黒の転生騎士

sierra

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第十章

私を呼んで 2  夢の中へ

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「多分スクブスに魅入みいられたな・・・しかしこいつは・・・」
「スクブス?」
 一瞬カエレスは物思いにふけったが、リリアーナの問いにすぐに答えた。
「スクブスは、夢魔むまだ。悪魔の一種で夢の世界に入り込み、欲しい相手を我が物にする」
「夢の中で・・・だから起きないのかしら?」
「このタイプのスクブスに魅入られたら、もう目覚めない・・・眠ったまま歳を取り、やがては寿命が尽きて死んでしまう」
「そんな・・・! カイトがこのまま目覚めないなんて、どうにかできないのですか?」
 リリアーナはカエレスにすがりついた。

「取り敢えず夢の中をのぞいてみよう」
 カエレスがカイトの身体に手をかざした後、人差し指で空中に円を描いた。その中に、あるビジョンが浮かび上がる。
「カイト・・・」
 リリアーナの口から名前がれた。

 そこは寝室で、カイトがベッドに入っている。金髪の薄いナイトウェアを着た女性が、カイトの横に滑り込んできた。女性がカイトにキスを強請ねだると、カイトが身体を起こして女性に身を寄せた。
「いや! カイト――!」
 リリアーナが目に涙をにじませて、思わず叫ぶ。


「ねえ、どうしたの?」
 動きを止めたカイトに女性が先をうながしている。
「ごめん・・・何でもない」
 カイトは唇ではなく、額にキスをした。不服そうな女性に声を掛けて、横になる。
「お休み。リディス」


「リディスか、初めて聞く名前だな・・・おい、それより今のカイト、リリアーナの声に反応したろう?」
 皆が顔を見合わせる中、フランチェスカの胸で泣いているリリアーナも顔を上げた。
「そうでした・・・か・・・?」
「そうだ。まだ完全にはとらわれていないようだ」
 カエレスはリリアーナをじっと見つめた。

「カイトを助けたいか?」
「もちろんです!」
「方法が一つだけある・・・だが、命の保障はできない。それでもお前はやる覚悟があるか・・・?」
「やります―― 私にできる事なら、何でもやります」
 リリアーナがカエレスの瞳を真っ直ぐに見つめる。フランチェスカが一歩前に進み出た。
「私では駄目ですか? 姫様を危険な目に合わせられません」
「駄目だ。後で詳しく説明するが、カイトの記憶を取り戻さないといけない。それにはやはりリリアーナでなければ。二人一緒も無理だぞ、自分が呼び込んだ覚えのない女性が二人も来たら、リディスが気付いてしまう」
「分かりました・・・」
「ありがとうフラン」 
 リリアーナがフランチェスカの腕に触れて、頭を軽くもたせかけた。

「まず、カイトの身体を他に移動する。どこか、もっと大きいベッドはないか?」
「それでしたら、私の部屋に」
 リリアーナがぐに答えた。スティーブがカイトの身体を肩にかついで、リリアーナの部屋へと移動する。

 大きなリリアーナのベッドの上にカイトを丁寧に横たえた。カエレスがリリアーナに説明する。
「まずはカイトの横で眠ってもらう。次に目覚めた時にはカイトの夢の中に居る筈だ。夢の中でのお前の姿は今とは違っているから、何かに姿を映して確認しろ。リリアーナのままの姿だと、すぐにリディスに気付かれてしまうからな。そしてその姿だと、ある者がお前の味方になってくれる筈だ。行けばすぐに分かる。あと、その為にも髪の毛四本にわしの守護を与える」

「守護を?」

「その四本の髪の毛は、お前を守ってくれる。四本のうちの一本はさっき言ったようにお前の姿を別人に見せる。男性恐怖症も抑えてくれるし、リディスの思考を混乱させたり、帰りの道へと導いてくれるから、その一本は絶対に使うな。後の三本はその時がくれば使い方が分かる。ただ三本しかないから大事に使え」

フランチェスカが質問した。
「カイトみたいに完全に守護を与えられないのですか? 今、聞いた話だと守護があれば、色々と助けてくれそうですよね?」

「それは駄目だ。守護は受けるほうもそれだけの器がないといけない。カイトは、体力・知力・精神力が人並み以上に優れていたから与えたんだ。そうでないと人格が崩壊したり、身体が壊れてしまったりする」

 ――みんな何となく納得がいった。

「夢の中だからといって無茶をするな、夢魔が取りく夢の中の出来事は本体にね返る。怪我をしたらここで眠っているお前の身体も怪我をするし、死んでしまったら、本体も死ぬ。くれぐれもリリアーナである事を悟られないように」
「分かりました。気を付けます」

「そしてここからが肝心だが、カイトに記憶を取り戻させるのに、ここでの事を話してはいけない」
「カイトに今までの事を説明してはいけないんですか? 何も? 私との婚約の事も?」
「そうだ。自分で思い出さないと夢魔の術は破れないんだ。思い出すきっかけになる位のものならいいが。難しいがリリアーナ、お前ならきっとできる――頑張ってくれ」

「はい」
 リリアーナは重く返事をする。帰ってこれなくなるかもしれないので、騒ぎを聞きつけて駆けつけた父、母、兄姉達にも説明した。猛反対されたが、リリアーナの意志が固いのが分かると、最後には渋々折れてくれた。カイトの隣に横たわり早く眠れるようにと、カエレスとフランチェスカ以外には部屋を出てもらう。

 右手でカイトの左手を握り締める。
(絶対に連れて帰ってくる――)
心に誓うと目を閉じた。暫くすると、誘われるように眠りに落ちた。

 目覚めると、青空が広がる野原の中で横たわっていた。身体を起こして辺りを見渡すと、近くには小川が流れている。その小川に姿を映してみると、茶色い髪の毛に茶色い瞳の、可愛らしい女の子が映っていた。自分ではない自分。不思議な気分でこれからどうしたものだろう、ときょろきょろしていると声を掛けられた。

「どうしたんだい?」
 リリアーナが顔を上げると、執事の格好をした茶色い髪と茶色い瞳の40代くらいの男がこちらを覗き込んでいる。男はリリアーナの顔を見ると息を呑んだ。
「ポーレット」
「ポーレット・・・?」
「いや、ポーレットはもう・・・君はこんな所でどうしたんだい?」
 リリアーナは半分だけ本当の事を言った。
「目が覚めたらここに居て、自分の事が思い出せないの」
「無理矢理呼び込まれたか、それとも彷徨さまよいこんだのか――。あの方は急いでこの世界を作られたから、あちこちで無理が生じている。カイト様に重きを置いているから、他は少しいい加減なんだ。ほころびが大きくならないといいが」

 カイト――! この人はカイトを知っている。
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