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第十一章
我儘姫と舞踏会 7 赤い熊と白い狼と土下座
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「サー・カイト、どうしてこちらに・・・書状を読まれたのですか? 読んでから出立したにしては着くのが早すぎますが」
「殆ど寝ないで馬を飛ばしてきたので」
クレメンスの部屋は、茶色を基調としており、華美ではない落ち着きのある家具に趣味の良さが感じられた。ソファを勧められて腰を下ろす。
「ひょっとして・・・あの盗賊共 `赤い熊 ‘ を一網打尽にしたのも貴方様なのでは? いま城内ではその話で持ち切りです。詰所からの情報で`リーフシュタインの黒髪の騎士 ‘ ということだけは分かっているのですが」
カイトが恥かしげに頭をかいた。
「捕らえた訳ではなく倒しただけなのと、疲れていたので手加減をできずに後悔していました。しかし、騎士達が現地に着くまでに逃げてしまっても困るし、いま考えると手加減無しで丁度良かったかもしれません」
「いやぁ~正にその通りです。駆けつけたら全員屍のようにへたばっていたようで、捕まえるのが実に楽だったとか。それも盗賊達から『お願いだから捕まえてくれ』とお願いされたと聞いております」
「そうですか――」
大木を倒したのが相当効いたようだな・・・
「それにしても有名な盗賊なのですか? `赤い熊 ‘ とは・・・?」
「首領が赤ら顔で、熊のような大男だったでしょう? だから`赤い熊 ‘ というのです。本人は赤毛だからそう呼ばれていると思っているようですが」
ここでクレメンスが笑いを漏らしたが、すぐに顔を引き締めて話を続けた。
「最近レアル王国付近の街道を荒らし回り、困り果てておりました。本当に感謝の言葉もありません」
「いいえ、降りかかってきた火の粉を払っただけです。町の中では`白い狼 ‘ の話を耳にしたのですが、それとはまた別物ですね?」
「はい。`白い狼 ‘ も盗賊ですが、`赤い熊 ‘ とはライバル関係にあります。負けず劣らない強さと残忍さを併せ持ち、まだ捕らえる事ができずにいます。こちらの名前の由来は首領の髪の毛が白髪によるものです」
クレメンスは身を乗り出すと、スティーブの話しを切り出した。
「いらっしゃったのはスティーブ殿の件ですね・・・?」
「はい。彼を直ちにリーフシュタインへ帰してほしいのです」
「・・・・・・」
いきなりクレメンスがソファから下り、カイトに向かって土下座を始めた。
「ク、クレメンス殿! どうしたのですか!? やめて下さい、土下座の意味を知っているのですか?」
カイトがクレメンスを立たせようと、左手を持ち引っ張り上げようとしたが、彼は尚も抵抗しながら訴える。
「リーフシュタインでは大切な願いを申し出る時に、ドゲザをすると聞いております! どうかこのままで――」
情報が曲がって伝わっているな――
カイトが苦笑して真実を伝える。
「違います。申し訳ないという気持ちを表す時に使うのです」
「そ、そうでしたか・・・しかしその意味でも合っているかもしれません。スティーブ殿を帰す事ができないのですから――」
「頂いた書状を読んで大体のところは分かりましたが、当のスティーブはベルタ王女の騎士のお役目を固辞しているのですよね?」
「はい――、実はそうなのです。しかし、ベルタ王女や我々にも是非彼が必要なのです!!」
「スティーブがベルタ王女に気に入られたからですか?」
「もちろんそれもありますが、彼はベルタ王女がなぜ我儘を言っているかを理解し、許し、ある時はきちんと叱ることができます。今まで意地悪な笑みしか浮かべなかった王女が、スティーブ殿が騎士となってからは幼い頃のような、心からの笑顔を見せるようになったのです」
「こんな短期間で・・・さすがスティーブ――」
カイトは腕を組んで顎に手を当てる。
「それだけではなく、スティーブ殿に淡い恋心も抱いているようで・・・今もしも彼が帰ってしまったら、元の王女に戻ってしまいます! 両陛下も昔のような笑みを浮かべる王女を目の当たりにして、元のような関係に戻れないか期待しているのです。サー・カイトからもスティーブ殿に残るよう、勧めては頂けませんか?」
「――大変心苦しいのですが、それはできません」
クレメンスが顔を強張らせる。
「悪いようにはしませんから、落ち着いて私の話しを聞いて下さい」
カイトはクレメンスをソファに座らせると、話し始めた。
「王女がスティーブを慕う気持ちは分かりますし、いい影響を与えているのも分かります。しかし、肝心のスティーブ本人は帰りたがっています。それにスティーブが残っても、根本の解決にはならないと思います」
「いいえ、最近の姫様はそれは明るくおなりになり、このままいけば両陛下との仲も・・・」
「勿論そうなる可能性もありますが、人の恨みとは根深いものです。ベルタ王女は両陛下が歩み寄ろうとしたところ`何を今更 ‘ と思っているとクレメンス殿が前に仰っていましたよね? 下手をすると両陛下から遠ざかるかもしれません。`スティーブがいれば、スティーブさえ分かってくれれば、他には誰もいらない―― ‘ と」
「それは・・・確かにあり得ますな」
クレメンスが頭を垂れた。
「渦中にいると気が付かないものです。そこで一応作戦を考えたのですが」
「作戦――?」
クレメンスが不思議そうに顔を上げる。
「はい、作戦です。状況を踏まえて考えました。上手くいけば、親子間の問題と、スティーブの問題の両方が解決します」
安心させるように微笑みを浮かべたカイトが説明をし始めた。
翌朝の食堂。今日はベルタ王女の思いつきで、ピクニックに行く旨が告げられた。スティーブが呟く。
「この寒いのにピクニック・・・」
もう、紅葉も終わろうかというこの時期になぜピクニック――と、ベルタ王女を警護する騎士達は考えた。しかし、仕事でもあるし仕方がない。前よりは理不尽な要求が減ってきているし、ピクニック位は・・・とみんな気を持ち直す。
ピクニックの場所は小高い丘の上、レアル城と町が見渡せる場所だ。いざ出向いてみると気持ちが良く、護衛の騎士達も楽しそうにしている。傍を通る道は目の前で広大な森に入っていき、実はそれがリーフシュタインへと続く道だったりする。
スティーブは遠い目をした。
すぐに帰る予定だったのに・・・俺は何でここにいるんだ・・・? ベルタ王女をこのままの状態で置いていくのは気が引けるが、今の俺にはとても大事な、フランチェスカとの舞踏会が――!! いっその事、このままリーフシュタインへと帰ってしまいたい・・・!
などとスティーブが考えている間に、森からこちらを目掛けて押し寄せてくる、悪しき集団が目に入った。
「殆ど寝ないで馬を飛ばしてきたので」
クレメンスの部屋は、茶色を基調としており、華美ではない落ち着きのある家具に趣味の良さが感じられた。ソファを勧められて腰を下ろす。
「ひょっとして・・・あの盗賊共 `赤い熊 ‘ を一網打尽にしたのも貴方様なのでは? いま城内ではその話で持ち切りです。詰所からの情報で`リーフシュタインの黒髪の騎士 ‘ ということだけは分かっているのですが」
カイトが恥かしげに頭をかいた。
「捕らえた訳ではなく倒しただけなのと、疲れていたので手加減をできずに後悔していました。しかし、騎士達が現地に着くまでに逃げてしまっても困るし、いま考えると手加減無しで丁度良かったかもしれません」
「いやぁ~正にその通りです。駆けつけたら全員屍のようにへたばっていたようで、捕まえるのが実に楽だったとか。それも盗賊達から『お願いだから捕まえてくれ』とお願いされたと聞いております」
「そうですか――」
大木を倒したのが相当効いたようだな・・・
「それにしても有名な盗賊なのですか? `赤い熊 ‘ とは・・・?」
「首領が赤ら顔で、熊のような大男だったでしょう? だから`赤い熊 ‘ というのです。本人は赤毛だからそう呼ばれていると思っているようですが」
ここでクレメンスが笑いを漏らしたが、すぐに顔を引き締めて話を続けた。
「最近レアル王国付近の街道を荒らし回り、困り果てておりました。本当に感謝の言葉もありません」
「いいえ、降りかかってきた火の粉を払っただけです。町の中では`白い狼 ‘ の話を耳にしたのですが、それとはまた別物ですね?」
「はい。`白い狼 ‘ も盗賊ですが、`赤い熊 ‘ とはライバル関係にあります。負けず劣らない強さと残忍さを併せ持ち、まだ捕らえる事ができずにいます。こちらの名前の由来は首領の髪の毛が白髪によるものです」
クレメンスは身を乗り出すと、スティーブの話しを切り出した。
「いらっしゃったのはスティーブ殿の件ですね・・・?」
「はい。彼を直ちにリーフシュタインへ帰してほしいのです」
「・・・・・・」
いきなりクレメンスがソファから下り、カイトに向かって土下座を始めた。
「ク、クレメンス殿! どうしたのですか!? やめて下さい、土下座の意味を知っているのですか?」
カイトがクレメンスを立たせようと、左手を持ち引っ張り上げようとしたが、彼は尚も抵抗しながら訴える。
「リーフシュタインでは大切な願いを申し出る時に、ドゲザをすると聞いております! どうかこのままで――」
情報が曲がって伝わっているな――
カイトが苦笑して真実を伝える。
「違います。申し訳ないという気持ちを表す時に使うのです」
「そ、そうでしたか・・・しかしその意味でも合っているかもしれません。スティーブ殿を帰す事ができないのですから――」
「頂いた書状を読んで大体のところは分かりましたが、当のスティーブはベルタ王女の騎士のお役目を固辞しているのですよね?」
「はい――、実はそうなのです。しかし、ベルタ王女や我々にも是非彼が必要なのです!!」
「スティーブがベルタ王女に気に入られたからですか?」
「もちろんそれもありますが、彼はベルタ王女がなぜ我儘を言っているかを理解し、許し、ある時はきちんと叱ることができます。今まで意地悪な笑みしか浮かべなかった王女が、スティーブ殿が騎士となってからは幼い頃のような、心からの笑顔を見せるようになったのです」
「こんな短期間で・・・さすがスティーブ――」
カイトは腕を組んで顎に手を当てる。
「それだけではなく、スティーブ殿に淡い恋心も抱いているようで・・・今もしも彼が帰ってしまったら、元の王女に戻ってしまいます! 両陛下も昔のような笑みを浮かべる王女を目の当たりにして、元のような関係に戻れないか期待しているのです。サー・カイトからもスティーブ殿に残るよう、勧めては頂けませんか?」
「――大変心苦しいのですが、それはできません」
クレメンスが顔を強張らせる。
「悪いようにはしませんから、落ち着いて私の話しを聞いて下さい」
カイトはクレメンスをソファに座らせると、話し始めた。
「王女がスティーブを慕う気持ちは分かりますし、いい影響を与えているのも分かります。しかし、肝心のスティーブ本人は帰りたがっています。それにスティーブが残っても、根本の解決にはならないと思います」
「いいえ、最近の姫様はそれは明るくおなりになり、このままいけば両陛下との仲も・・・」
「勿論そうなる可能性もありますが、人の恨みとは根深いものです。ベルタ王女は両陛下が歩み寄ろうとしたところ`何を今更 ‘ と思っているとクレメンス殿が前に仰っていましたよね? 下手をすると両陛下から遠ざかるかもしれません。`スティーブがいれば、スティーブさえ分かってくれれば、他には誰もいらない―― ‘ と」
「それは・・・確かにあり得ますな」
クレメンスが頭を垂れた。
「渦中にいると気が付かないものです。そこで一応作戦を考えたのですが」
「作戦――?」
クレメンスが不思議そうに顔を上げる。
「はい、作戦です。状況を踏まえて考えました。上手くいけば、親子間の問題と、スティーブの問題の両方が解決します」
安心させるように微笑みを浮かべたカイトが説明をし始めた。
翌朝の食堂。今日はベルタ王女の思いつきで、ピクニックに行く旨が告げられた。スティーブが呟く。
「この寒いのにピクニック・・・」
もう、紅葉も終わろうかというこの時期になぜピクニック――と、ベルタ王女を警護する騎士達は考えた。しかし、仕事でもあるし仕方がない。前よりは理不尽な要求が減ってきているし、ピクニック位は・・・とみんな気を持ち直す。
ピクニックの場所は小高い丘の上、レアル城と町が見渡せる場所だ。いざ出向いてみると気持ちが良く、護衛の騎士達も楽しそうにしている。傍を通る道は目の前で広大な森に入っていき、実はそれがリーフシュタインへと続く道だったりする。
スティーブは遠い目をした。
すぐに帰る予定だったのに・・・俺は何でここにいるんだ・・・? ベルタ王女をこのままの状態で置いていくのは気が引けるが、今の俺にはとても大事な、フランチェスカとの舞踏会が――!! いっその事、このままリーフシュタインへと帰ってしまいたい・・・!
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