伯爵令嬢エリカは王子の恋を応援します！なのにグイグイこられて、あなたは男装王女の筈ですよね？

７４ エリカの身体はふるっと震え

　エリカの身体がふるっと震える。

「エリカ？」

　角度を変えようと唇を離し、ダニエルがやんわりと返事を促す。

　唇を引き結んで黙っていると、じれったい、蝶が止まるようなキスが始まった。

　何度も、触れては離れるキスを繰り返され、エリカは段々と焦燥感を募らせていく。

　答えを得るために焦らされているのが、エリカには分かっているだけに……

「もう……！」

「……ん？」

　ギュッと目を瞑り、ダニエルの唇に自分の唇を押し付けた。

　そんなことをするとは思ってもいなかったダニエルが、驚いて顔を離す。

「わ、わたしも、愛してる！」

　エリカは両手を握り締め、宣言するように口にした。

　ダニエルが破顔する。

「エリカ――」　

　たまらなく嬉しそうな彼に、エリカはギュウッと抱き締められる。

　熱くくちづけられ、顔や髪にも雨のようにキスが降った。

「エリカ、エリカ」

　名前を呼びながら、ダニエルはくちづけを繰り返す。

　気付いた時にはエリカは、ソファに押し倒されて、肩からドレスが引き下げられかけていた。

「だめっ、ダニエ……んっ！」
　
　止めようとしたエリカの言葉をくちづけで封じる。

「言っただろう？　もう離してやれない」

　ダニエルはエリカが抵抗できなくなるまで、キスで抗あらがいを溶かしていった。

「一度知ってしまったら、きっと中毒者のように、君がもっと欲しくなるだろう……」

　トロントした瞳のエリカを見下ろし、騎士服の詰め襟を緩める。

「エリカ……」

「ダニエル、様……！　大変申し訳ございません！　決勝戦を始めたいのですが……？」

　遠慮がちでありながらもデカい声で、ドンドンと扉を叩かれた。

　バンッ！と扉を開けて出てきたダニエルの、腸はらわたが煮えくり返った顔は、非常に恐ろしかった。

「ヨーハーンーーー」

「ひいぃいいいいい！」

「俺が部屋から出るまで声を掛けるなと言ったはず、だが？」

　ブリザードが吹き荒れる中、ビビるヨハン＆その他大勢。

「も、申し訳ありません！　オズワルド王子が『何だかいやな予感がする。早くダニエルを連れてこい』と仰いまして……」

「ちっ、勘のいい奴め。すぐに行く。お前は先に行け」

「かしこまりました！」
　
　飛んでいくヨハンを苦々しい思いで見送った後は、気持ちを切り替えて控室に戻る。

　エリカはと見ると恥かしそうに、ドレスを整えていた。

　目は潤み、頬は上気し、唇はぽってりと腫れていて、ダニエルはまた押し倒したくなるのをグッと堪えて、隣に座る。

　エリカがダニエルを見上げて微笑んだ。

「行かなくてはいけないのでしょう？」

「ああ……。まぁ、良かった。君の初めてをこんな場所で奪わなくてすんで」

　エリカは真っ赤な顔をして、どうしていいか分からなくなり、ドレスや髪を必要以上になおす。

「私も鏡を覗いたらすぐに行きます。遠慮しないで先に行っていて？」

「いや、一緒に行こう。だがその前に」

　エリカの肩に両手を掛けて、顔を胸元に近づけてきた。

「ひぇっ？」