黒の転生騎士

sierra

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第九章

呪われた絵

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 カイトの左肩も痛まなくなったある休日、仕事絡みでイフリートに呼び出され、リリアーナの部屋を訪れるのが遅くなった。ノックをすると、フランチェスカが顔を出す。
「カイト、お待ち兼ねよ」
 中に入ると、窓辺に置いてある一人掛け用の椅子にリリアーナが座っていた。その前には宮廷画家のベルナールがいて、リリアーナをスケッチしている。
 
 カイトを見て、思わず立ち上がってしまったリリアーナに宮廷画家が注意を与える。
「リリアーナ様、あと少しです。もうちょっとご辛抱を」
 そして振り向いてすぐ納得の顔をした。
「サー・カイト。それでは仕様がありませんね。愛しい人には勝てません。休憩に致しましょう」
 この構図は見たことがある・・・そうだ、`哀しみのリリアーナ ‘ と同じ構図だ。

「ちょっとスケッチを見せてもらってもいいかい?」
「どうぞ、どうぞ」
 ベルナールは、カイトの兄が営むゴルツ商会から絵の注文を受ける事もあり、カイトとも顔見知りで親しい。なので以前はため口であったのだが、カイトがサーの称号を国王陛下から賜り、リリアーナと婚約した事で、敬意を払って敬語を使うようになった。カイトが『前のようにため口で』とお願いしても、なかなか元に戻ってくれない。

 カイトは渡されたスケッチを、一枚一枚捲ってみた。
「リリアーナ様はお美しい方ですから描き甲斐があります。ポーズはこちらがいいと思うのですが」
 画家が出したスケッチは、正にあの絵と同じであった。
「題名は、最初`物思うリリアーナ ‘ にしようと思っていたのですが`恋人を待つリリアーナ ‘ に変更しようと思います。サー・カイトがいらっしゃるのを待ち焦がれていらっしゃいましたから。

「ベルナール!」
 リリアーナが恥かしそうに叫んだ。
「これは申し訳ございません。余計な事を申しました」
 ベルナールがニコニコしながら部屋から出て行った。

「リリアーナ、この絵の構図は・・・」
「ええ、私も気付いたの。あの絵と一緒ね」
(これがあの絵なのは間違いない。何故表情だけ違うのか・・・)
 まだスケッチだけの段階ではあるが、リリアーナは哀しいというよりは、そわそわしながら待ち遠しそうな顔をしているのが感じ取れる。
「今度カエレス様に聞いてみよう」
「分かったら私にも教えて」
「かしこまりました」
 カイトはわざと改まって言うと、スケッチを持ったまま少し屈んで、リリアーナの目尻の辺りにキスをした。そこにベルナールが、一枚の絵を持って入ってきた。

「ベルナール、その絵は?」
「サー・カイト。この絵は城の絵画室の保管庫で預かって頂ければと持ってまいりました」
「なぜ城の保管庫に・・・?」
「ちょっと見て頂けますか」 
 ベルナールが掛かっていた白い布を外し、カイトがその絵を受け取ると三人で覗き込んだ。
それは丘の草原の中に立つ、石造りの一軒家であった。家の前にはベンチが置いてあり、15,6歳の茶色い髪をした男の子が座っている。

『見つけた――』

「ベルナール、今何か聞こえなかったか?」
「いいえ、サー・カイト、聞こえませんでした」
「リリアーナは?」
「私も何も聞こえなかったわ」
「変だな、気のせいか・・・? いや、それでこの絵がどうしたんだい?」
「この絵は呪われているのです。この絵の周りで何人か行方不明者が出ていて」
「必ずしもこの絵が原因ではないだろう?」
「それが・・・行方不明者の出る場所が、この絵と一緒に移動しているのです」
「ちょっと信じ難いが・・・そんな気味の悪い絵は燃やしてしまったほうがいいんじゃないか?」
「それが燃えないのです」
「燃えない?」
「ええ、ここでは火種もないし、代わりに・・・ご覧下さい」
 ベルナールがキャンバスを張った時に、余分な部分を切り取るナイフを取り出した。
「サー・カイト、こう、前のほうに絵を突き出して下さい」
「こうか?」
 カイトが両手で絵を持ち、そのまま前に出す。ベルナールがナイフを振りかざすと、思い切り絵に突き刺そうとした。

「――っ!」

 瞬間、絵とナイフの間が白く光り、ベルナールの身体が弾かれる様に飛んでいった。カイトも弾かれそうだったが、渾身の力で耐え抜いた。

「いやぁ~さすがサー・カイト。持ちこたえられるとは・・・」
 持って来た絵の道具の中に身体ごと突っ込んだベルナールは上から下までボロボロだ。洒落者だけに、その姿は痛々しい。
「ベルナール、髪の毛に筆が刺さっているぞ。思ったんだが・・・そんなに勢い良くナイフを突き立てなくてもよかったんじゃないか?」
「確かに・・・! しかしこういう事はドラマチックでないと!」
「ドラマチック・・・」

 カイトはベルナールの髪に別に刺さっていたパレットナイフを引き抜いた。
「分かった。そういう事ならアレクセイ様に頼んでみる。絵画室は鍵が掛かるし、その中の保管庫と二重に鍵が掛かって、こういう物を保管しておくにはちょうどいいだろう」
「サー・カイト、ありがとうございます」
(カエレス様に一度この絵を見てもらったほうがいいな。また近く来てくれるといいが)
「じゃあ、また先程の続きを始めましょう」

 リリアーナが残念そうな顔をすると、カイトの袖を掴んで身を寄せた。やっと来てくれたから続きは嫌なのだ。カイトがクスリと笑う。
「読書して待っているから」
 両手でリリアーナの頬を包んで優しくくちづけた。
「それだ!」
 二人でビクッとする。
「何だ・・・ベルナール?」
「今のお二人! ナイスです! 構図が特に・・・! 名づけて`接吻 ‘ ぜひ二人で一緒に絵のモデルを!!」
 この攻撃はこれからずっと続く。


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