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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 21 かっ…可愛い!! まずっ、鼻血出そう……!
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しかし10分経っても20分経ってもキルスティンは答えを出せず、ルイスがイライラと痺れを切らし、ソファから身を乗り出した。
「一体どうなっているんだ? いつもだったらもうとっくに居場所が分かっている頃だろう!」
「それが……見えないのです」
「見えない……?」
「はい。霞がかかったように邪魔をして……もしかしたらカイトというあの騎士のせいかもしれません」
「あのリリアーナ姫の婚約者のか?」
「はい。彼は戦いの神、カエレスの守護を受けています。それだけではない何かも感じるのですが、今の段階で詳しくは分かりません」
「カイトが結界でも張っているんじゃないのか?」
「いいえ、彼が故意にやっているようではないようです。私の力が及ばない何かを彼は持っているように思われます」
「そうしたら、リリアーナ姫を手に入れる事ができないじゃないか」
「私の力が全て無効化される訳ではないと思います。彼を少し探ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「許可する。大枚をはたいて雇ったんだから役に立ってもらわないと。せいぜいその美しい容姿も利用してみろ、上手く近付いて……たらしこんでくれると一番助かるな」
「……私は散歩と称して周りの様子を伺って参ります」
「ああ、誰かお付きの者を連れて行け。公爵令嬢が一人ではまずかろう」
「はい」
「それからその耳はちゃんと隠せよ! お前がエルフだとばれてしまうぞ」
「畏まりました」
キルスティンはルイスの下衆な態度に、内心はらわたが煮えくり返る思いであったが、雇い主である彼を罵倒するわけにもいかず、黙って尖った耳に手を翳して人間の耳に整えた。
彼女は人間とエルフの間にできた子供、ハーフエルフである。
ハーフであることでキルスティンは子供の頃から色々といじめを受けてきた。どちらの世界に身を置いても`余所者 ‘ として扱われてきたのである。
幸い両親には愛されて育ち、可愛い妹や弟など同じ思いを持つ妹弟にも恵まれたせいで、曲がらずに家族思いの優しい娘に育った。
エルフである母親は事故で二年前に亡くなってしまい、一家の大黒柱である父親も病で今は仕事ができない。
家族の暮らしを支えていけるのはキルスティンだけなのである。母親から受け継いだ魔法の力を、欠かさずに磨いてきた甲斐があったというもの。
ルイス王子が魔導師を募集しているという話を聞きつけ、面接を受けたら見事に合格をした。合格理由は、魔法の腕が良かったのと一番若かったから……16歳である自分に対して、あと10歳若かったら良かったのにとのたまった。
思わず辞退したくなったが、報酬が格段に良かったのと、そんなに若い娘が好きならば却って手は出されないだろう、と踏んだからである。しかし、仕事の内容が幼くなったリリアーナ姫を攫う手伝いだったとは……。
最初に仕事内容を聞いていたらいくら何でも断っていたものを! 前金で報酬を半分受け取って、それももう手をつけてしまった為に今更断ることもできないし……
キルスティンが溜息をつきながら歩いていると、廊下の曲がり角で人とぶつかりそうになった。避けようとして身体を捻り、着慣れないドレスに足を取られる。
これ、転ぶ……
一瞬、魔法を使って体制を立て直そうしたが、相手に見られてはまずい事に気が付いた。魔導師だとばれてはいけない。魔法を諦め、転んだ時の衝撃に備えて背を丸めて目を瞑ったところで、伸びてきた手に支えられた。
「大丈夫ですか? キルスティン様」
このよく通る涼やかな声は――!
「カイト…様……!」
目を瞬いてよく見ると、腕の中に天使のように可愛らしい女の子を抱いている。一目でリリアーナ姫だと分かった。エルフ族の一員で、美形を見慣れているキルスティンでさえも思わず目を奪われる。
何という可愛らしさだろう! 白磁のような肌に輝くような金の髪。つぶらで海を想わせる蒼い瞳に、艶やかで可愛らしいピンク色の唇。名のある画家だったらこぞって描きたがるだろう。興味深そうにこちらを見ている仕草でさえ愛らしい……これはルイス王子が手に入れたがるわけだ。
「キルスティン様?」
カイトに支えられたままだったのを思い出し、紅くなって体勢を立て直した。
もう殆ど倒れかけていたから助けるのは至難の技だった筈。それを子供を片手に抱いた状態で、易々とやってのけた。
さすがリリアーナ姫付きの騎士――
「ありがとう。助かりました」
カイトはそれに一礼を返すと尋ねてきた。
「こんな場所でどうなさったのですか? 何か用事がありましたら承りますが」
カイトが振り返ると、すぐに後ろに控えていた若い侍女(フランチェスカ)がキルスティンの前に進み出てきた。
「あっ、いえ……ただ散策を……美しいお城ですから」
「カイト、この人は誰?」
二人の間に天使が割って入る。
「ルイス王子のご親戚で公爵令嬢のキルスティン様です」
「きれい……絵本で見るエルフみたい」
キルスティンは図星を突かれて表情に出そうになったが、我慢をして必死に平静を装い、スカートを摘んで膝を折り挨拶をする。
「初めましてリリアーナ王女殿下。私のことはどうぞキルスティンとお呼びください」
リリアーナは恥かしそうにカイトの肩に顔を伏せたあと、彼の耳元で何事かを囁いている。カイトが頷いて顔を上げた。
「キルスティン様、リリアーナ様は貴方を気に入ったそうです。抱っこをしてほしいと仰っているのですがよろしいでしょうか?」
リリアーナが少し恥かしそうに、カイトの腕の中から上目遣いでキルスティンを見上げた。
かっ…可愛い!! まずっ、鼻血出そう……!
「一体どうなっているんだ? いつもだったらもうとっくに居場所が分かっている頃だろう!」
「それが……見えないのです」
「見えない……?」
「はい。霞がかかったように邪魔をして……もしかしたらカイトというあの騎士のせいかもしれません」
「あのリリアーナ姫の婚約者のか?」
「はい。彼は戦いの神、カエレスの守護を受けています。それだけではない何かも感じるのですが、今の段階で詳しくは分かりません」
「カイトが結界でも張っているんじゃないのか?」
「いいえ、彼が故意にやっているようではないようです。私の力が及ばない何かを彼は持っているように思われます」
「そうしたら、リリアーナ姫を手に入れる事ができないじゃないか」
「私の力が全て無効化される訳ではないと思います。彼を少し探ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」
「許可する。大枚をはたいて雇ったんだから役に立ってもらわないと。せいぜいその美しい容姿も利用してみろ、上手く近付いて……たらしこんでくれると一番助かるな」
「……私は散歩と称して周りの様子を伺って参ります」
「ああ、誰かお付きの者を連れて行け。公爵令嬢が一人ではまずかろう」
「はい」
「それからその耳はちゃんと隠せよ! お前がエルフだとばれてしまうぞ」
「畏まりました」
キルスティンはルイスの下衆な態度に、内心はらわたが煮えくり返る思いであったが、雇い主である彼を罵倒するわけにもいかず、黙って尖った耳に手を翳して人間の耳に整えた。
彼女は人間とエルフの間にできた子供、ハーフエルフである。
ハーフであることでキルスティンは子供の頃から色々といじめを受けてきた。どちらの世界に身を置いても`余所者 ‘ として扱われてきたのである。
幸い両親には愛されて育ち、可愛い妹や弟など同じ思いを持つ妹弟にも恵まれたせいで、曲がらずに家族思いの優しい娘に育った。
エルフである母親は事故で二年前に亡くなってしまい、一家の大黒柱である父親も病で今は仕事ができない。
家族の暮らしを支えていけるのはキルスティンだけなのである。母親から受け継いだ魔法の力を、欠かさずに磨いてきた甲斐があったというもの。
ルイス王子が魔導師を募集しているという話を聞きつけ、面接を受けたら見事に合格をした。合格理由は、魔法の腕が良かったのと一番若かったから……16歳である自分に対して、あと10歳若かったら良かったのにとのたまった。
思わず辞退したくなったが、報酬が格段に良かったのと、そんなに若い娘が好きならば却って手は出されないだろう、と踏んだからである。しかし、仕事の内容が幼くなったリリアーナ姫を攫う手伝いだったとは……。
最初に仕事内容を聞いていたらいくら何でも断っていたものを! 前金で報酬を半分受け取って、それももう手をつけてしまった為に今更断ることもできないし……
キルスティンが溜息をつきながら歩いていると、廊下の曲がり角で人とぶつかりそうになった。避けようとして身体を捻り、着慣れないドレスに足を取られる。
これ、転ぶ……
一瞬、魔法を使って体制を立て直そうしたが、相手に見られてはまずい事に気が付いた。魔導師だとばれてはいけない。魔法を諦め、転んだ時の衝撃に備えて背を丸めて目を瞑ったところで、伸びてきた手に支えられた。
「大丈夫ですか? キルスティン様」
このよく通る涼やかな声は――!
「カイト…様……!」
目を瞬いてよく見ると、腕の中に天使のように可愛らしい女の子を抱いている。一目でリリアーナ姫だと分かった。エルフ族の一員で、美形を見慣れているキルスティンでさえも思わず目を奪われる。
何という可愛らしさだろう! 白磁のような肌に輝くような金の髪。つぶらで海を想わせる蒼い瞳に、艶やかで可愛らしいピンク色の唇。名のある画家だったらこぞって描きたがるだろう。興味深そうにこちらを見ている仕草でさえ愛らしい……これはルイス王子が手に入れたがるわけだ。
「キルスティン様?」
カイトに支えられたままだったのを思い出し、紅くなって体勢を立て直した。
もう殆ど倒れかけていたから助けるのは至難の技だった筈。それを子供を片手に抱いた状態で、易々とやってのけた。
さすがリリアーナ姫付きの騎士――
「ありがとう。助かりました」
カイトはそれに一礼を返すと尋ねてきた。
「こんな場所でどうなさったのですか? 何か用事がありましたら承りますが」
カイトが振り返ると、すぐに後ろに控えていた若い侍女(フランチェスカ)がキルスティンの前に進み出てきた。
「あっ、いえ……ただ散策を……美しいお城ですから」
「カイト、この人は誰?」
二人の間に天使が割って入る。
「ルイス王子のご親戚で公爵令嬢のキルスティン様です」
「きれい……絵本で見るエルフみたい」
キルスティンは図星を突かれて表情に出そうになったが、我慢をして必死に平静を装い、スカートを摘んで膝を折り挨拶をする。
「初めましてリリアーナ王女殿下。私のことはどうぞキルスティンとお呼びください」
リリアーナは恥かしそうにカイトの肩に顔を伏せたあと、彼の耳元で何事かを囁いている。カイトが頷いて顔を上げた。
「キルスティン様、リリアーナ様は貴方を気に入ったそうです。抱っこをしてほしいと仰っているのですがよろしいでしょうか?」
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