黒の転生騎士

sierra

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 131(後日談)12章の最終話(前)

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「ねぇ、シェリルが(リリアーナ付きのもう一人の侍女)部屋に入ってからもう30分以上経つわよ?」

 扉の右端に立っているビアンカが、左端に立っているジャネットに囁き声で話しかける。ちらっと視線を寄こしたジャネットに、続けて話す。

「デニス(カイトの後輩)も何かを持って入っていったし…」
「包みの大きさからいって、カイトの騎士服でしょう?」
「そうよね? てっきり今日はリリアーナ様とお二人でまったりすると思ったのに、騎士服なんてどうするのかしら……」
「ビアンカ、私達の仕事は警護なのよ? プライベートを詮索すべきでないわ」
「分かってはいるんだけど。でも……、ちょっと鍵穴から覗いてもいい?」

 さっとビアンカが跪いて、鍵穴に目を当てようとした。

「だめ! ビアンカっ…!」

 勢いよく扉が開き、ガコンッ!!とビアンカのおでこにぶち当たる。

「××××!!」
「何をしているんだ?」
「ビ、ビアンカったら、髪留めを落としてっ……!」

 咄嗟にジャネットが答えた。筋肉がついたしなやかな身体に、騎士服の黒の正装を身に着けたカイトが、ビアンカを見下ろしている。四つん這いになって、痛くてのたうち回りたいのを我慢しているビアンカを、ジャネットは自身の身体で隠した。

「………この鍵穴は覗けない仕組みになってるぞ」
「うそおぉおおお!」
「嘘だ」
「ビアンカ……」

ビアンカが悲痛な叫び声を上げ、”容易たやすく引っ掛かって……”と溜息を吐くジャネット。そこにリリアーナが静々と出てきた。
 
「カイト」
「リリアーナ――」

 名前を呼ばれ、カイトはすぐさま歩み寄って、身支度が整ったリリアーナを見下ろす。

 コルセットで腰を絞り、パニエでスカートを膨らませたメリハリのあるライン。下にオフホワイトのスカートを身に着け、胸当て部分と前開きのドレスは、ラベンダー色だ。大人っぽい、落ち着きのある雰囲気で、普段は可愛らしい色遣いを好むリリアーナの、意欲を感じられる装いである。
 髪の毛は、ふんわりと結い上げて額を出し、顔の両脇に少量の巻き毛を垂らしているのが愛らしい。

「どうかしら…? 変じゃ…ない……?」

 大人びた装いは初めてなので、リリアーナは少々不安げにカイトを見上げる。カイトが愛おしそうに、黒曜石の瞳を細めた。
 
「とても似合っている。綺麗だ……」

 ゆっくりと身を屈ませ、少し長い時間……頬にくちづけた。リリアーナが嬉しそうに微笑み、周囲は春の日差しのような暖かさに包まれる。
 
「え、絵師を……」
「あんたはもう、黙ってなさい」 
  
 四つん這いのビアンカにジャネットが言う。カイトが向き直って尋ねた。

「国王陛下はどちらに?」
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