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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 132(後日談)12章の最終話(中)
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「はい、あなた……あ~んして」
「何を馬鹿な事を言っているんだ。いい歳をして」
「いいじゃないですか。夫婦なのですから」
「給仕の者や、控えの者たちが…」
「皆見て見ぬ振りをしてくれます」
アレクセイをはじめとして、姫君達が部屋で昼食を取ると聞いたので、国王夫妻も食堂ではなく部屋で食事を取ることにした。
「全く……しようがないな……」
頬を赤らめて、コホンと咳ばらいをし、口をあーんと開ける国王陛下。
「ヴィルヘルム陛下!」
ぶすっ、と唇に突き刺さるフォーク。
「××××!!」
ノックもそこそこに入ってきた執事のベイジルに、二人共気を取られた。
「あら、あなた大丈夫?」
「も、申し訳ございません……。大丈夫で……しょうか?」
「うむ、大丈夫だ。しかし一体何事だ?」
流血しながらヴィルヘルムが問う。
「リリアーナ様とカイトが、陛下にお目通りを願っております」
「あの二人が? 会うのは構わぬが、大騒ぎするほどの事ではなかろう」
「はい、それが”固い決心が窺える”とでも申しましょうか」
王妃のイフゲニアが、ふふ…と小さく微笑んだ。
「私は二人が何を訴えたいのか分かってよ? 先ほどだって……」
「……通せ」
「かしこまりました」
入ってきたカイトが18歳の姿である事を認めて、ヴィルヘルムは胸をなで下ろす。元に戻ったと報告を受けてはいたが、この目で確認するまでは不安を取り除けずにいた。今までとは打って変わって幸せそうなリリアーナも、王の気持ちを和ませる。
カイトが早速ヴィルヘルム達に向かって頭を垂れた。
「この度は多大なるご迷惑をおかけ……」
「12歳のお前がしでかした事への謝罪はいらん、本題に入れ。正装しているという事は、重要な話であろう?」
ヴィルヘルムが先を促し、王ならではの威厳をもってカイトを睥睨する。カイトは視線を逸らさずに、真っ直ぐヴィルヘルムを見返した。
「リリアーナ様との結婚をお許し下さい――」
「もう既に婚約をしているではないか」
「速やかに結婚式を挙げたいという意味です」
「……急ぐ理由は?」
「リリアーナ様は婚約をしてはいても、まだ多くの者にそのを身を狙われております。いえ、婚約したからこそ、”結婚前の清らかなリリアーナ姫を”と汚らしい手を伸ばしてくる輩が後を絶ちません」
「ふん……だからお前と結婚をして、そういった邪な気勢を削ごう、という訳か?」
「御意。ただ、それだけでなく、……リリアーナ様が教会で誓いを立てる時に、後ろめたい思いをせたくはないからです」
「あからさまな物言いだな。……許可しなかったら今すぐにでも、結婚前であるにも拘わらずリリアーナを抱くと、脅しているように聞こえるが?」
「はい、そうです――」
「うっそー、キャ~!」と声を上げた侍女達が慌てて口を噤み、”ここって特等席だわ…!”と王妃は前のめりになる。
「不敬だとは思わぬのか? 婚約者である前に、リリアーナはお前の主なのだぞ……! その上、国王である私に脅しをかけるとは!」
「それだけの覚悟がある事をお伝えしたかったのです。これはあくまで最終手段であり、使うつもりはございません」
「ふん?」
「私は陛下に対して、常々正直でありたいと思っております。なので自分の気持ちを包み隠さずにお話ししました。……アレクセイ様には、リリアーナ様の操を奪ってもよいと言われておりますが――」
「あいつはお前を気に入っているからな……」
本人を目の前にしての明け透けな話し合いに、リリアーナは真っ赤になっている。
「私がNOと言ったらどうする? やはり最終手段を出すか?」
「その時は…」
「その時は、国を出るわ……!」
今まで黙っていたリリアーナが声を張り上げた。
「何を馬鹿な事を言っているんだ。いい歳をして」
「いいじゃないですか。夫婦なのですから」
「給仕の者や、控えの者たちが…」
「皆見て見ぬ振りをしてくれます」
アレクセイをはじめとして、姫君達が部屋で昼食を取ると聞いたので、国王夫妻も食堂ではなく部屋で食事を取ることにした。
「全く……しようがないな……」
頬を赤らめて、コホンと咳ばらいをし、口をあーんと開ける国王陛下。
「ヴィルヘルム陛下!」
ぶすっ、と唇に突き刺さるフォーク。
「××××!!」
ノックもそこそこに入ってきた執事のベイジルに、二人共気を取られた。
「あら、あなた大丈夫?」
「も、申し訳ございません……。大丈夫で……しょうか?」
「うむ、大丈夫だ。しかし一体何事だ?」
流血しながらヴィルヘルムが問う。
「リリアーナ様とカイトが、陛下にお目通りを願っております」
「あの二人が? 会うのは構わぬが、大騒ぎするほどの事ではなかろう」
「はい、それが”固い決心が窺える”とでも申しましょうか」
王妃のイフゲニアが、ふふ…と小さく微笑んだ。
「私は二人が何を訴えたいのか分かってよ? 先ほどだって……」
「……通せ」
「かしこまりました」
入ってきたカイトが18歳の姿である事を認めて、ヴィルヘルムは胸をなで下ろす。元に戻ったと報告を受けてはいたが、この目で確認するまでは不安を取り除けずにいた。今までとは打って変わって幸せそうなリリアーナも、王の気持ちを和ませる。
カイトが早速ヴィルヘルム達に向かって頭を垂れた。
「この度は多大なるご迷惑をおかけ……」
「12歳のお前がしでかした事への謝罪はいらん、本題に入れ。正装しているという事は、重要な話であろう?」
ヴィルヘルムが先を促し、王ならではの威厳をもってカイトを睥睨する。カイトは視線を逸らさずに、真っ直ぐヴィルヘルムを見返した。
「リリアーナ様との結婚をお許し下さい――」
「もう既に婚約をしているではないか」
「速やかに結婚式を挙げたいという意味です」
「……急ぐ理由は?」
「リリアーナ様は婚約をしてはいても、まだ多くの者にそのを身を狙われております。いえ、婚約したからこそ、”結婚前の清らかなリリアーナ姫を”と汚らしい手を伸ばしてくる輩が後を絶ちません」
「ふん……だからお前と結婚をして、そういった邪な気勢を削ごう、という訳か?」
「御意。ただ、それだけでなく、……リリアーナ様が教会で誓いを立てる時に、後ろめたい思いをせたくはないからです」
「あからさまな物言いだな。……許可しなかったら今すぐにでも、結婚前であるにも拘わらずリリアーナを抱くと、脅しているように聞こえるが?」
「はい、そうです――」
「うっそー、キャ~!」と声を上げた侍女達が慌てて口を噤み、”ここって特等席だわ…!”と王妃は前のめりになる。
「不敬だとは思わぬのか? 婚約者である前に、リリアーナはお前の主なのだぞ……! その上、国王である私に脅しをかけるとは!」
「それだけの覚悟がある事をお伝えしたかったのです。これはあくまで最終手段であり、使うつもりはございません」
「ふん?」
「私は陛下に対して、常々正直でありたいと思っております。なので自分の気持ちを包み隠さずにお話ししました。……アレクセイ様には、リリアーナ様の操を奪ってもよいと言われておりますが――」
「あいつはお前を気に入っているからな……」
本人を目の前にしての明け透けな話し合いに、リリアーナは真っ赤になっている。
「私がNOと言ったらどうする? やはり最終手段を出すか?」
「その時は…」
「その時は、国を出るわ……!」
今まで黙っていたリリアーナが声を張り上げた。
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2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
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