黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 19  ルイス王子の到着

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「リリアーナ様、カイト!」

カイトがその声に足を止めると、息を切らしたフランチェスカが駆け寄ってきた。

「相変わらず足が速いわね」
「さっき…皆で見ていただろう?」
「うっ、分かった?」
「丸分かりだ。`浴場でうらうら ‘ で多分スティーブだと思うが吹き出していたし、サファイア様の悲鳴は盛大に聞こえた」

フランチェスカが思い出す。そうだ、初めスティーブが吹き出して、イフリートに退散するよう命じられたのだ。
リリアーナが手を胸の前で組み、フランチェスカに向かって身を乗り出してきた。

「フラン、私のキスどうだった?」
「素晴らしいタイミングでのキスでした。これでもう、誰もカイトには手を出さないでしょう」

カイトが微かに頬を紅潮させる。

「一体何の話をしているんだ?」
「私もリリアーナ様から相談を受けていたの。カイトと結婚するにはどうすればいいか?って」
「いつの間に……」

手で口を覆ってリリアーナを見下ろすと、にこにこしながらこちらを見上げている。

「みんなリリアーナ様の味方だから、観念したほうがいいかも」
「みんなって、どれだけの人間が知っているんだ?」
「城の者達はほぼ全員。市井にも広がりつつあるわ」
「この間の執務室の話し合いで、フランは分かってくれたんじゃなかったのか?」
「それとこれとは別。だってこれはリリアーナ様から持ちかけられた話ですもの」

腕の中にいるリリアーナは嬉しそうにしていて、これ以上自分の意見を主張して水を差す気になれない。それに先程彼女を抱きしめていたのも、きっとフランチェスカ達に見られていただろう。話しを続けるとやぶ蛇になりそうな気もする。
カイトは気持ちを切り替えて、当座の問題であるルイス王子の訪問に考えを集中させることにした。

それからの三日間、ルイス王子滞在中の警護の騎士の配置、巡回路の見直し、警備兵の増員などに、騎士団員は全員忙殺される。そして短い間によくぞここまで、と言うほどに態勢が整い、国王から使用人に至るまで気持ちが一つになったのである。

そして月曜日――

黒の4頭立ての4輪大型馬車でルイス王子は到着をした。

「あんな大きな馬車で来るなんて、街道ではさぞかし通行の妨げになったでしょうね」
「サファイア、口にチャックをしろ」
「アレクセイ兄様この雰囲気まずくないかしら? 城の者達も表向きは笑顔だけど、ほのかに`招かれざる客 ‘ という不穏な空気が漂っているわ」
「大丈夫だクリスティアナ。なぜならルイスは最上級のナルシストだからだ。`また熱い視線が刺さって痛い ‘ ぐらいにしか思わないだろう」
「馬鹿なの? 馬鹿なのね?」
「サファイア……」

馬車の扉が開いて、金髪碧眼のルイス王子が降りて来た。

「ふ~ん、顔立ちだけはいいじゃない。一癖ありそうだけど」

「我が友アレクセイ!」
両手を広げて近寄ってくる。

「兄様、お友達だったの……?」
「んなわけないだろう!」

少し引き気味の二人の妹の言葉にアレクセイはすぐに否定をし、貼り付けたような笑顔でルイスを迎え、いやいやながらハグをする。

「このお美しい二人の姫君は……?」
「向かって左側が第一王女のクリスティアナで、右側が第二王女のサファイアだ」
「ご好意に甘えて一ヶ月ほど滞在させて頂きますが、どうぞよろしく」

順番に二人の手を取り、愛想良くその甲にくちづける。
サファイアの表情からは『こちらの好意じゃなくそちらの脅し。おまけに一ヶ月も滞在をする気?』という気持ちがありありと伺えた。

「ところで、可愛くて愛らしいと評判のリリアーナ姫はどちらに?」
「調子が悪いので部屋で臥せっている」
「それは、すぐにでも花束を持って見舞いに伺わないと……!」
「いや、大人しく寝かせておくのが一番だから、悪いけど遠慮してくれ。父上と母上もついていることだし、大丈夫だ」
「ふん……分かった」

遅れて一人の美しい女性が、従者の手を借りて馬車から降りてきた。

「ルイス、酷いわ。私を置いて行ってしまうんですもの」
「キルスティン、ごめん。気が急いてしまって」

ルイスが女性のところまで急いで戻り、すっと肘を差し出した。女性はその肘に手を添えて彼のリードに身を任せ、優雅な身のこなしで歩いてくる。美しい金の髪は品良く結い上げ、整った美しい顔立ちにシンプルな銀のドレスはほっそりとした身体を際立たせていた。

「どういうこと? 彼女は誰? ルイス王子の恋人? 彼はリリアーナ狙いではないの?」
「サファイア聞こえてしまうわ声を落として。さっきの会話からするとやはりリリアーナ狙いよ」
「紹介されたら分かるさ」

目の前まで来たので、皆で口を噤んだ。

「申し訳ない。彼女の紹介がまだだったね。オーグレーン公爵のご令嬢キルスティンだ。私の親戚に当たる」

その公爵家のご令嬢は膝を曲げて大変優美に挨拶をする。
「キルスティンと申します。滞在中はどうぞよしなにお願いいたします。」
「彼女は空手に興味があって、今回どうしてもと言われて連れてきたんだ」

「ああ、それなら」

アレクセイが振り返ってカイトを呼び、ルイス王子のこめかみがぴくっと反応をした。

「こちらが君達ご所望の空手の達人カイト・フォン・デア・ゴルツだ」
「君か……模範試合を楽しみにしているよ」
「ご期待に添えるよう頑張らせて頂きます」

カイトが姿勢を正して答えると、キルスティンが右手を差し出してきた。

「私も楽しみにしておりますわ」

彼女が魅惑的に微笑んだ。

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