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第七章
じーちゃんとドラゴンと 泣いて怒るリリアーナ
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カイトはイフリートに長期休暇を願い出た。イフリートが眉間に皺を寄せている。
「これは、リリアーナ様にはもう話したのか?」
「はい、先程」
「それで? 快く承諾してくれたのか?」
「泣いて怒って、部屋を追い出されました」
「だろうな。一ヶ月だろう? 何でまた一ヶ月なんだ? 元の鞘 (さや) に収まってからまだたった一週間じゃないか」
「祖父と祖母に婚約の報告をしに行きたいのです」
「先代のゴルツ侯爵か――」(注・リーフシュタインではある程度の年齢で、かつ国王が認めれば、爵位を息子に譲って隠居する事ができます)
「はい。ここから南東の方向の` ドラゴンが住まう森 ‘ と言われているドラッへヴァルトの近くに住んでいます」
「また辺鄙 (へんぴ) な所に住んでいるな。ここから距離もあるだろうに」
「馬を急がせても片道四日は掛かると思います。小さな村ですが、自然に囲まれているのが気に入ったようです」
「あの森は一度入ったら出てこれないというのは本当か?」
「慣れていれば大丈夫ですが、それでも森の奥まで入ると帰ってこれなくなるかもしれません。」
「往復八日なら、二週間の休暇でいいだろう? それならリリアーナ様もすぐに許可してくれるぞ」
「実はちょっと考える所がありまして・・・これを見てください」
カイトは20cm四方の黒い扇形をしたそれを取り出した。
「これは何だ?革・・・いや、違う・・・革より固い。そして軽い」
「祖父から10年ほど前に貰いました。ドラゴンの鱗 (うろこ) だそうです」
「ドラゴンの鱗? あの、戦いの神で強さの象徴でもある」
「はい、祖父はそう言っていました。見ていて下さい」
カイトは、ナイフを出すとそれに押し当てて強く引いた。
「驚いたな・・・傷一つ付かない」
「そうなんです。なのでこれを鎖帷子 (くさりかたびら)の代わりに使えないかと思いつきました。鎖帷子は重いし、弓矢や刺突 (しとつ){突き刺すこと}の攻撃に弱く、錆びる為に管理も大変です。これは、十年間箱の中に入れて放っておいたのですが、カビも生えず当時の形状そのままです 」
「でも、これは本当にドラゴンの鱗なのか? もしドラゴンの鱗だとしても、神様の鱗なわけだろう? そんなに簡単に手に入るのか?」
「祖父は若い頃に、ドラッへヴァルトで拾ったと言っていました。今回森の奥に入ってドラゴンの鱗かどうか、もっと手に入らないかを調べてみたいと思っています」
「大丈夫か? お前があの森に慣れているのは知っているが、万が一出て来れなくなったり、それこそドラゴンに会ったらどうする気だ?」
「そこら辺は祖父から注意を聞いて、用心する事にします」
「お前の主であるリリアーナ様から休暇の許可を貰えたら、俺もOKだが」
「分かりました。もう一度願い出てみます」
カイトはイフリートの執務室を退去すると、そのままリリアーナの部屋へと向かった。
「カイト、戻って来たのね」
警護をしているジャネットに声を掛けられた。
「ああ、先にイフリート団長に話してきた」
「上手くいくといいわね」
しかしジャネットの顔には `無理 ‘ と書いてある。
カイトがドアをノックした。
「フラン、駄目、開けないで! カイトだったら入室を許可しないから!」
カイトは溜息をつくとドアを開けて入室した。
「失礼致します」
「カイト! 許可した覚えはないけど!」
膨れっ面のリリアーナはソファの上でカイトから身を守るようにクッションを抱きしめている。帽子を被ったり、日焼け対策はしているが、ほぼ連日の草むしりでうっすらと日に焼けていた。今日は休庭日である。
「リリアーナ様、理由は先程お話した通りです。それに今出れば、秋雨の時期を避ける事ができます。出発日を遅らせれば遅らすほど、帰ってくるのに時間が掛かってしまいます」
「でも、まだやっと仲直りして一週間なのに、早すぎる・・・」
カイトはリリアーナの前に跪くと、クッションを掴んでいた右手を取って両手で優しく包んだ。
「私もリリアーナ様と離れたくはありません。でも、祖父と祖母には婚約した事をきちんと報告したいのです。ドラゴンの鱗の事も、今回調査すればまた行かなくて済みます」
「私だって、頭では分かってるんだけど・・・久しぶりに会わせてあげたいと思うし、鱗の事だって――。これは私の我儘だと、分かってはいるんだけど・・・」
クッションに顔を押し付けて少し泣いているのだろう。声がくぐもっている。カイトは僅かに頬笑んだ。
「そんなに可愛く泣かれたら、心底困ってしまいます。どうしたら許可して下さいますか?」
「・・・・・・抱きしめてくれたら・・・」
身体が浮いたと思ったら、もう抱きしめられていた。居心地のいい腕の中でやっと踏ん切りをつける。
「長期休暇の取得を許可します――」
「ありがとうございます。なるべく早く戻って参りますので」
「ううん、無理はしないで」
カイトはリリアーナと視線を合わせた。
「私が無理をしたいのです」
リリアーナの顎を掴むと、唇の端にキスをする。次に額にキスをして、閉じた瞼 (まぶた) にもくちづけた。早く深いキスをしてほしいのに、唇以外にキスを落としていく。わざと避けてる感じがする。
リリアーナがとうとう焦れて、カイトに向かって僅かに唇を開いた。すると途端に塞がれて、息ができなくなるほどくちづけられた。
フランチェスカが部屋から出てきた。
「お目付け役さん、出てきていいの?」
「武士の情けよ。カイトはその辺わきまえてるし、暫く会えないのだし・・・それに気恥ずかしくて、あの場にはいられない――」
珍しくフランチェスカが赤くなった。
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
「これは、リリアーナ様にはもう話したのか?」
「はい、先程」
「それで? 快く承諾してくれたのか?」
「泣いて怒って、部屋を追い出されました」
「だろうな。一ヶ月だろう? 何でまた一ヶ月なんだ? 元の鞘 (さや) に収まってからまだたった一週間じゃないか」
「祖父と祖母に婚約の報告をしに行きたいのです」
「先代のゴルツ侯爵か――」(注・リーフシュタインではある程度の年齢で、かつ国王が認めれば、爵位を息子に譲って隠居する事ができます)
「はい。ここから南東の方向の` ドラゴンが住まう森 ‘ と言われているドラッへヴァルトの近くに住んでいます」
「また辺鄙 (へんぴ) な所に住んでいるな。ここから距離もあるだろうに」
「馬を急がせても片道四日は掛かると思います。小さな村ですが、自然に囲まれているのが気に入ったようです」
「あの森は一度入ったら出てこれないというのは本当か?」
「慣れていれば大丈夫ですが、それでも森の奥まで入ると帰ってこれなくなるかもしれません。」
「往復八日なら、二週間の休暇でいいだろう? それならリリアーナ様もすぐに許可してくれるぞ」
「実はちょっと考える所がありまして・・・これを見てください」
カイトは20cm四方の黒い扇形をしたそれを取り出した。
「これは何だ?革・・・いや、違う・・・革より固い。そして軽い」
「祖父から10年ほど前に貰いました。ドラゴンの鱗 (うろこ) だそうです」
「ドラゴンの鱗? あの、戦いの神で強さの象徴でもある」
「はい、祖父はそう言っていました。見ていて下さい」
カイトは、ナイフを出すとそれに押し当てて強く引いた。
「驚いたな・・・傷一つ付かない」
「そうなんです。なのでこれを鎖帷子 (くさりかたびら)の代わりに使えないかと思いつきました。鎖帷子は重いし、弓矢や刺突 (しとつ){突き刺すこと}の攻撃に弱く、錆びる為に管理も大変です。これは、十年間箱の中に入れて放っておいたのですが、カビも生えず当時の形状そのままです 」
「でも、これは本当にドラゴンの鱗なのか? もしドラゴンの鱗だとしても、神様の鱗なわけだろう? そんなに簡単に手に入るのか?」
「祖父は若い頃に、ドラッへヴァルトで拾ったと言っていました。今回森の奥に入ってドラゴンの鱗かどうか、もっと手に入らないかを調べてみたいと思っています」
「大丈夫か? お前があの森に慣れているのは知っているが、万が一出て来れなくなったり、それこそドラゴンに会ったらどうする気だ?」
「そこら辺は祖父から注意を聞いて、用心する事にします」
「お前の主であるリリアーナ様から休暇の許可を貰えたら、俺もOKだが」
「分かりました。もう一度願い出てみます」
カイトはイフリートの執務室を退去すると、そのままリリアーナの部屋へと向かった。
「カイト、戻って来たのね」
警護をしているジャネットに声を掛けられた。
「ああ、先にイフリート団長に話してきた」
「上手くいくといいわね」
しかしジャネットの顔には `無理 ‘ と書いてある。
カイトがドアをノックした。
「フラン、駄目、開けないで! カイトだったら入室を許可しないから!」
カイトは溜息をつくとドアを開けて入室した。
「失礼致します」
「カイト! 許可した覚えはないけど!」
膨れっ面のリリアーナはソファの上でカイトから身を守るようにクッションを抱きしめている。帽子を被ったり、日焼け対策はしているが、ほぼ連日の草むしりでうっすらと日に焼けていた。今日は休庭日である。
「リリアーナ様、理由は先程お話した通りです。それに今出れば、秋雨の時期を避ける事ができます。出発日を遅らせれば遅らすほど、帰ってくるのに時間が掛かってしまいます」
「でも、まだやっと仲直りして一週間なのに、早すぎる・・・」
カイトはリリアーナの前に跪くと、クッションを掴んでいた右手を取って両手で優しく包んだ。
「私もリリアーナ様と離れたくはありません。でも、祖父と祖母には婚約した事をきちんと報告したいのです。ドラゴンの鱗の事も、今回調査すればまた行かなくて済みます」
「私だって、頭では分かってるんだけど・・・久しぶりに会わせてあげたいと思うし、鱗の事だって――。これは私の我儘だと、分かってはいるんだけど・・・」
クッションに顔を押し付けて少し泣いているのだろう。声がくぐもっている。カイトは僅かに頬笑んだ。
「そんなに可愛く泣かれたら、心底困ってしまいます。どうしたら許可して下さいますか?」
「・・・・・・抱きしめてくれたら・・・」
身体が浮いたと思ったら、もう抱きしめられていた。居心地のいい腕の中でやっと踏ん切りをつける。
「長期休暇の取得を許可します――」
「ありがとうございます。なるべく早く戻って参りますので」
「ううん、無理はしないで」
カイトはリリアーナと視線を合わせた。
「私が無理をしたいのです」
リリアーナの顎を掴むと、唇の端にキスをする。次に額にキスをして、閉じた瞼 (まぶた) にもくちづけた。早く深いキスをしてほしいのに、唇以外にキスを落としていく。わざと避けてる感じがする。
リリアーナがとうとう焦れて、カイトに向かって僅かに唇を開いた。すると途端に塞がれて、息ができなくなるほどくちづけられた。
フランチェスカが部屋から出てきた。
「お目付け役さん、出てきていいの?」
「武士の情けよ。カイトはその辺わきまえてるし、暫く会えないのだし・・・それに気恥ずかしくて、あの場にはいられない――」
珍しくフランチェスカが赤くなった。
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
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