんだ。腰を悪くしていると言うから、結局俺が運んだのだが」

「私が、貴方を嫌がっていると思ったの・・・?」

 クリスは手を伸ばして、グリフィスの目に掛かっている幾筋いくすじかの前髪を横に流した。グリフィスはその手をとらえる。

「その通りだ」
「でも、私がキスを強請った時は? 無視して行ってしまったじゃない」
「あの時は心の準備ができていなかったから」
「心の準備?」
「ずっと君に触れていなかったのに、いきなりあんな・・・無防備に強請られたら、途中で理性を失い、また壁に君を押し付けて、唇を貪ってしまいそうだと思ったんだ」

 クリスが頬を赤らめた。

「拒否されたのかと思ったわ」
「違う・・・今度は強引にではなく優しく接しようと思っていたから、誘惑に負けてしまう前に早々に退散したんだ」

 クリスの頭の中にはまだ疑問があった。今までの説明で自分を好いてくれているのは分かる。しかしルックスが良いだけでなく知性も持ち合わせていて、強引で魅力的な彼は女性にもちろんもてただろう。それが三年前に話をしただけの自分を、何でずっとこんなに好きでいられたのか・・・。

「三年前にちょっとしか話していないのに、何でそこまで好きになれたの?」

「・・・疑問を持つのは分かる・・・自分でも信じられなかったから。恋に落ちて、学業をおろそかにする奴等をただの馬鹿者だと思っていたが、まさか自分がその仲間入りをするとは・・・君を知ってから、他の女性に目がいかないんだ。もちろん容姿が好みだったのもあるが、バルコニーで話した時にこの人だと確信した」

 こんな熱烈に求められているとは思ってもいなかった・・・
 真っ赤になって、うつむくと

「クールな容貌ようぼうなのに、その世慣れていない可愛らしいところもたまらない」
「お願い・・・もうやめて・・・身の置き所がなくなるから」

 グリフィスはその手に捉えていたクリスの手を放した。

「俺の気持ちはこれで全てだ。君の気持ちを確かめたいのだが」

 クリスは両手を膝の上で重ねると、グリフィスと視線を合わせた。

「私も・・・貴方が・・・グリフィスが好きです」
 
 グリフィスが歓喜に満ちた表情を示す。

「でも、貴方と違ってまだ――ストップ!! いきなり抱きしめようとしないで!! まだ話は終わっていないんだから!!」

 電光石火でんこうせっかの速さでクリスの隣に移動してきたグリフィスは、もうほとんど抱きしめかけていた。後は力を込めるだけのところで`待て ‘ をされ、不服顔になる。

「じゃあ、その先を早く続けてくれ」
「ソファの端まで離れて」
「・・・・・・分かった」

 二人掛けのソファの端までグリフィスが離れる。これで少しだけど心に余裕が持てた。

「父の手紙にも書いてあったけど、私はこれが初恋なの。だから・・・」

 グリフィスを見ると非常に機嫌が良さそうだ。

「何でそんなに機嫌がいいの・・・?」
「君の初めての男だからさ」
「そ、その言い方は語弊ごへいがあるわ、初めての恋の相手よ――」
「承知した」

 本当に分かっているのかしら、とぶつぶつ言いながら先を続ける。

「私は異性と触れ合うことに慣れていないの。だから私のペースに合わせて、ゆっくりと進んでほしいわ」
「具体的には・・・?」
「例えば、キスでは触れるだけとか・・・」
「・・・・・・身体に?」
「違うわ、唇よ!」
「それって――」
「キ、キスで慣れるまでは舌を入れないようにしてほしいの」
「――それは無理だ」
「無理なら、キスもしないわ」
「でも、もう子供じゃないんだよ」
「だって・・・どうしていいか分からなくなるから、ゆっくり学んでいきたいの」
「ゆっくり学ぶ・・・?」
「私は聖職者になろうとしていたの」
「それはトリシアから聞いて知っている」
「だから、恋愛対象者とのキスとかは初めてで、でも貴方とのキスが嫌なわけじゃないのよ・・・き、気持ち良くなってしまって・・・自分の身体がその気持ち良さを処理しきれなくなるの」
 
 グリフィスが自分の目に手を当てた。

「どうしたの?」
「よく君が今まで誰の手にも触れられずに無事でいたな、と思って」

 クリスが(?)と思っていると、グリフィスがソファの背もたれから身体を起こした。

「他の奴にそんな可愛い事を言っては駄目だよ」
「貴方以外とはキスしないから、言わないわ」

 真顔で言い返されて、グリフィスが辛そうな顔をする。

「どれだけ忍耐を強いられれば・・・」
「え・・・・?」

 グリフィスが咳払せきばらいをした。

「いや、それなら君から俺にキスするのはどうだ? 君が舌を入れてみるんだ」
「私が・・・?」

 クリスが紅くなると、グリフィスがたたみ掛けた。

「慣れないことにはしようがないだろう? それに俺が何もしなければ君が困ることもない」

 クリスは少し考えた。
「でも私、キスの仕方が分からないわ」
「君に無理が無い程度にきちんと教えるから。それに自分からしてみたくはないか?」
 
 彼は学びたがりやのクリスの学者気質を上手に刺激する。

「して・・・みたいわ」

 グリフィスの膝の上に座らされて、早速練習することになった。

「なぜ、膝の上でないと駄目なの?」
「接触する事にも慣れたほうがいいだろう? それに俺の膝の上に座れば、身長差の為に君が伸びをしなくて済む」
「なるほどね・・・」

 実は何の事は無く、グリフィスがクリスに触れていたいだけだ。
 クリスが顔を近づけると鼻がコツンッとぶつかった。

「少し、顔を傾けないと」
 
 ふんふん、と頷いている。本当に真面目で勉強熱心だな、と眺めていると、顔を傾けてくちづけられた。可愛い舌が唇に触れるが、どうしていいか分からない様子だ。口を少し開けるとその舌が忍び込んできた。
 これはこれでまずい状況だ。最初は深いキスもできるし、いい考えだと思ったのに――
 理性を保ちつつ顔を離して説明する。

「最初だから手本を示すよ」

 こくんと頷いたので、あごつかんで唇を重ねる。舌の先で歯列を辿り、わずかに開いた隙間すきまから舌を滑り込ませる。クリスの可愛いらしい舌を見つけ、絡ませて吸い上げると・・・

「ん・・・やぁ・・・」

 何とも悩ましい声が聞こえてきた。上顎うわあごの敏感な部分を探り始めると、ぎゅっとグリフィスのシャツを掴み、いやいやと顔を振り始める。唇をそっと離して見下ろすと、今度は息をするのがやっとという状態だ。

「これ位にしてめておこう」

 すぐに頷くと思いきや、意外な答えが返ってきた。

「忘れないうちに実践してみたい」

 その後は地獄であった。真面目なクリスは、つたないながらも一生懸命深いキスをしようとする。三年間待ち望んだ人から、ただただキスを受けるだけ、またその拙さが堪らなく可愛い。理性をギリギリとしぼり取られ、言わなければ良かったと後悔をした。 

 そしてこの後悔はこの後もまだちょっと続いたりする――

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