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第六章
執 着 11 姫君達の草むしり
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「無事で良かった――」
ほっとしたように囁かれた。
(夢かしら・・・?)
「夢ではありません」
顔に出ていたようで、もう一度カイトにくちづけられた。犬を運んだり、作業をしている周りの者達は黙認してくれている。リリアーナの瞳から涙が溢れ出た。
「カイト・・・ごめんなさい」
リリアーナもカイトの背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返した。
「・・・貴方を許します。だから、貴方も私を許して下さい」
「カイトの何を許すの? 悪い事をしていないのに」
「リリアーナ様の首に手をかけたのに?」
「あれは私が悪いのだもの。それにカイトは結局止 (や) めたじゃない」
「いや、それは――これでは押し問答になってしまいますね。理屈ではないのです。けじめみたいなもので、お願いですから仰 (おっしゃ) ってください」
リリアーナは言いにくそうにしていたが、意を決すると口にした。
「貴方を許します」
途端に顔を傾けたカイトにまたくちづけられた。
いつまでも離れない二人に業を煮やしたじいやがカイトの耳を掴むと引っ張った。
「いつまで待たせる気じゃ! 噛まれた腕の治療に行くぞ。エヴァンはもう済んだわい」
「包帯が厚く巻いてあるから大丈夫だよ」
「わしの目はごまかせんぞ、お前さん焦って最後まで巻かせなかったじゃろう。絶対に牙の先が食い込んでる筈じゃ。ほら、はよ来い!」
耳を引っ張られて、医務室に連れて行かれかけたカイトがリリアーナを振り返った。
「リリアーナ様を一緒に連れて行ってもいいだろう?」
「はん! 途端に熱いもんじゃな。さっきは『自分がいない方がリリアーナ様の為にいい』って言ってたのに・・・好きにするがいいさ」
紅くなったリリアーナに手を伸ばすと、嬉しそうに近付いてきてその腕の中に納まった。
翌日、朝一番でイフリートの許に出向き、リリアーナ付きの騎士に戻りたい旨を申し出ると、未だにそのままである事と、上には報告してない事を告げられた。イフリートに感謝をする。
国王のヴィルヘルムは事の次第に気付いてはいたが、自分達の力で上手く解決してくれる事を望み、あえて傍観していた。しかし、婚約破棄寸前と結果は最悪となり、四人 (ルドルフ混み) のしでかした事に激怒し、二人の姉姫にはカイトに正式な謝罪を入れさせ(リリアーナはもう終わっているので)、罰として暫く城の前庭の草むしりをさせられる事となる。
「何で、私達が草むしり? 姫君がやる事ではないわ。それに前庭は広大だし! 草は抜いても抜いても生えてくるのよ!」
サファイアの頭から湯気が立っている。暑いから汗が蒸発して本当に立っているかもしれない。
「仕方がないじゃない。それだけの事をしたんだから」
「・・・まあ、確かに・・・カイトにもリリアーナにも申し訳ない事をしたし、仕様が無いわね・・・」
サファイアが溜息をつく。
姫君達が草むしりをしているのは問題なので、二人共、村娘のような格好をしていた。使わない筋肉が悲鳴を上げる。
「リリアーナは公務に精を出していたし、婚約破棄まで行きかけて苦しんだから免除なのに、何故草むしりをしているの?」
クリスティアナがすぐに答えた。
「カイト自身は悪くないのに罪を感じているじゃない? それで彼の素晴らしさを再認識して、罪悪感も増したのですって。草むしりをしていると、罪が清められるような気がするらしいわよ」
「そうなんだ・・・でも、ここカイトがよく通るから、リリアーナにとっては幸せかもね」
サファイアがチラッと見ると、リリアーナがカイトに小さく手を振っていた。とても微笑ましい光景である。視線を戻すと話を続けた。
「そういえば、ルドルフもニコライ国王陛下に今回の事が知る所となって、大目玉を食ったらしいわよ」
「怒られるだけで済んだのかしら?」
「一年以内に未来の王妃を連れ帰ってこいと、国を追い出されたんですって」
「ただでさえ伴侶選びは難しいのに、女性を愛せない彼にとってはきついかもね。サファイア、あなた名乗り上げてみたら? 」
「冗談でしょう・・・?」
「そこ! お喋りをしない!!」
「はい・・・」
お目付け役は、三人の事を子供の頃から知っていて、姫君だからといって怒る事を躊躇 (ちゅうちょ) しない彼女達の乳母が選ばれた。
秋口とはいえまだまだ暑いこの季節、連日の草むしりはきついものがある。
「公務のほうがまだマシと思えるなんて―― 」
公務嫌いのサファイアでさえ音を上げた。
この姫君達の草むしりはいつの間にか巷 (ちまた) で有名となり、前庭を見学させてほしいと観光客から村人まで大挙して押しかけてきた。なので警備の者をしっかりと配置し、僅かな入場料を取り前庭を公開する事となる。
入場料は全額、慈善事業の為に使われた。人気が余りにも高い為に、草むしりは暫く続く事になる。
姫君達はもう二度と人を試すような真似はしないだろう。
今回で、途中胃が痛かった第六章の `執着 ‘ が終わります。サラッと終わらせる筈が、長引いてしまいました(さすが執着)(ーー;)
ほっとしたように囁かれた。
(夢かしら・・・?)
「夢ではありません」
顔に出ていたようで、もう一度カイトにくちづけられた。犬を運んだり、作業をしている周りの者達は黙認してくれている。リリアーナの瞳から涙が溢れ出た。
「カイト・・・ごめんなさい」
リリアーナもカイトの背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返した。
「・・・貴方を許します。だから、貴方も私を許して下さい」
「カイトの何を許すの? 悪い事をしていないのに」
「リリアーナ様の首に手をかけたのに?」
「あれは私が悪いのだもの。それにカイトは結局止 (や) めたじゃない」
「いや、それは――これでは押し問答になってしまいますね。理屈ではないのです。けじめみたいなもので、お願いですから仰 (おっしゃ) ってください」
リリアーナは言いにくそうにしていたが、意を決すると口にした。
「貴方を許します」
途端に顔を傾けたカイトにまたくちづけられた。
いつまでも離れない二人に業を煮やしたじいやがカイトの耳を掴むと引っ張った。
「いつまで待たせる気じゃ! 噛まれた腕の治療に行くぞ。エヴァンはもう済んだわい」
「包帯が厚く巻いてあるから大丈夫だよ」
「わしの目はごまかせんぞ、お前さん焦って最後まで巻かせなかったじゃろう。絶対に牙の先が食い込んでる筈じゃ。ほら、はよ来い!」
耳を引っ張られて、医務室に連れて行かれかけたカイトがリリアーナを振り返った。
「リリアーナ様を一緒に連れて行ってもいいだろう?」
「はん! 途端に熱いもんじゃな。さっきは『自分がいない方がリリアーナ様の為にいい』って言ってたのに・・・好きにするがいいさ」
紅くなったリリアーナに手を伸ばすと、嬉しそうに近付いてきてその腕の中に納まった。
翌日、朝一番でイフリートの許に出向き、リリアーナ付きの騎士に戻りたい旨を申し出ると、未だにそのままである事と、上には報告してない事を告げられた。イフリートに感謝をする。
国王のヴィルヘルムは事の次第に気付いてはいたが、自分達の力で上手く解決してくれる事を望み、あえて傍観していた。しかし、婚約破棄寸前と結果は最悪となり、四人 (ルドルフ混み) のしでかした事に激怒し、二人の姉姫にはカイトに正式な謝罪を入れさせ(リリアーナはもう終わっているので)、罰として暫く城の前庭の草むしりをさせられる事となる。
「何で、私達が草むしり? 姫君がやる事ではないわ。それに前庭は広大だし! 草は抜いても抜いても生えてくるのよ!」
サファイアの頭から湯気が立っている。暑いから汗が蒸発して本当に立っているかもしれない。
「仕方がないじゃない。それだけの事をしたんだから」
「・・・まあ、確かに・・・カイトにもリリアーナにも申し訳ない事をしたし、仕様が無いわね・・・」
サファイアが溜息をつく。
姫君達が草むしりをしているのは問題なので、二人共、村娘のような格好をしていた。使わない筋肉が悲鳴を上げる。
「リリアーナは公務に精を出していたし、婚約破棄まで行きかけて苦しんだから免除なのに、何故草むしりをしているの?」
クリスティアナがすぐに答えた。
「カイト自身は悪くないのに罪を感じているじゃない? それで彼の素晴らしさを再認識して、罪悪感も増したのですって。草むしりをしていると、罪が清められるような気がするらしいわよ」
「そうなんだ・・・でも、ここカイトがよく通るから、リリアーナにとっては幸せかもね」
サファイアがチラッと見ると、リリアーナがカイトに小さく手を振っていた。とても微笑ましい光景である。視線を戻すと話を続けた。
「そういえば、ルドルフもニコライ国王陛下に今回の事が知る所となって、大目玉を食ったらしいわよ」
「怒られるだけで済んだのかしら?」
「一年以内に未来の王妃を連れ帰ってこいと、国を追い出されたんですって」
「ただでさえ伴侶選びは難しいのに、女性を愛せない彼にとってはきついかもね。サファイア、あなた名乗り上げてみたら? 」
「冗談でしょう・・・?」
「そこ! お喋りをしない!!」
「はい・・・」
お目付け役は、三人の事を子供の頃から知っていて、姫君だからといって怒る事を躊躇 (ちゅうちょ) しない彼女達の乳母が選ばれた。
秋口とはいえまだまだ暑いこの季節、連日の草むしりはきついものがある。
「公務のほうがまだマシと思えるなんて―― 」
公務嫌いのサファイアでさえ音を上げた。
この姫君達の草むしりはいつの間にか巷 (ちまた) で有名となり、前庭を見学させてほしいと観光客から村人まで大挙して押しかけてきた。なので警備の者をしっかりと配置し、僅かな入場料を取り前庭を公開する事となる。
入場料は全額、慈善事業の為に使われた。人気が余りにも高い為に、草むしりは暫く続く事になる。
姫君達はもう二度と人を試すような真似はしないだろう。
今回で、途中胃が痛かった第六章の `執着 ‘ が終わります。サラッと終わらせる筈が、長引いてしまいました(さすが執着)(ーー;)
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