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第六章
執 着 4 ボート小屋で
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キスマークをつけられたなんて、初めてだ。カイトらしかぬ行為に動揺する。顔に血が昇るのが分かった。
「真っ赤になっちゃったね。黙っておけばよかったかな?」
リリアーナは首を振った。知らなかったら皆に見せつける事になる。
「イフリートが探してるって本当なの?」
「本当だよ、探している内容は知らないけどね。しかし、彼はクリスティアナ様から聞いているから大丈夫だけど、他の騎士達からは敵意をひしひしと感じるよ」
「本当に!? ・・・嫌な思いをさせてる。ごめんなさい」
「これで念書が返ってくるなら安いもんさ。政治的な事に利用されると思っていたから」
確かに兄のアレクセイは最後まで、使う事に反対していた。父上と母上は今回の事を知らない。心配を掛けるからだ。反対していた兄も政治的な事柄に利用したかったのだろう。サファイアに負けてしまったが。
「貴方が悪く思われているなら、私も皆にそう思われているわね」
「いや、リリアーナ様はそんな事ないよ。彼らにとって自分達の姫君だし、君は芝居ができないから、カイトに対してなんか申し訳なさそうにしているじゃないか。だから、異国の皇太子の誘いを無下 (むげ) に断れないって立ち位置だと思う」
「え・・・カイトにもそう見えるのかしら? そうしたら、全く意味がないわ」
「う~ん、どうだろう。彼は今、嫉妬で正常な判断が下せないんじゃないかな? 君に対しても `何故 ‘ って、不満を募らせていると思うよ。でも、もっと僕に惹かれているように見せれば、効果は上がると思うけど」
それができれば苦労はしない。
「まあ、取り敢えずその格好を正して、首筋を隠したほうがいいと思うけど」
リリアーナは紅いまま、すぐに部屋に入った。
次の日の午前中、サファイアの部屋――
「私、今日カイトに言おうと思うの」
リリアーナが思い切って口にした。
「確かに昨日は勧めたけど、まだ早いんじゃない? 昨日彼は激情に駆られはしたが、方向が違ったよね? カイトが自分の抑制を解き放って、心情を吐露 (とろ) する方向に持っていきたいんだろう? そうするにはもう少しつついたほうがいいと思うけど」
`激情に駆られたけど方向が違う‘ あからさまなその言い方に、リリアーナが紅くなった。
「確かにそうだけど・・・昨日カイトの感じが何となく掴めたような気がするし」
「昨日の彼は僕を殺したいような目つきで睨みつけて、牽制はしていたけどリリアーナ様には怒っていなかったよ。君に夢中にはなっていたけど・・・」
「お願い! 姉様達の前でその話はやめて!」
リリアーナが真っ赤になった。
「ごめん、僕よくデリカシーがないって言われるんだよね」
あんまりすまながっている様には見えない。だけど、何故か憎めない。羨ましい性格だ。
「もうすぐ舞踏会だというのに、これといった成果が出ていないなんて・・・」
サファイアが頭に手を当てた。
「まるっきり出ていない訳じゃないんでしょう? 現にルドルフ様を威嚇してるし、昨日だって皇太子のルドルフ様に、挨拶をしないでその場を立ち去ったっていうじゃない。普段の礼儀正しいカイトだったら信じられない話だもの」
クリスティアナがフォローする。
「う~ん、でもちょっと怖いわよね。カイトはリリィを他の男に盗られる位なら、その男を殺すって言ったのよね?」
サファイア以外の姫君の目も、ルドルフに集中した。
「それは穏やかではないね」
何故かルドルフは落ち着いている。
「よく落ち着いていられるわね」
「カイトは何だかんだ言って、理不尽な事はしないと思うんだ」
「本当にそうだといいけど・・・」
サファイアが心配そうに言った。
午後は、またルドルフとボートに乗る約束をしていた。ボート小屋の前で待ち合わせをしている。女性騎士のジャネットを伴ってボート小屋まで来たのだが、まだルドルフが来ていない。それにジャネットの様子が少しおかしい。
「すいません、何かお腹が・・・お昼に食べた鰊 (にしん) がいけなかったのかも」
「私に構わずじいやの所に行って、ルドルフ様もすぐ来るだろうし。このボート小屋に入っていれば、人目にもつかないでしょう」
「すいません、すぐ代わりの者を寄こします」
ジャネットは吐き気を催したのか、口を押さえて走っていった。
リリアーナは小屋に入ると、中を見渡した。長方形の形をした小屋で、奥行きのほうが長い。きちんと整頓されていて、入り口以外の三方に棚があり、ボートに必要な物が載っていた。小屋は簡素な造りで、外からは分からなかったが所々に隙間があり、そこから入る光でうっすらと明るかった。
興味深く中の物を見ていると、バタンと扉が閉まる音がした。きっとルドルフか、変わりの警護の者だ。顔を上げると、カイトが扉を背にしてこちらを見つめていた。
「真っ赤になっちゃったね。黙っておけばよかったかな?」
リリアーナは首を振った。知らなかったら皆に見せつける事になる。
「イフリートが探してるって本当なの?」
「本当だよ、探している内容は知らないけどね。しかし、彼はクリスティアナ様から聞いているから大丈夫だけど、他の騎士達からは敵意をひしひしと感じるよ」
「本当に!? ・・・嫌な思いをさせてる。ごめんなさい」
「これで念書が返ってくるなら安いもんさ。政治的な事に利用されると思っていたから」
確かに兄のアレクセイは最後まで、使う事に反対していた。父上と母上は今回の事を知らない。心配を掛けるからだ。反対していた兄も政治的な事柄に利用したかったのだろう。サファイアに負けてしまったが。
「貴方が悪く思われているなら、私も皆にそう思われているわね」
「いや、リリアーナ様はそんな事ないよ。彼らにとって自分達の姫君だし、君は芝居ができないから、カイトに対してなんか申し訳なさそうにしているじゃないか。だから、異国の皇太子の誘いを無下 (むげ) に断れないって立ち位置だと思う」
「え・・・カイトにもそう見えるのかしら? そうしたら、全く意味がないわ」
「う~ん、どうだろう。彼は今、嫉妬で正常な判断が下せないんじゃないかな? 君に対しても `何故 ‘ って、不満を募らせていると思うよ。でも、もっと僕に惹かれているように見せれば、効果は上がると思うけど」
それができれば苦労はしない。
「まあ、取り敢えずその格好を正して、首筋を隠したほうがいいと思うけど」
リリアーナは紅いまま、すぐに部屋に入った。
次の日の午前中、サファイアの部屋――
「私、今日カイトに言おうと思うの」
リリアーナが思い切って口にした。
「確かに昨日は勧めたけど、まだ早いんじゃない? 昨日彼は激情に駆られはしたが、方向が違ったよね? カイトが自分の抑制を解き放って、心情を吐露 (とろ) する方向に持っていきたいんだろう? そうするにはもう少しつついたほうがいいと思うけど」
`激情に駆られたけど方向が違う‘ あからさまなその言い方に、リリアーナが紅くなった。
「確かにそうだけど・・・昨日カイトの感じが何となく掴めたような気がするし」
「昨日の彼は僕を殺したいような目つきで睨みつけて、牽制はしていたけどリリアーナ様には怒っていなかったよ。君に夢中にはなっていたけど・・・」
「お願い! 姉様達の前でその話はやめて!」
リリアーナが真っ赤になった。
「ごめん、僕よくデリカシーがないって言われるんだよね」
あんまりすまながっている様には見えない。だけど、何故か憎めない。羨ましい性格だ。
「もうすぐ舞踏会だというのに、これといった成果が出ていないなんて・・・」
サファイアが頭に手を当てた。
「まるっきり出ていない訳じゃないんでしょう? 現にルドルフ様を威嚇してるし、昨日だって皇太子のルドルフ様に、挨拶をしないでその場を立ち去ったっていうじゃない。普段の礼儀正しいカイトだったら信じられない話だもの」
クリスティアナがフォローする。
「う~ん、でもちょっと怖いわよね。カイトはリリィを他の男に盗られる位なら、その男を殺すって言ったのよね?」
サファイア以外の姫君の目も、ルドルフに集中した。
「それは穏やかではないね」
何故かルドルフは落ち着いている。
「よく落ち着いていられるわね」
「カイトは何だかんだ言って、理不尽な事はしないと思うんだ」
「本当にそうだといいけど・・・」
サファイアが心配そうに言った。
午後は、またルドルフとボートに乗る約束をしていた。ボート小屋の前で待ち合わせをしている。女性騎士のジャネットを伴ってボート小屋まで来たのだが、まだルドルフが来ていない。それにジャネットの様子が少しおかしい。
「すいません、何かお腹が・・・お昼に食べた鰊 (にしん) がいけなかったのかも」
「私に構わずじいやの所に行って、ルドルフ様もすぐ来るだろうし。このボート小屋に入っていれば、人目にもつかないでしょう」
「すいません、すぐ代わりの者を寄こします」
ジャネットは吐き気を催したのか、口を押さえて走っていった。
リリアーナは小屋に入ると、中を見渡した。長方形の形をした小屋で、奥行きのほうが長い。きちんと整頓されていて、入り口以外の三方に棚があり、ボートに必要な物が載っていた。小屋は簡素な造りで、外からは分からなかったが所々に隙間があり、そこから入る光でうっすらと明るかった。
興味深く中の物を見ていると、バタンと扉が閉まる音がした。きっとルドルフか、変わりの警護の者だ。顔を上げると、カイトが扉を背にしてこちらを見つめていた。
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