黒の転生騎士

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第十二章

腕(かいな)の中のリリアーナ 24  ルイスは2人の姉姫達を見て溜息を吐いた

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そして二日後リリアーナ私室前――

食べ終わった昼食の食器を載せたワゴンを所定の位置まで運び、フランチェスカが戻ってきた。
エヴァンが扉を開けてくれる。

「ありがとう」
部屋に入ると出て行った時のまま、リリアーナはソファで眠ってしまっていた。フランチェスカは侍女のシェリルに確認をする。

「眠ったまま?」
「はい、微動だにしません。余程お疲れなのでしょう」

くまさん柄のブランケットからは金髪が覗いている。本当にぐっすりと眠っているようだ。
フランチェスカはブランケットを掛けなおそうと近付いた。

今日は訓練場でカイトの模範試合が行われる日だ。訓練場は観客席もあり、ちょっとしたお客様に対応できるだけの広さと設備も兼ね備えている。
ルイスが観戦をするので、リリアーナには見にいけない旨を丁寧に説明した。残念そうな表情を見せたが納得をしてくれたので、ほっと安堵する。
万が一了承してくれなかった時のために、シェリルと二人体制でお世話に入ったのだが、そんな心配はいらなかったようだ。
そこまで考えてフランチェスカはおかしい事に気付く。微動だにしないどころか、まるっきり動かない……
慌ててバッとブランケットを剥ぐと、ウッチーと金髪の人形がそこには置いてあった。

「リリアーナ様がいないの! 貴方達見なかった!?」
フランチェスカが血相を変えて部屋を飛び出してきたので、エヴァンとジャネットが驚いて振り返る。

「見ていないぜ。出てきたのはフラン、お前とお前が押していたワゴンだけだ」
「ねえ、あのワゴン。白いシートで下まで覆われていたわよね? リリアーナ様だったら下の段に隠れられるんじゃないかしら?」

ジャネットの言葉にフランチェスカが顔色を変える。

油断していた! やけに素直に納得をしてくれたのを怪しむべきだった。ソファで眠っているように見せかけたのはいつからだろう!? シェリルを先に昼の休憩に出して、それから……
物思いはエヴァンによって破られた。

「フラン、考え込んでいる場合じゃない! お前はワゴンを確認しに行け! ジャネットはサイラス副団長に報告! 俺は訓練場に直行する! リリアーナ様はきっとそこに向かっているだろうし、アレクセイ様もイフリート団長も訓練場にいるからな!」

三人はそれぞれが目指す場所へとあっという間に散っていった。


その訓練場ではアレクセイを中心に、向かって左隣には金髪碧眼のルイス王子とキルスティン。右隣にクリスティアナとサファイアが座っていた。

「アレクセイ……クリスティアナ様にサファイア様も見目麗しいけど、とびきり可愛らしいリリアーナ王女はどうしたんだい?」
「お前の、そのけがらわしい視線に晒したくないだけだ」
「はは……君は昔から冗談がきついな」
「アレクセイ兄様、いくら何でも失礼よ」
「そうね、冗談ではない事をきちんと教えてさしあげなくてはね」
 
クリスティアナが注意をすると、無表情にサファイアが突っ込んだ。

「次が君とキルスティン様ご希望のカイトの模範試合だ」
「ああ、はいはい」

前述の通りルイスはカイトの空手の技が見たくて希望した訳じゃない。

そういえば、幼くなったリリアーナ姫を見たのも、武術大会だったな……。

話は武術大会の時に遡るが、勝利の女神としてキスをするリリアーナを偶然ルイスは見掛けたのだ。天使のような愛らしさに、ぷくっとしたほっぺ、柔らかそうな手足に、夜空に輝く星のようにつぶらな瞳。
呪いか何だかで、子供の姿になったと噂には聞いていたが、本気にしてはいなかった。それが実は本当で食べてしまいたいくらい可愛らしく、目にした日から瞼に焼き付いて離れない。
16歳の姿でも天使のように清らかで、充分許容範囲だったのだ。今からだと10年以上夢のような時間を過ごす事ができる。

ただ、困った事がいくつかあった。第一に彼女は婚約をしていること。第二に正式に結婚を申し込んだが断られた事。王子である私よりたかが騎士風情を取るとは忌々しい。そして第三に公の場に出てこないことだ。

公の場に出てこない事には、彼女と接することができない。調べによると彼女はカイトとかいう婚約者の騎士が大好きで(胸糞悪い)彼が出場する催し物だけは必ずと言っていいほど出席をしている。

だから今回も前もって空手の技や、模範試合も見たいと書簡に書いておいたのだ。観戦を希望すれば、もれなくリリアーナ王女に会えると思ったのに。

この2人か――
ルイスは2人の姉姫達を見て溜息を吐いた。

「ちょっと、いま見てたわよ! なによ、その溜息は!!」
「落ち着いて、サファイア」
「ありがとうクリスティアナ王女、君は気立てが良くて美しくて、後は若かったら本当に言う事ないんだけど」
「………」
 
さすがのクリスティアナも開いた口が塞がらない。

「兄様、いくら何でも酷すぎない?」
「学生の頃からこういう奴さ。絶対にリリアーナを会わせては駄目だ」

兄妹が心を一つにしているところに、そのぷくぷくほっぺのリリアーナがやってきた。
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