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第四章
カミラからの救出 2
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「ちょうど日暮れ時に着きそうだな」
イフリートが目を細めて夕日を見ている。
馬で乗りつけると気付かれるので、2kmほど手前のゴードンの知り合いの屋敷に預けて歩いて来たのだ。
「こんな道があるなんて知らなかったよ」
後ろからサイラスが前を行くゴードンに声を掛けた。
「はい、川沿いのこの細い道は地元の者しか知りません。カミラも知らないと思います。こんな草花が高く生い茂っているけもの道のような場所は嫌いですから」
「君ら以外に何人の騎士がいるんだ?」
イフリートが歩きながら尋ねる。
「50名程です」
「今いる我々の約二倍か・・・」
「しかし私とシルヴィア以外に正式な騎士はおりません。皆、今日のために金で雇われている傭兵です。私から見ましても、皆さんのほうが騎士としての力量は遥かに上回っているので大丈夫だと思います。ただ・・・リリアーナ姫と、私の母を人質に取られないか心配です。カミラを疑い始めた私の気持ちを敏感に察して、あなた方に寝返る事を予期して動くかもしれません」
そうこうしている内に帆船を係留している桟橋に出た。もう日が暮れて夜の帳が下り始めている。
「ここから屋敷の西側にある果樹園まで、生垣に沿って移動しましょう。もう暗いし、木々が私達を隠してくれます」
果樹園に身を潜めるとすぐに、今まで何も話さず静かにしていたカイトが口を開いた。
「リリアーナ様はどちらの部屋に?」
ゴードンは指を指し示した。
「あの部屋です。屋敷の中央の一番上の、バルコニーが飾り程度に付いているところです。あそこは、外からは高さがあって進入できないし、中からも玄関から入ってすぐの中央の階段は二階までしか通じていず、その後に三階に行くには東か西の階段に回らなければいけません。うちの屋敷で人を閉じ込めておくのには一番適した部屋なんです」
「あの部屋から逃げる時は東と西、どちらの階段を使ったほうがいい?」
「東です。東は二階に下りてすぐ側に出入り口があって、外階段に通じているんです。そこの鍵は私が持っております。でも今確認しなくても、これからそこに侵入して、リリアーナ様の部屋まで参りますが」
それには答えずまた質問する。
「あと他に何か注意する事は? それと三階のあのガラス戸に鍵は?」
「他に特には・・・あ、でも、もう日も暮れましたし、カイト殿を連れて行く時間に近いので傭兵を配置しているかもしれません。ガラス戸の鍵は引っ掛けるだけの簡単な物が、外から侵入される心配もないので」
「分かった。ありがとう」
「イフリート団長」
カイトがイフリートに顔を向けた。
「行ってこい。ちょうど月が雲に隠れて辺りも暗い。リリアーナ様を保護したら、そのまま東の二階の出入り口から避難しろ。俺達は放っておいて構わないから、馬を預けたゴードンの知り合いの屋敷へ身を寄せろ」
「はい、承知しました」
ゴードンは訳が分からずこのやり取りを見ていた。カイトがすっと立ち上がり屋敷の中央に駆けて行く。
「え、何をするんですか・・・?」
そのまま地面を蹴って二階のバルコニーに飛び移り、手摺りを掴んで乗り越えている。
「・・・今、カイト殿2m以上跳びませんでしたか?」
ゴードンは見間違いかと目を擦っている。スティーブがそれに答える。
「ああ、君は初めてだからね。カイトの跳躍力は異常なんだ。何でも空手の鍛錬で身に付けたものらしい。君も身に付けたかったら、彼の自主練に参加してみ?半日でギブアップするから」
皆思った――
『お前もしたしな』
「でも助走無しにあそこから三階のあの形ばかりのバルコニーは無理でしょう?」
「まあ、見ててみ」
カイトは易々と飛び移ると中を覗いて合図を送ってきた。
「よし、リリアーナ様はもう大丈夫だ。しかし月が出てきたな。カイトが敵の目につかないといいが・・・」
今度はゴードンが首を振って答えた。
「大丈夫です。あの部屋に外から侵入されるなんて誰も思っていませんから、見上げる事すらしないでしょう」
「じゃあ、俺達も行くとしよう。あと君の母上が心配だと言っていたな。」
「はい、この屋敷の離れに普段住んでいるのですが、先程通ったあの庭先の横の建物です。明かりが点いていなかったので心配です」
「エヴァン、スティーブ、あの家の様子を見て来い。母上殿がいたら保護するんだ。いてもいなくても報告を」
「承知致しました」
「俺達はゴードンの先導で東から入って、この屋敷を鎮圧する。行くぞ」
「お・・・う・・・」
大きい雄たけびを上げられないのが残念な所だ。
イフリートが目を細めて夕日を見ている。
馬で乗りつけると気付かれるので、2kmほど手前のゴードンの知り合いの屋敷に預けて歩いて来たのだ。
「こんな道があるなんて知らなかったよ」
後ろからサイラスが前を行くゴードンに声を掛けた。
「はい、川沿いのこの細い道は地元の者しか知りません。カミラも知らないと思います。こんな草花が高く生い茂っているけもの道のような場所は嫌いですから」
「君ら以外に何人の騎士がいるんだ?」
イフリートが歩きながら尋ねる。
「50名程です」
「今いる我々の約二倍か・・・」
「しかし私とシルヴィア以外に正式な騎士はおりません。皆、今日のために金で雇われている傭兵です。私から見ましても、皆さんのほうが騎士としての力量は遥かに上回っているので大丈夫だと思います。ただ・・・リリアーナ姫と、私の母を人質に取られないか心配です。カミラを疑い始めた私の気持ちを敏感に察して、あなた方に寝返る事を予期して動くかもしれません」
そうこうしている内に帆船を係留している桟橋に出た。もう日が暮れて夜の帳が下り始めている。
「ここから屋敷の西側にある果樹園まで、生垣に沿って移動しましょう。もう暗いし、木々が私達を隠してくれます」
果樹園に身を潜めるとすぐに、今まで何も話さず静かにしていたカイトが口を開いた。
「リリアーナ様はどちらの部屋に?」
ゴードンは指を指し示した。
「あの部屋です。屋敷の中央の一番上の、バルコニーが飾り程度に付いているところです。あそこは、外からは高さがあって進入できないし、中からも玄関から入ってすぐの中央の階段は二階までしか通じていず、その後に三階に行くには東か西の階段に回らなければいけません。うちの屋敷で人を閉じ込めておくのには一番適した部屋なんです」
「あの部屋から逃げる時は東と西、どちらの階段を使ったほうがいい?」
「東です。東は二階に下りてすぐ側に出入り口があって、外階段に通じているんです。そこの鍵は私が持っております。でも今確認しなくても、これからそこに侵入して、リリアーナ様の部屋まで参りますが」
それには答えずまた質問する。
「あと他に何か注意する事は? それと三階のあのガラス戸に鍵は?」
「他に特には・・・あ、でも、もう日も暮れましたし、カイト殿を連れて行く時間に近いので傭兵を配置しているかもしれません。ガラス戸の鍵は引っ掛けるだけの簡単な物が、外から侵入される心配もないので」
「分かった。ありがとう」
「イフリート団長」
カイトがイフリートに顔を向けた。
「行ってこい。ちょうど月が雲に隠れて辺りも暗い。リリアーナ様を保護したら、そのまま東の二階の出入り口から避難しろ。俺達は放っておいて構わないから、馬を預けたゴードンの知り合いの屋敷へ身を寄せろ」
「はい、承知しました」
ゴードンは訳が分からずこのやり取りを見ていた。カイトがすっと立ち上がり屋敷の中央に駆けて行く。
「え、何をするんですか・・・?」
そのまま地面を蹴って二階のバルコニーに飛び移り、手摺りを掴んで乗り越えている。
「・・・今、カイト殿2m以上跳びませんでしたか?」
ゴードンは見間違いかと目を擦っている。スティーブがそれに答える。
「ああ、君は初めてだからね。カイトの跳躍力は異常なんだ。何でも空手の鍛錬で身に付けたものらしい。君も身に付けたかったら、彼の自主練に参加してみ?半日でギブアップするから」
皆思った――
『お前もしたしな』
「でも助走無しにあそこから三階のあの形ばかりのバルコニーは無理でしょう?」
「まあ、見ててみ」
カイトは易々と飛び移ると中を覗いて合図を送ってきた。
「よし、リリアーナ様はもう大丈夫だ。しかし月が出てきたな。カイトが敵の目につかないといいが・・・」
今度はゴードンが首を振って答えた。
「大丈夫です。あの部屋に外から侵入されるなんて誰も思っていませんから、見上げる事すらしないでしょう」
「じゃあ、俺達も行くとしよう。あと君の母上が心配だと言っていたな。」
「はい、この屋敷の離れに普段住んでいるのですが、先程通ったあの庭先の横の建物です。明かりが点いていなかったので心配です」
「エヴァン、スティーブ、あの家の様子を見て来い。母上殿がいたら保護するんだ。いてもいなくても報告を」
「承知致しました」
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「お・・・う・・・」
大きい雄たけびを上げられないのが残念な所だ。
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