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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 117
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カイトのシャツがみるみる赤く、血で染まっていく。
リリアーナも12才カイトも予想外すぎる出来事に、呆然と立ち尽くした。
「な…ぜ……」
一番求め愛する人を、この手で救おうとした筈だった――。
目の前で崩れ落ちるカイトに、リリアーナは半狂乱で駆け寄る。
12才カイトも訳が分からずにいた。リリアーナに刺される瞬間、18才のカイトが盾のように、リリアーナと自分の前に立ちはだかったのだ。
(なぜ俺を助けた……?)
頭の中が混乱し、動く事も、言葉を発する事もできないまま、ただ棒のように突っ立って、カイトに駆け寄るリリアーナを見ていた。
「カイト!!」
リリアーナはカイトに寄り添い、動転して泣き叫ぶ。
「どうして! どうしてなの、カイト! どうしてカイト、あなたなの!!」
カイトはリリアーナの頬に優しく触れた。
「リリアーナ、何も怖がらなくていいんだ」
「カイト……?」
「君は、君のその手を憎しみの血で汚してはいけないよ」
「ぁっ、………」
リリアーナは泣き崩れる。
「カイト、ごめんなさい、ごめんなさいカイト――、」
溢れる涙はとどまる事を知らず、リリアーナは”ごめんなさい”と悲痛な声で繰り返した。
「死んじゃいや……、死んじゃいや……!」
カイトは何とか微笑みを浮かべる。
「大丈夫。俺は死んだりなんかしない。こうやってまた、やっとリリアーナに触れることができたんだ。大丈夫。もう、大丈夫だから……」
縋り付いて泣くリリアーナに、カイトは慰めと慈しみをこめて彼女の髪を撫でた。リリアーナはただ泣き続けるばかりである。
18才カイトの話を聞いて、12才カイトは彼がなぜ、身を呈してまで自分を庇ったのかを理解して、言葉を失った。
(リリアーナの手を汚したくなくて――、俺を刺して我に返った時の、彼女の悲しみと困惑と絶望が、痛いほど分かっていたから……)
カイトを見ると、刺されたというのに、穏やかな顔をしている。
(リリアーナがやつの為に人の道を外し、汚れて堕ちていく事だけは、どうしても避けたかったんだ――)
12才カイトは奥歯を噛みしめ、拳をきつく握り締める。
(俺は一体、何をしようとしていた? 何も分かっていなかったんだ。人を愛するという事がどういう事か、何一つ分かっていなかった……)
そこでやっと、リリアーナが18才カイトを、18才カイトだけを求めていた理由に初めて気付いた。
泣きじゃくるリリアーナの背後から、12才カイトが、18才カイトに話しかける。
「苦しそうだな」
リリアーナが座ったまま振り向き、18才カイトを背に庇うように、両手を広げて身構えた。18才カイトが安心させるように、リリアーナの肩に手をのせる。
「ああ、……少し辛いな」
「少し? 大分だろう。回復は難しいんじゃないか? 特に、その身体では、」
「いや、俺は必ず回復する」
揺るぎない眼差しを、12才カイトに向けた。
「……お前、俺が止めを刺すとは思わないのか?」
「今のお前には殺気を感じない。それに……憑き物が落ちたような目をしている」
「腹立つ……。何でもお見通しなんだな」
12才カイトは二人に近付くと、リリアーナの前で跪いた。
「リリアーナ――」
リリアーナはびくっと身を縮める。一度は目を合わせようとしたが、顔に怯えの影が走り、すぐに下を向いてしまった。
「ああ……、今までごめん。酷い事をして、謝って済む事じゃないと思うけど……。でも、振り向いてほしかったんだ」
「え?」
思いがけない話にリリアーナは顔を上げ、泣き腫らした目で12才カイトを見る。彼の瞳からは、後悔と、リリアーナを思い遣る優しさと、ほんの少しの彼女への渇望が窺えた。
「君は、あいつだけを見ていて、俺を見てはくれない。全然関心がないのなら……せめて憎まれてでも、俺を見て欲しかった」
その言葉に、12才カイトのやるせない表情に、リリアーナがはっと息を呑む。
「今なら、……心から元に戻りたいと思える」
「待って、カイ…!」
「さようなら、リリアーナ――」
リリアーナの言葉を遮るように万感の思いを込めて、12才のカイトはリリアーナにくちづけた。
「待って!……あっ、……」
唇が離れて、目の前にはいつのまにか彼女の――、18才のカイトがいた。刺された傷は跡形もなく消え、シャツにも血の痕はない。怪我のないカイトに安堵はしたが、12才カイトの言葉が蘇り、じわりと涙が溢れてきた。
「カイト、……彼が、12才のカイトが……」
「ん……」
またぽろぽろと涙を零し始めるリリアーナを、カイトは優しく腕の中に抱き締める。
いつまでも泣き止まない彼女を、ずっと……抱き締めていた……。
ドンドンドン、と扉を乱暴に叩く音が部屋に響き渡り、にわかに部屋の外が騒がしくなった。
ね、ね、眠い中推敲したので……^^; 後で直しまくるかもです。
リリアーナも12才カイトも予想外すぎる出来事に、呆然と立ち尽くした。
「な…ぜ……」
一番求め愛する人を、この手で救おうとした筈だった――。
目の前で崩れ落ちるカイトに、リリアーナは半狂乱で駆け寄る。
12才カイトも訳が分からずにいた。リリアーナに刺される瞬間、18才のカイトが盾のように、リリアーナと自分の前に立ちはだかったのだ。
(なぜ俺を助けた……?)
頭の中が混乱し、動く事も、言葉を発する事もできないまま、ただ棒のように突っ立って、カイトに駆け寄るリリアーナを見ていた。
「カイト!!」
リリアーナはカイトに寄り添い、動転して泣き叫ぶ。
「どうして! どうしてなの、カイト! どうしてカイト、あなたなの!!」
カイトはリリアーナの頬に優しく触れた。
「リリアーナ、何も怖がらなくていいんだ」
「カイト……?」
「君は、君のその手を憎しみの血で汚してはいけないよ」
「ぁっ、………」
リリアーナは泣き崩れる。
「カイト、ごめんなさい、ごめんなさいカイト――、」
溢れる涙はとどまる事を知らず、リリアーナは”ごめんなさい”と悲痛な声で繰り返した。
「死んじゃいや……、死んじゃいや……!」
カイトは何とか微笑みを浮かべる。
「大丈夫。俺は死んだりなんかしない。こうやってまた、やっとリリアーナに触れることができたんだ。大丈夫。もう、大丈夫だから……」
縋り付いて泣くリリアーナに、カイトは慰めと慈しみをこめて彼女の髪を撫でた。リリアーナはただ泣き続けるばかりである。
18才カイトの話を聞いて、12才カイトは彼がなぜ、身を呈してまで自分を庇ったのかを理解して、言葉を失った。
(リリアーナの手を汚したくなくて――、俺を刺して我に返った時の、彼女の悲しみと困惑と絶望が、痛いほど分かっていたから……)
カイトを見ると、刺されたというのに、穏やかな顔をしている。
(リリアーナがやつの為に人の道を外し、汚れて堕ちていく事だけは、どうしても避けたかったんだ――)
12才カイトは奥歯を噛みしめ、拳をきつく握り締める。
(俺は一体、何をしようとしていた? 何も分かっていなかったんだ。人を愛するという事がどういう事か、何一つ分かっていなかった……)
そこでやっと、リリアーナが18才カイトを、18才カイトだけを求めていた理由に初めて気付いた。
泣きじゃくるリリアーナの背後から、12才カイトが、18才カイトに話しかける。
「苦しそうだな」
リリアーナが座ったまま振り向き、18才カイトを背に庇うように、両手を広げて身構えた。18才カイトが安心させるように、リリアーナの肩に手をのせる。
「ああ、……少し辛いな」
「少し? 大分だろう。回復は難しいんじゃないか? 特に、その身体では、」
「いや、俺は必ず回復する」
揺るぎない眼差しを、12才カイトに向けた。
「……お前、俺が止めを刺すとは思わないのか?」
「今のお前には殺気を感じない。それに……憑き物が落ちたような目をしている」
「腹立つ……。何でもお見通しなんだな」
12才カイトは二人に近付くと、リリアーナの前で跪いた。
「リリアーナ――」
リリアーナはびくっと身を縮める。一度は目を合わせようとしたが、顔に怯えの影が走り、すぐに下を向いてしまった。
「ああ……、今までごめん。酷い事をして、謝って済む事じゃないと思うけど……。でも、振り向いてほしかったんだ」
「え?」
思いがけない話にリリアーナは顔を上げ、泣き腫らした目で12才カイトを見る。彼の瞳からは、後悔と、リリアーナを思い遣る優しさと、ほんの少しの彼女への渇望が窺えた。
「君は、あいつだけを見ていて、俺を見てはくれない。全然関心がないのなら……せめて憎まれてでも、俺を見て欲しかった」
その言葉に、12才カイトのやるせない表情に、リリアーナがはっと息を呑む。
「今なら、……心から元に戻りたいと思える」
「待って、カイ…!」
「さようなら、リリアーナ――」
リリアーナの言葉を遮るように万感の思いを込めて、12才のカイトはリリアーナにくちづけた。
「待って!……あっ、……」
唇が離れて、目の前にはいつのまにか彼女の――、18才のカイトがいた。刺された傷は跡形もなく消え、シャツにも血の痕はない。怪我のないカイトに安堵はしたが、12才カイトの言葉が蘇り、じわりと涙が溢れてきた。
「カイト、……彼が、12才のカイトが……」
「ん……」
またぽろぽろと涙を零し始めるリリアーナを、カイトは優しく腕の中に抱き締める。
いつまでも泣き止まない彼女を、ずっと……抱き締めていた……。
ドンドンドン、と扉を乱暴に叩く音が部屋に響き渡り、にわかに部屋の外が騒がしくなった。
ね、ね、眠い中推敲したので……^^; 後で直しまくるかもです。
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