黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 103

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 アルフレッドとグスタフが瞬時にバッ、と散る。

「こいつ! 12才のくせに、とんでもねぇ殺気放ちやがって!!」

 グスタフががなりたて、アルフレッドが叫ぶ。

「12才だとあなどるな!!」
「誰が侮るかよ! 相手はカイトだ!!」

 ちなみに言葉遣いの悪いほうが歩兵隊長のグスタフ(歩兵は荒くれ者多し)で、比較的上品なのが騎馬隊長のアルフレッド(騎兵は貴族多し)。二人共、身長が優に2mは越える偉丈夫だ。少々騒がしい二人に対して、カイトは落ち着いていて、それが却って恐ろしかったりする。

「なぜ、俺が地下牢に?」
「知るか! そこら辺、教えてもらえねぇんだよ!!」
「お前が頭を冷やすまで、とだけ聞いている!」
「俺には時間が……」

 すっ――、とカイトが視界から消えた。

「!?」
「ないんです!!」

 目の前に現れると同時に回し蹴りを食らい、咄嗟に左腕で受けるグスタフ。
(くそっ、動きが目で追えない――!)
 強い衝撃に身体がよろめき、顔を歪めた。カイトをぐっと睨みつける。

「カイト! 若返ったんだから、時間はたっぷりあるじゃないか! こっちは羨ましいくらいなんだぞ!!」
「お前……今言うべきことか、それ?」

 アルフレッドはグスタフと対峙しているカイトに、背後から忍び寄り掴みかかる。しゃがんでかわして横に飛びのき、カイトは体勢を立て直した。

「馬鹿野郎、殴れ!! カイトだぞ! 殺す気で行け!!」 
「殺すのか!?」
「死にゃしねえよ、こいつは……よ!!」

 向かってきたカイトを掛け声と共に、右手で殴りつけるグスタフ。またスッ、としゃがむカイト。

「引っ掛かったな!」

 殴ると見せかけて頭を狙い、即座に右脚を蹴り出した。
 カイトの口が弧を描く――。

「なに!!」
 しゃがんだのは一瞬だけ。気付いた時には蹴りだした脚を、カイトの腹に抱え込まれていた。

「こいつっ、放せ!!」

 カイトは残る左脚を払い、素早くグスタフを押し倒す。仰向けの相手のみぞおち目掛けて、倒れこみながら肘を振り落とした。

「危ない!!」

 アルフレッドが体当たりをし、弾かれたカイトは地面に片手を突き、くるっと回転して着地する。青ざめたグスタフが叫んだ。

「カイト! 俺を殺す気だったろう!」
「”殺す気で”と先に口にしたのは、グスタフ隊長です。それにその程度の衝撃では死にません……多分」
「お前とレベルが違うんだよ! てめぇは加減しろ!!」
「グスタフ……」

 なぜか真剣さがそがれていく会話に、アルフレッドが額に手を当てため息を吐く。ばたばたとイフリートとサイラスが駆けつけてきた。

「お前達、こんな所で何やってんだ!! もっと人けの無い場所で取り押さえろと言っただろう!」
「イフリート団長――。そこへ行く前に勘付かれてしまったんです」
「アレクセイ様のほうの騒ぎは収まった。急がないと野次馬が押し寄せてくるぞ!」

 騎士服の襟に指を突っ込み、くつろげながらイフリートが続ける。

「どけ、俺が相手をする」

 バサッ、と無造作に、上着を地面に脱ぎ捨てた。


***


「サファイア様、ルイス様がいらっしゃいました」

 まだ怒り冷めやらぬサファイアに、侍女がおずおずと告げる途中で……

「サファイア!」

 警備の騎士を押し退けて、ルイスが強引に入ってきた。ソファにいるサファイアの目の前に跪き、すぐさまその手を取ろうとした。

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