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第六章
執 着 カイトが怖い?
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村からリーフシュタインまでは盗賊に出会う事もなく、スムーズに城に着いた。リリアーナの部屋までは、カイトが侍女の格好をしていたので、ビアンカが同行した。
カイトもいつもと変わりない。昨日の事は夢だったのだろうか・・・。
いいえ、夢ではない。今までは気付かなかったが時折向けられるカイトの視線に暗い情熱がこもっているのに気付く。
就寝時、寝る訳でもなくベッドに腰を掛けて、心ここにあらずのリリアーナにフランチェスカが声を掛けた。
「リリアーナ様、どうかなさったのですか?」
「フラン、前にカイトが何かに執着した事がないって言ってたわよね?」
「はい、言いましたが・・・それが何か?」
「・・・ううん・・・何でもない。もう寝るわ」
フランに言ったら、きっとカイトに何か言うだろう。事態が悪化しそうな気がする。落ち着いて自分で考えてみて、それから相談しても遅くない。
でも、自分で何を考えるというのだろう・・・? 好きなことに変わりはない。カイトはいつも冷静で、感情の抑制が効いていて、一緒にいて落ち着く人。ずっと、私のほうがカイトの事をより好きなのだと思っていた。それが今回、実はそうでもない事が分かる。
カイトの情熱が怖くなって嫌になる日がくるのだろうか・・・? 過去の男性達による恐ろしい経験が邪魔をして、冷静な判断が下せない。カイトも何故私に告げたのだろう・・・黙っている事もできたのに。
次の日からは普通の毎日が訪れた。でもいつもと同じじゃない。二人の間がぎこちない気がする。ぎゅっと抱きしめてくれる事もキスの回数も減ったよう・・・いや、殆どない。元からそんなにくっついてはいなかったが、今では数えるほどだ。カイトの情熱が怖くなるどころか、これでは少し寂しく感じてしまう。
ノックの音がした。フランチェスカが応対に出ると、二人の姉姫の来訪であった。
「リリィ~おはよう! リングを見に来たわよ!」
サファイアと優しく微笑みを湛 (たた) えたクリスティアナである。二人が救世主に見えた。リリアーナの目から噴き出すように涙が溢れ出てきた。
「ど! どうしたのリリアーナ!」
二人の姉姫が慌てている。事の次第を話すと、二人共頷いた。
「最近二人の間がぎこちなくて、緊張を孕んでいる訳が分かったわ」
クリスティアナも気付いていた。
「リリィは一体どうしたいの? 別れたいの?」
サファイアはズバッと聞いてくる。
「別れたくない・・・」
「なら答えは決まっているじゃない」
「でも、カイトがあんな事言うなんて思わなかったから・・・。前にフランと話したことがあるんだけど、私もカイトは淡白な人だと思っていたの。だからずっと安心していられたのかも、過去の事があるから、ありのままのカイトを見た時に自分がどう思うか分からない。言われてから気付いたんだけど、今のカイトは自分を抑えているように見える。」
「確かにそんな情熱的なタイプには見えないものね。いや、返って闇のような暗い情熱をもっているのかしら? まあ、手っ取り早く試してみましょう!フラン、ラザファムをここに呼んで」
「はい」
フランは軽く膝を折ると、扉に向かう。ラザファムが何の用かと入ってきた。
「サファイア様、何か御用でしょうか?」
胸に手を当て礼をする。
「ラザファム、リリアーナにちょっかいを出して、恋人同士になりそうな雰囲気をカイトの前で演じてちょうだい」
ラザファムが青くなった。
「――っ! 無理です!! 俺殺されます! いや! ほんとにそれだけは勘弁して下さい!!」
「意気地がないわね」
『いや、ラザファムの気持ちは分かる』リリアーナとクリスティアナは同情した。
「じゃあ、ヴァルカウスのルドルフ皇太子は?」
「サファイア、何を言うの・・・」
クリスティアナが一瞬の後に考え込んだ。
「ね、ぴったりでしょう?」
「確かにそうかも・・・でも、リリアーナは男性が駄目なのよ?いきなり大丈夫かしら」
「リリアーナも、最近男性に慣れてきたし、そこは頑張ってもらわないと」
「何の話をしているの?ルドルフ皇太子って、クリスティアナ姉様の恋を応援してくれた人でしょう?」
「違うのよ! あいつはあわよくば姉様を手に入れようとしていたの。優しい言葉と `ジューンブライドフェスタ ‘ で誘っておいてね。だって調べたら、ジューンブライドフェスタでティアラを
頭にのせる役って、代々王妃か皇太子妃が務めるそうじゃない。姉さまにその役をさせて、結婚に持ち込もうとしていたのよ。そんな事をする皇太子の顔が見たくて、ヴァルカウスに行く姉さま達に私もついていったんだけど、イフリートに勝ち目がないと分かり次第、すぐに私に乗り換えようとしたのよ!?」
そんな人だったとは・・・
「でも、一国の皇太子をそんな事に使っていいの?」
「お姉さまが、何でも願いを叶える念書を、ヴァルカウスのニコライ国王陛下から貰っているから、いざとなったらそれを使いましょう(19話ルドルフの思惑)。最初からそれを使って協力してもらってもいいしね。さあ、作戦を立てないと!」
「でも・・・なんか、カイトを騙すようで嫌だわ」
「リリィ、結婚してからでは遅いのよ。カイトは確かに人間的にも評価できる好人物だと思う。でも、それと貴方に対しての執着のような恋情は別物なの。特に貴方は過去に怖い目にあったんだから、カイトのその恋情を受け止めれるか、受け止めれないか、ちゃんと見極めるのが大事。話し合うより、その人の本性を直接見るのが一番だと思うけど」
まだためらいはあるが、ただ考えて堂々巡りをするよりいいかもしれない。
カイトもいつもと変わりない。昨日の事は夢だったのだろうか・・・。
いいえ、夢ではない。今までは気付かなかったが時折向けられるカイトの視線に暗い情熱がこもっているのに気付く。
就寝時、寝る訳でもなくベッドに腰を掛けて、心ここにあらずのリリアーナにフランチェスカが声を掛けた。
「リリアーナ様、どうかなさったのですか?」
「フラン、前にカイトが何かに執着した事がないって言ってたわよね?」
「はい、言いましたが・・・それが何か?」
「・・・ううん・・・何でもない。もう寝るわ」
フランに言ったら、きっとカイトに何か言うだろう。事態が悪化しそうな気がする。落ち着いて自分で考えてみて、それから相談しても遅くない。
でも、自分で何を考えるというのだろう・・・? 好きなことに変わりはない。カイトはいつも冷静で、感情の抑制が効いていて、一緒にいて落ち着く人。ずっと、私のほうがカイトの事をより好きなのだと思っていた。それが今回、実はそうでもない事が分かる。
カイトの情熱が怖くなって嫌になる日がくるのだろうか・・・? 過去の男性達による恐ろしい経験が邪魔をして、冷静な判断が下せない。カイトも何故私に告げたのだろう・・・黙っている事もできたのに。
次の日からは普通の毎日が訪れた。でもいつもと同じじゃない。二人の間がぎこちない気がする。ぎゅっと抱きしめてくれる事もキスの回数も減ったよう・・・いや、殆どない。元からそんなにくっついてはいなかったが、今では数えるほどだ。カイトの情熱が怖くなるどころか、これでは少し寂しく感じてしまう。
ノックの音がした。フランチェスカが応対に出ると、二人の姉姫の来訪であった。
「リリィ~おはよう! リングを見に来たわよ!」
サファイアと優しく微笑みを湛 (たた) えたクリスティアナである。二人が救世主に見えた。リリアーナの目から噴き出すように涙が溢れ出てきた。
「ど! どうしたのリリアーナ!」
二人の姉姫が慌てている。事の次第を話すと、二人共頷いた。
「最近二人の間がぎこちなくて、緊張を孕んでいる訳が分かったわ」
クリスティアナも気付いていた。
「リリィは一体どうしたいの? 別れたいの?」
サファイアはズバッと聞いてくる。
「別れたくない・・・」
「なら答えは決まっているじゃない」
「でも、カイトがあんな事言うなんて思わなかったから・・・。前にフランと話したことがあるんだけど、私もカイトは淡白な人だと思っていたの。だからずっと安心していられたのかも、過去の事があるから、ありのままのカイトを見た時に自分がどう思うか分からない。言われてから気付いたんだけど、今のカイトは自分を抑えているように見える。」
「確かにそんな情熱的なタイプには見えないものね。いや、返って闇のような暗い情熱をもっているのかしら? まあ、手っ取り早く試してみましょう!フラン、ラザファムをここに呼んで」
「はい」
フランは軽く膝を折ると、扉に向かう。ラザファムが何の用かと入ってきた。
「サファイア様、何か御用でしょうか?」
胸に手を当て礼をする。
「ラザファム、リリアーナにちょっかいを出して、恋人同士になりそうな雰囲気をカイトの前で演じてちょうだい」
ラザファムが青くなった。
「――っ! 無理です!! 俺殺されます! いや! ほんとにそれだけは勘弁して下さい!!」
「意気地がないわね」
『いや、ラザファムの気持ちは分かる』リリアーナとクリスティアナは同情した。
「じゃあ、ヴァルカウスのルドルフ皇太子は?」
「サファイア、何を言うの・・・」
クリスティアナが一瞬の後に考え込んだ。
「ね、ぴったりでしょう?」
「確かにそうかも・・・でも、リリアーナは男性が駄目なのよ?いきなり大丈夫かしら」
「リリアーナも、最近男性に慣れてきたし、そこは頑張ってもらわないと」
「何の話をしているの?ルドルフ皇太子って、クリスティアナ姉様の恋を応援してくれた人でしょう?」
「違うのよ! あいつはあわよくば姉様を手に入れようとしていたの。優しい言葉と `ジューンブライドフェスタ ‘ で誘っておいてね。だって調べたら、ジューンブライドフェスタでティアラを
頭にのせる役って、代々王妃か皇太子妃が務めるそうじゃない。姉さまにその役をさせて、結婚に持ち込もうとしていたのよ。そんな事をする皇太子の顔が見たくて、ヴァルカウスに行く姉さま達に私もついていったんだけど、イフリートに勝ち目がないと分かり次第、すぐに私に乗り換えようとしたのよ!?」
そんな人だったとは・・・
「でも、一国の皇太子をそんな事に使っていいの?」
「お姉さまが、何でも願いを叶える念書を、ヴァルカウスのニコライ国王陛下から貰っているから、いざとなったらそれを使いましょう(19話ルドルフの思惑)。最初からそれを使って協力してもらってもいいしね。さあ、作戦を立てないと!」
「でも・・・なんか、カイトを騙すようで嫌だわ」
「リリィ、結婚してからでは遅いのよ。カイトは確かに人間的にも評価できる好人物だと思う。でも、それと貴方に対しての執着のような恋情は別物なの。特に貴方は過去に怖い目にあったんだから、カイトのその恋情を受け止めれるか、受け止めれないか、ちゃんと見極めるのが大事。話し合うより、その人の本性を直接見るのが一番だと思うけど」
まだためらいはあるが、ただ考えて堂々巡りをするよりいいかもしれない。
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